第55話 サッカー協会会長

初戦を難なく突破した日本代表は、ミーティングを終え、イタリア戦と同時刻に行われたカタールVS 中国戦の録画を見ていた。


監督、コーチ、選手一同目の前で流れる映像を齧り付くように見つめ、言葉を失っていた。


「おい、こいつらどうなってんだよ」


それがたった一人、傑を除き全員の共通認識だった。

試合内容は、終始一方的な展開で中国がボール支配率70%を維持し、

相手チームにほとんどボールを触らせない、パーフェクトゲームに近いものだった。


映像に映るのは、カタール陣地ばかり。

たまのロングボールで、もう片方が移るぐらいだ。


「あの技術に、あのスタミナ。どう考えても人間の域超えてるだろ・・・」

「こんな奴らに勝てんのか?」


傑という規格外を最も間近で見ているチームメイトたちでさえ、中国の選手たちの動きには困惑するばかり。

ただ、傑だけは違った。

彼は、試合の内容など頭に入ってきていなかった。


彼の目に映るのは、一人の選手のみ。

一際目立つ彼の顔を見た時、傑の脳裏にはあの研究所での日常がよぎる。


彼は、傑が実験のことを知ったきっかけとなった、注射の後が一際多く残っていた子供にあまりにも似ていたからだ。


「まさか・・・、あの時生き残った子供たち全員が・・・」

「どうした傑?」

「・・・・いや、なんでもない」


隣に座るチームメイトにも聞こえないぐらいの声でつぶやいた。

いや、そもそも声が出ないほど絶句していた。





「ふふっ、いい出来ね」


ある高級感漂う一室で試合を見ていた赤羽愛は、中国の選手たちの出来を見て笑みをこぼした。

彼女がたった一つの目的のため夫と始めた研究はようやく終わりに近づいていた。


「これで、ようやく・・・・」


愛は、その目に涙を浮かべ、これ以上ない喜びを感じていた。

まるで最愛の人の命が助かるかのような喜びだ。


「あっ、ここにいたんだ」


その部屋に男が一人、入ってきた。

部屋の内装に合うキッチリとしたスーツ姿で、愛とそんなに歳の変わらなさそうな外見をしている。


「あなたも見てた?」

「もちろん。・・・・ようやくだね」

「ええ、ようやく・・・・」


「「私(僕)たちの夢が、願いが叶う」」


二人は声を揃えそう言った。

なんせ、二人は同じ理想を抱く夫婦なのだから。


しばらく無言の時が続いていた部屋に、扉を叩く音が響く。


「どうぞ」


男が答え、秘書らしき女性が入ってくる。


。そろそろお時間です」

「そうか、ありがとう。すぐいくよ」


女性は一礼し、扉の外へ戻る。

彼の名前は、のぞむ


世界サッカー協会会長、その人だ。



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ある少年の軌跡〜サッカー界の悪魔〜 @konno0523

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