重なる稀有な巡り合わせ
「うぅ……あの男……許さん」
ぼやいた私に吉野先輩は楽しそうに問いかける。
「それで? 良一とは仲良くなれそう?」
「さっきまでなれそうだったけどもう無理かも」
本当はわかっていた。私はあの人と直ぐに仲良くなれると。
「眠り姫はご機嫌斜めか。まぁあいつならなんとかするだろ」
眠りとついていても姫と呼ばれるのは意外と悪くないかも知れない。竹辺君が先輩から絶大な信頼をされていることが少し悔しくて、少し羨ましくも思えた。それは、2人が過ごしてきた時間がそうさせたのだろう。
「今週の日曜って暇? 土曜が練習試合だから日曜部活休みなんだ。遊びに行かない?」
喜びが、お腹の底から沸き上がってくる。
「うん」
嬉しすぎて言葉が出てこない。なんとか返事してニヤケる口元を手で隠した。
「良かった。それじゃ部活あるから。また明日ね」
「うん、また明日」
私はそっと自分の胸に手を当てた。心臓が、強く早く脈打っている。掌に伝わる喜びが胸を熱くする。
もしも、あの日彼が横に座らなければ。
もしも、あの時私がスマホを落とさなければ。
もしも、彼が電話に出ず駅員にスマホを預けていたら。
私は今、どうしているだろうか。
あの頃考えていたことを思い出すと寒気がした。
どんなに辛いことも一生つづくわけではないし、いつどんな出会いがこの先待っているのかだってわからない。
私はもっと君に感謝すべきなのかもしれない。手紙の中でならきっと私は素直になれる。今日の手紙は枚数が増えてしまいそうだ。そんなことを考えると、体がポカポカとしてきた。
「うん、やっぱりなんだかいい気分!」
私は両の拳を空へと伸ばし、確かめるように呟いた。
私はいつものように一人ぼっちで帰路に着いた。
翌日、昼休みになるとなにも考えず私は体育倉庫へと向かっていた。
扉を開けて挨拶しながら入ると、
「おじゃまー」
「いや、しますくらい言えよ。あと3文字だろ」
「あの、初めまして」
軽快なツッコミの後、不安そうな声が聞こえた。声の方へ視線をやると、知らない男の子が増えていた。だけどその顔にはなんだか見覚えがあるような気がした。
「え、誰?」
「いやいや今学校中で話題の人じゃん。生徒会長に立候補した
竹辺君は簡単な説明をしてくれた。
「あぁ」
だから記憶に残っていたのか。私の呆けた納得が口からこぼれた。
「で、なんでそんな人がここにいるわけ?」
私は余計に混乱していた。
「カツアゲされてたから助けてそのまま連れてきた」
説明をしたつもりなのかは知らないけど、私の頭は混乱に次ぐ混乱で理解することを諦めてしまった。思考を放棄し詳しい説明を要求した私だったが、ここまで話が長くなるとは思ってもいなかった。
カツアゲをしていた奴らを追い払い、梅林君から事情を聞いた竹部君は有無を言わさずここに連れてきたという。
彼の抱える事情とは、少々厄介なものであった――。
隣り合う確率[長編版] 詩章 @ks2142
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