小説。 花火。
木田りも
花火。
小説。 花火。
…はここから始まる。
それはきれいですか?
はい。
それは美しいですか?
はい。
それは消えてなくなりますか?
はい。
それは私ですか?
いいえ。
それは花ですか?
いいえ。
それは絵画ですか?
いいえ。
ねえ
はい。
何か忘れてない?
いいえ。
何か忘れてない?
いいえ。
何か忘れてない?
いいえ。
何か忘れてない?
………はい。
プツンと電気が消えて人があははと笑い、閉店の準備をする街がシャッターを下ろす。そうして、人々が街から消え、暗くなった後、それは始まる。私たちはそれの存在を知らない。誰も知らない時間。私はたまたまそれに出会った。夜。友達と遊びやがてそれが終わり離れ離れになった後の静けさに打ちひしがれて私は当てもなく歩いていた。公園に行き、寝転がり、空を見上げた。
花火だ。空に花火がある。
人ではないそれらがみな空を見上げている。目のないもの。姿のないもの。形のないもの。みな空を見上げている。その中に私という体を持っているものが目を使ってその花火を見上げている。色はたくさんあって、カラフルでとってもでかい。光った後に音がして、音が消えて辺りには静寂。それを5度繰り返す。5度目が終わると朝が来る。花火も、何もかもが消えていて、私は自宅の布団で目を覚ますのだ。
昨晩のことはなんだったのか、と考えてまたそこに行きたいと思う。そのためには、また夜を待たなければならない。そのため私は夜にしか興味がない。花火は昼には見えない。たとえ見えたとしてもそれはつまらないものであろう。だから、私は自分が何者であるかを昼のうちに知る必要がある。どこから来て何をしているのか。私はどこの国籍の人間で何を食べて、親は何処にいるのか。そして今いるここの場所がどこなのか、私は右利きなのか、など。知りたいことがたくさんある。思考は人の感覚を鈍らせ、知識は鎧のように人の行動を制限する。できることに意味を考え、そこに損得を考え、得しないものはやらない、損をできるだけしないように、例えば身体があまり疲れないように休日は動かずまた、仕事の時のために休養するとか。
僕は何を待っているんだろう。やがて訪れる何かの転機?チャンス?待っていても始まらない。前進しなければならない。いや、後進でも良いが、前に前に、出るものに人は何かを与えたくなる。RPGゲームのように考えれば、レベルを上げれば倒せる敵が増えてストーリーが進む。そのためには経験値を貯めなければならない。経験値は敵を倒す経験を積むこと。それを体験しているのは私である。私がそういったゲームから学んだことを実践しないのはおかしい。だから、僕は待っていてはいけないのだ。動き出さなければ。
また、夜が来る。その時のために私は前進する。身支度をして家を出る。露店が並ぶ繁華街に繰り出す。あちこちで騒ぎ声が聞こえ騒々しいが、僕はこれから待ち受ける何かのために歩いている。目的を持って歩くと景色がまた違って見えてくるものであり、曖昧な景色に意味なんて必要ないんだって思う。僕はやがて見えてくる何かを待つためにベンチに座る。ここは絶好のポイントであろう。
人々は消えていき、僕と少しの人たちだけがまだここにいる。道端で寝ていたり、遠くで暴れてる人もいる。やがて訪れる静寂が近づいてくると、僕は立って空を見上げる。
花火だ。空に花火がある。
私はまたそれに出会うことが出来た。私は花火を待っていたんだ、なんて思い出した。もう私は、私である。きっと昼間とはまた違う瞬間であり、時が経つのがどちらかといえばこちらの方が早いだろう。
……遠くから子供の泣いてる声が聞こえた。風情がない。私にとっての至福の時間にジャマが入る。その間も花火は止まらない。時間は有限なのに、人々は意味のない足の引っ張り合いをする。死ぬ時に忘れてしまうであろう1日1日を損して生きているなぁなんてざっくばらんに思う。もっとこういう瞬間を大事にすればいいのに、5回目の花火が上がる。私は目を閉じてこの瞬間を大事に大事に、わすれないように。
……子供の泣き声が消えていない。
僕は嫌な気分で気がついた。あまり良く眠れなかったのかもしれない。嫌な気分で起きても生活は続き、止まることは許されないみたいだ。外からは子供の楽しそうな声が聞こえている。それがどこか耳障りでムカついたが気のせいだと思うことにした。僕はやはり良い人でありたい。朝起きた時になるべく良い気分でいたいため、物事を忘れようと努力している。
今日はお休みだ。休みの日は何しよう、何しようって考えていたら終わる。私は布団から飛び起きた。動く必要がある。簡単な身支度をして外に出る。街を歩いていると僕は気がつく。この風景どこかで見覚えがあるな、なんて。夢で来たところにたまに私は行ったりする。寂れたゲームセンターや、少し小さめのスクランブル交差点。夢の中に人はいないが何かがいることがわかるだけ。その何かによって私は存在しているんだなぁって感じる。
カァーカァーとカラスが鳴き始めるとそれは1日が経過していること。やがて訪れる夜になってやろうという気持ちが感じられる。外は段々暗くなり、目の前にいた人を忘れる。僕はまだこの世界にいたいのかもしれない。そんなに嫌な思いや気分しかしないこの世界にも、もう少しだけ生きていたくなるのかもしれない。しかし人は死を考えている時にはあまり死なない。むしろ、自分が今、死から遠いであろうと頭の中で無意識に考えている時に不意に訪れるものなんだろうと思う。それだからなのか、私は死を常に考えてしまう。死への異様な恐れが常にある。楽しいことをしている時、悲しい時、怒っている時、どんな時もやがて死につながるという考えは頭から離れない。僕は悲しくなって泣いているんだけど、何に対して、誰に対しての涙でもない。ただこの今の現状や、世界や人間はいつか死ぬという現実に泣いているんだと思う。
突然に!!!!
