早押し「これが答えだ文句あるか!」クイズ

snowdrop

これ

「本日の企画は、これが答えだ文句あるか! クイズです」


 クイズ研究部がつかっている教室の教卓を前に立つ出題者兼司会進行役の部員が、元気よく声を上げた。

 間隔を開けて横並び置いた机を前に座る、部長、副部長、書紀が待ってましたと、笑顔で手を叩いている。

 三人の前には、赤ランプの付いた早押し機がそれぞれ用意されていた。


「ルールを説明します。いつものように問題を出題しますので、わかった方は早押し形式でこたえてください。全部で五問、ご用意いたしました。正解すれば一ポイント、誤答による減点はありませんが、間違えますと問題の解答権はなくなります。最終的に一番多くポイントを取った人が優勝です」


 わかったー、と部長は肩を回して声を張り上げた。

 三人はボタンチェックを終え、前かがみになりながら早押しボタンに指をのせる。

 彼らの動作を確認しつつ、司会進行役の部員は手元の問題文を読み上げていく。


「問題。話し手のいる地点と状況をもとにしてものを指し示す機能を持つ語であり、特に代名詞や限定詞として用いられ、英語ではTHISと表される指示語はなんでしょうか」


 問題文が読み終わってから、最初に早押しボタンを押したのは部長だ。


「これ」

「正解です」


 ピコピコピコピコーンと正解を知らせる音が響き渡る。


「そういうことね、はいはい」

 部長は、ニヤッと笑う。

 でも、他の二人はまだわかっていない顔をしている。


「どういうこと?」書紀がたずねる。

「べつに」

 いひっ、と部長は歯をみせて笑う。

「こういうときの部長をみてると、すげぇー腹が立ってくるけど、わからない自分がもっと悔しい」

 副部長はあごに手を当てながら、歯を食いしばって首をかしげる。


「二問目いきます。問題」


 ピコーンと音がなる。

 まだ問題文がろくに読み上がっていないのに早押しボタンを押したのは、またしても部長だった。

 副部長と書紀は、目を丸くし、口をあんぐりあけて驚いている。


「これ」

「正解です」


 ピコピコピコピコーンと正解を知らせる音が、教室内に響き渡る。

 ようやく副部長が、「あー、なんだ、そういうことかー」ともらし、笑っては舌打ちし、ふうと息を吐いた。


「えっ、どういうこと?」


 まだ書紀はわかっていない。

 部長と副部長の顔を見るも、二人はふふふふと笑っているばかりだ。


「ちなみに部長は、どんな問題だと予想しましたか」


 司会からの質問をきいて部長は、真面目な顔でこたえた。

「そうですね、いくつか候補がうかんではいますが、ここでうっかり喋ってしまうと、このあと出てくる問題にも影響が出るかもしれませんので、差し控えさせてもらいます」

「そうですか」

 司会の部員は、残念そうに笑みを浮かべた。

 副部長は、「賢明な判断ですね」とだけつぶやいた。

 いまだにわからっていに書紀は、腕組みをして、口をへの字に曲げている。


「では次の問題にいきます。問題」


 またも、問題文が読み上がっていないうちに、手が動いた。

 早押しボタンの赤ランプが灯り、解答権を手にしたのは、書紀だ。


「これ」

「残念!」

 ブブブブブー、と不正解を告げる音が容赦なくなく鳴り響く。

 書紀の不正解をみて、副部長の目が大きく開く。


「では、気を取り直してもう一度はじめからいきます。問題。『若い娘』を意味し、ギリシア神話に」


 二人の手が動く。

 赤ランプが灯ったのは副部長の早押しボタンだった。


「これー」

「正解です」


 ピコピコピコピコーンと正解を知らせる音が、教室内に響き渡る。


「そろそろそういうのが来るのはわかってんだよ」

 書紀はやや怒り気味に、それでいて笑いながら文句を言った。


 司会進行役の部員は、口に手を当てて笑いをこらえている。


「わかってるんだったら、当てたらいいじゃないか」

 部長の言葉に、渋い顔をする書紀。

「法則がわかっても、いまみたいなのが来るから正解できないんだって。かといって、押さないと負けるし、負けるのは嫌だから押すけど答えられないし。嫌なループにハマってるぞ」

 書紀の隣席に座る副部長は、ニヤニヤ笑って聞いていた。


「ちなみに、どういうクイズかわかりましたか」

 司会進行役の部員に問われた副部長は、頭をかきつつ首をひねる。

「いや~、どんな問題かまでははっきりわからなかったけど、ギリシア神話に出てくる誰かの名前だと推測しました。そもそも先に部長に二問とられて、このクイズはそういうことだったかと気づいて、それでいくつか候補を考えていたんですけれど。書紀の誤答を見て、考えを切り替えることができたのが、正解につながったのだと思います」


 司会進行役の部員は、うなずいて聞いていた。

「なるほど。ちなみに先程の問題の続きはといいますと、『ギリシア神話に登場する、生と死との間を廻る大地の女神であり冥界の女王ペルセポネーの別称で、ゼウスとデーメーテールとの間に生まれた娘の名前はなんでしょうか』で、答えはコレ―でした」

