第54話 初戦
「さあ、いよいよ始まります!W杯日本代表の第一試合!」
これから始まる世界を熱狂させる試合の初戦。
開催国である日本の第一試合が、負ければ終わりの、国の荒廃をかけたトーナメントの始まりだ。
「日本代表初戦の相手は、マルコ・アントニオ擁するイタリア代表!!」
「初戦が優勝候補とは、とんでも無い大会になりましたね」
「ですが、今大会には佐伯選手はもちろんのこと、あの三条選手が選出されています!もちろん二人ともスタメン出場が発表されています!」
「ですね〜、私は早く彼らのプレーが見たくて我慢できそうに無いですよ!」
実況と解説の二人は、相手が優勝候補だろうがなんだろうが彼らのプレーを見れるだけで勝敗は大して気にしてなかった。
強いて言えば生で見られる回数が多いか少ないかの問題だった。
「お、ただいま選手たちの入場の準備が整ったとの情報が入ってきました」
「いよいよですね・・・」
観客たちもその情報を手にしたのか一段と歓声に熱が篭り始めた。
「おっ、選手たちがエスコートキッズと共に入場してきました!!」
次々と、選手たちが入場し、その度に大量のフラッシュが焚かれる。
そして、主審・副審たちの両隣に整列した。
「それでは、国歌斉唱を行います。皆様ご起立ください」
日本・イタリア両国の国家が斉唱され選手たちがコートに散らばった。
佐伯は、FWに。傑は、ボランチの位置についた。
「さあ、主審が時計を見ました。口元に笛を持っていき・・・」
ピィィィィィィィーーーーー!!!
「試合開始!!」
◇
マルコ・アントニオ視点
俺は、子供の時からサッカーの才能を認められ、最高の指導者、最高のチームに、最高の環境を与えられ、その才能を磨いてきた。
その才能は、日に日に光っていき、世界にも通用するようになっていった。
そんな俺にも敵わない憧れの選手がいた。
当時は、誰もがその選手に憧れを持ち一緒にプレーすることを夢見ていた。
だが8年前、いつもコートの外やテレビの向こう側で見ていた彼に初めて会った時失望した。
彼は、ボールを触ることをやめていた。
サッカーをやめていた。
そんなニュースは知らない。
噂すらもなかった。
だから、裏切られた気分になった俺は、詰め寄り訳を聞いた。
「悪魔だよ・・・・」
「悪魔?」
「ああ、彼に何もかも壊された。今まで積み上げてきたモノも、プライドも、何もかも・・・・。敵も味方も関係ない、全員が彼の操り人形だった・・・・」
それだけ言うと、彼は去って行った。
何を言っているのかわからなかったが、しばらくして彼の引退会見が行われた。
理由は、ケガだと言っていた。
そして、彼に憧れることをやめた俺は、代表の中心選手まで上り詰めた。
祖国の人たちは、彼を超える奴が出てきたと称えた。
いつしか、『イタリアの魔術師』とまで言われ始めた。
ワールカップの予選も俺が出た試合は全部勝った。
もうどこにも負ける気がしない。
初戦のジャパンにも何やらすごい奴がいるみたいだが関係ない。
勝つのは、俺だ。
◇
『2−0』
それが、後半30分に電光掲示板に表示されている数字。
勝っているのは日本。
イタリアの選手は、マルコに至るまで全員が困惑していた。
特にマルコは・・・・。
(なんだ、これは・・・。このやりづらさは・・・・)
(あいつだ。あの10番だ。ボランチのあいつだ!あいつが、動くと何もかもうまくいかなくなる。まるで、動きを全て操られてるみたいだ・・・・・!!)
”全員が彼の操り人形だった・・・・”
不意にその言葉が、マルコの頭に響く。
「あの男なのか・・・・?」
俺の、憧れを砕き、今度は俺自身を・・・・。
まるで、自分の手足のようにフィールドにいる20人を操っている。
「ああ、あれには”勝てない”・・・・」
その言葉が、脳裏をよぎった時点でマルコは完全に敗北していた。
イタリアの魔術師は何もできないまま、たった一人の悪魔に敗北した。
背後では、その悪魔が3点目を決め歓声に包まれていた。
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