花火が鳴った。また、花火が鳴っている。
まだ僕のまま、花火が鳴っている。
初めて花火を見た。色はたくさんあって、とってもでかい。光った後に音がしてその後には静寂が訪れている。それはまるで人間の心臓。ドクン、ドクンの音がどんどん遠ざかる。人の死戦期呼吸というものだろうか。僕は泣いていた。当てもなく誰にいうわけもなく泣いた。大声で泣いて、泣いていて、顔がグシャグシャになって。夜なのか、朝なのかわからないが私は泣いていて、その時私は、後ろから痛みを感じた。
私は包丁で刺された。血がたくさん出てきていて、とても痛くて動けない。あぁそうか、死ってこういうことなのかって考えている。体の力が抜けていって、思ったより苦しくはないけど、とにかく力が入らない不思議な感覚。まだ花火は止まらない。今は4回目。4…死?かな。そんな言葉遊びをするっていうことは私の国籍は日本人だったのかもしれない。血を抑える時に右手で抑えたから私は右利きで、たぶん場所も日本なのだろう。不自由を感じないから。そのことを僕に伝えておこう。忘れないうちに。死ぬ前に私は僕にこれを伝えなければならない。死ぬ時は、こんな気分になって思ったより冷静に物事を考えられているんだよって。僕はきっと悲しむけど驚いて、死というものを少しでも克服してくれるかもしれないな。そうなったら嬉しいな。どうか、忘れないでね。
5回目の花火が鳴って、僕は同じ場所にいた。人が死ぬ時はどうなるんだろう。そんなことに興味を持った僕は試しに包丁を待って街へ繰り出した。そこである1人の人とすれ違った。その人はずっとそこで花火を見ていると言っていた。僕はこの人である実験をした。僕をこの人に投影してみる。この人が見ているものはなんなのかそれを考えてみることにしていた。ダメだったらなかったことにすればいい。
最初はなかなか上手くいかなかったが。僕はこの人のことを好きになり失いたくないとまで思っていた。さながらそれは恋だったかもしれない。ある日。その人は泣いていた。僕にとっての理想が崩れた瞬間だった。人は思ったよりも簡単に人の理想を壊し、人の期待を裏切る。僕は兼ねてから考えている死について集中した。その結果がこれだった。あなたを刺した後、あなたは笑って私に話しかけた。花火は見えた?って。僕は笑ってあなたに見えたよって言った。あなたはそれを聞いたら急に力が抜けたように倒れて動かなくなった。
僕は今でもそこに来て時々、花火を見ている。花火は見えたが、人ならざるものはまだ見えていない。あなたが言っていたものを見えるようになりたい。僕は今でもそう願っている。花火は5回。5回目が終わると……
わたくしは、自宅の布団で目を覚ましました。簡単な身支度をして外に出ることにする。
おわり。
あとがき。
常に死について考えているのは無論、私である。死というものは避けられないものであり、全ての人間にやがて平等に訪れる。先日、死は救済であるという、文をTwitterで見た時、そうでもしなければ人は生きていけないのだと思った。どんなにお金を持っていようと、どんなに権力を持っていようと死は必ず来る。人生において自分が死ぬ前に数多くの人が死ぬことになるのだろうが、今までそこに存在していたものが無くなるという感覚は、なかなか酷なものであるなぁとひしひしと感じている。
そんな思いでこの作品を書いた。書いている時は集中しているのだが、書きおわり今。あとがきを書いている最中、私は死のことで頭がいっぱいだ。私はまだきっと死にたくないのだろう。
読んでくれた皆様に心から感謝します。
ありがとう。
小説。 花火。 木田りも @kidarimo777
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