 なるほどね、と納得してうなずく副部長。

 舌打ちする書紀。

 部長は「はやく、次の問題を」と声を上げて進行を急かす。


「では次の問題にいきます。問題」


 またまた問題文が読み上がっていないうちに、三人の手が動いた。

 早押しボタンの赤ランプが灯り、解答権を手にしたのは副部長。


「こーれ」

「正解です」


 ピコピコピコピコーンと正解を知らせる音が、教室内に響き渡る。


 あー、と声を上げて机にふせる部長。

 書紀は頭をかきながら、はあ~と息を吐いた。


「いまの問題はわかりましたか?」

 司会進行役の子に問われ、副部長はニンマリ笑ってみせる。

「問題はわからなかったけれども、コレ―のつぎにくるなら、こーれかなと思いまして、勝負に出ました」


 そうですか、と司会進行役はうなずく。


「ちなみに、先程の問題は『茎の白っぽいところを食べ、食感はシャキシャキヌルヌル、全国的にはウルイと呼ばれる山菜で、山カンピョウやギンボなど多くの別名がありますが、長野県ではこの山菜のことをなんと呼んでいるでしょうか』で、答えはコーレでした」


 へえ、と声を漏らす三人。

 彼らが知らない問題を出せて、司会進行役の部員は嬉しげに笑った。


「では、次が最終問題です」

 司会進行役の言葉に、

「ちょっと待った―」

 と手を上げて進行を止めるものが現れた。

 書紀である。

「このままだと、ぼくが逆転できないので、つぎ正解した人の点数を一万点にしてください」

「どうしますかね」

 司会進行役は、部長と副部長に意見を求めた。


「べつに俺はかまわない。早押しで勝てばいいだけだから」

 部長の言葉に、

「そうですね。ぼくも部長とは同意見です。早押しを制したものが勝つでしょう」

 副部長も賛同した。


「というわけで、最終問題を正解したひとに一万ポイントととします」


「よーし、これで優勝の目が出たぞ」

 書紀がやる気をだして、早押しボタンに指をかける。


「ではいきます。問題」


 問題文が読みはじまってもいないのに、早押しボタンを押した。

 しかも、押したのは書紀ただひとり。

 部長と副部長は、押す気配すらなかった。

 二人の様子が気になるも、書紀は解答を口にした。


「こっれ」

「残念、不正解です」


 ブブブブブブーっと、不正解音が教室内に鳴り響いた。


「最後の問題が、そんな簡単ではないだろうと予想はついてた」

 部長のつぶやきに、

「焦り過ぎだって」

 副部長が書紀をたしなめる。

 書紀は下唇をつきだして、ぶーっと息を吐いた。


「では気を取り直してもう一度。問題。プレイヤーは航空母艦・戦艦・巡洋艦・駆逐艦・潜水艦などの艦艇が女性に擬人化」


 早押しボタンの赤ランプが点灯。

 先に押したのは部長だ。


「これ」

「正解です」


 ピコピコピコピコーンと正解を知らせる音が、教室内に響き渡る。


「よっしゃー」と拳を固めた両手をあげる部長。

「負けた~」

 副部長は、机に突っ伏した

 書紀は黙って、勝者に拍手を送った。


「ちなみに、問題の続きはといいますと、『女性に擬人化された艦娘と呼ばれるキャラクターを集め、一艦隊につき最大六隻編成して敵と勝利を目指す育成シミュレーションゲームの公式略称を艦〇〇といいますが、〇〇に当てはまる言葉はなんでしょうか』でした」

 司会進行役からの説明を聞いて、

「おもった以上に最後は簡単でした。ラストは艦これの『これ』がくるとはおもってなかったですけど、正解できてよかったです」

 ふふんと得意げに部長は笑った。


「ちなみに、二問目の問題はどう予想しましたか」

 司会進行役からの問いかけに部長は、そうですねと前置きし、「ラストが艦これだったから、パリコレの問題だったんじゃない?」と答える。


「そのとおりです。二問目は『世界四都市で開催されるファッションウィークの一つで、特別注文の衣装を手がける老舗高級ブランドをはじめ、服飾デザイナーや既製服メーカーなどが新作発表と受注会をかねて開催する、世界最大級のファッションショーが年二回、フランスのパリで行われている展示会を日本では通称、パリ〇〇といいますが、〇〇に当てはまる言葉はなんでしょうか』という問題でした」


 司会進行役からの説明をきいて、なるほどねと部長はうなずいている。


「というわけで、本日の勝者は部長でした」


 参加者は、手を叩いて勝者の部長を称えたのだが、約一名、首を傾げてふてくされた顔をする人がいた。

「艦これ、かよ」

 書紀は頭を息を吐く。

「ラストは、イタリア語で丘の意味の『コッレ』が来るとおもったんだけど、ちがったのか」

 はあ~と大きなため息をついては顔を上げ、首を振って司会進行役に指をさす。

「いや、やっぱり納得いかない。なんだよ、この問題は」


 顔をしかめて不機嫌そうな書紀を前に、司会進行役の部員は落ち着いて、こう述べた。


「本日の企画は、これが答えだ文句あるか! クイズです。文句や苦情は一切うけつけておりませんのであしからず」


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