ある日のオタ女子会
高山小石
アニメのグッときたOP・ED
「久しぶりの~オタ語りのお題は~、どろどろどろどろ、じゃじゃーん! 『アニメのグッときた
「いえーい。どんどんパフパフー」
「いよっ。待ってましたっ」
年甲斐もなく、すでにテンションマックスで始まったのはオタク女子(というには
学生時代は幼馴染三人でお菓子を片手に気ままに話すだけだったのが、だんだん萌え語りになっていった。社会人になってからは、さすがに人目のあるところでのオタトークは控えるようになり、自然と恋愛談義や会社の闇ネタ披露会となった。
それぞれ家族ができてからは、誰かの子どもが小さいうちはおいそれと集まることもできず、ようやく子連れで集まれるようになったと思ったら、コロナ禍になって会うことすらままならなくなってしまった。
それならそれで各家のPCを通して、久しぶりに、外では語りにくい開けっぴろげなオタトークをしようではないか、となったのだ。
そんなわけで、オタク女子三人は開始前から、久しぶりのオタトークに期待でテンションマックスだった。ふだんは口にこそしないが、萌える想いはいつだって、あふれんばかりに詰まっている。
この幼馴染三人のオタトークルールはみっつある。
さえぎらない、否定しない、押しつけない。
みっつのルールを守りつつ、いかに自分の好きなものを布教するかが
もちろん一般的なオタトークにそんなルールはない。
ただ、この三人は幼馴染かつ腐れ縁のため、幼稚園から大学まで学校が一緒で、何度もケンカを繰り返してきた。そのうちの一回に『暗黒の一ヶ月』というくらい三人とも酷い日々を送ったことがあり、各々反省して、たとえただの萌え語りだとしても(往々にしてそれはかなり熱いものだったが)、この三人でのオタトークではルールを守ろう、という誓いが結ばれたのだった。
仲直りして誓いが結ばれたのが近所の公園だったので、『公園の誓い』と呼ばれている。
『どうせだったら海とか山とか、もっと名のある綺麗な場所が良かった~』
『ケンカした状態でそんなとこにわざわざ行って出会えるわけないじゃん!』
『……(そもそも名付けなければ良かったのでは?)』
ルールを決めても会話がとっちらかってしまい、一人が何時間もマシンガントークを繰り広げる中、残り二人はしらけているような状態などにならないよう、ガッツリオタトークをしたいときは、事前にお題を決めるようになったのだ。
「はい! 一番インパクトのあったOPは『新世紀エヴァンゲリオン』の『残酷な天使のテーゼ』だと思います!」
別に挙手したり『はい』と言わずともよいのだが、一番手は、いつからかそうするようになっていた。
「それな! コマ送りで見るために、初めてハイクオリティ録画した!」
「OPカットが敷き詰められている下じき買ったわ~!」
三人の頭の中で、素早く移り変わっていく映像と共に情熱的な懐かしい歌が再生される。
「はいはいは~い! 私のファーストインパクトは『美少女戦士セーラームーン』の『ムーンライト伝説』で~す!」
おそらくこのままエヴァの新作映画の話に持っていきたかったであろうところを、隙をついた形でエヴァからセラムンに話題を移した。この場合、インパクトつながりなので相手の語りを遮ったことにはならない。
「あぁ。確かに」
「学校ぐるみで歌ったり踊ったりもしたなー。『月にかわって~』」
「『おしおきよっ』」と、それぞれ作ったアニメ声をそろえて同じ決めポーズをとる姿がPCモニターに並ぶ。昔取った杵柄と言ってもいいのか迷うところだ。
それはともかく、このように相手の語りを直接的には遮らず、いかに自然に話題を自分の語りたいネタに転換するかが、この幼馴染オタトークの醍醐味だ。
「学校で踊るっていったら、『妖怪ウォッチ』の『ゲラゲラポーの歌』じゃないか?」
「それは今の子でしょ。私たちなら『ちびまる子ちゃん』の『おどるポンポコリン』とかー」
「初代プリキュアの『DANZEN!ふたりはプリキュア』かな~」
「プリキュアは歌詞がプリプリキュアキュア言いまくるのがいいよねー」
「あぁ。あのアニメのためだけに作られてるのがたまらない!」
「名曲がありすぐるよね~!」
しばらくプリキュアのどのOPのどこが好きだの、どのEDのどのダンスが好きだの、今期のプリキュアは誰推しだので盛り上がった。子どもと話を合わせるために見ていると堂々と言いわけできるので、生放送をじっくり見ることができ、みんなすっかり詳しくなっている。
さらには他の女児向けアニメや世界名作劇場にまで話は広がっていった。作品タイトルが歌詞に使われている曲は多い。
「『
「ドラゴンボール!!」と、そのままドラゴンボールのOP『魔訶不思議アドベンチャー~ドラゴンボール~』を声を合わせてテレビサイズで歌う三人。
「びっくり~、今でも覚えてるもんなんだね~」
「歌いまくったもんねー」
「リコーダーでも吹いてた」
「『CHA-LA HEAD-CHA-LA』も燃える!」
「ピッコロさん!」
「尊い!」
瞬時にOP映像を思い出し、さらにエピソードを反芻して思わず涙ぐむ三人。ちなみに三人ともアルコールは一滴も飲んでいない。泥酔OKな家にいながら、手元にあるのは喉がかすれて話せなくなるのを防ぐためのノンアルドリンクと好きなお菓子のみである。
「やっぱOPはガーッとくるのがいいよね。『創聖のアクエリオン』は神!」
「わかる!」
「あのサビへの盛り上がりはヤバい~!」
一人がサビの皮切りを歌い出したあと「あっいっしってっる~」の部分から三人でサビを合唱した。ノンアルドリンクが進むすすむ。
「『カウボーイビバップ』も神!」
「確かに~!」
「EDも渋カッコ良くて好きだけど、やっぱOPの『Tank!』! 映像も曲もオシャレカッコイイ!」
ビバップは全部神曲すぎるよね、と盛り上がる。
「なんとなく似ているつながりで『血界戦線』の一期ED『シュガーソングとビターステップ』」
「『ボールルームへようこそ』のOP『10% roll, 10% romance』も好き!」
「『
今度はアーティストつながりだ。
「歌詞をついつい深読みしちゃうよね~」と、しばらく萌え語りで盛り上がる三人。
「そういや最近ってなに見てる?」
「『不滅のあなたへ』を三度見してる」
「あれはスゴいよね~。一話目は『PINK BLOOD』が涙でかすんでヤバかった~」
「二話目以降はOPの『PINK BLOOD』見ながら前話までを思い返して、余韻にひたりたいからEDも毎回とばさずに見ちゃう」
「あれのEDは歌詞がなくて正解!」
「宇多田ヒカルって、宇多田ヒカルという自分で思考して作曲も演奏もできる楽器かな?」
「あぁ~」
「わかる!」
「めちゃめちゃ作品と合ってるつながりで、『BANANA FISH』の『Prayer X』」
「原作知ってたからか、それ最初聞いたとき鳥肌立った」
「不憫すぎて泣ける~」
「アニメで初めて『東京グール』知ったけど、OPの『unravel』聞くたびに『あ゛~』ってなる」
「わかる」
「まさに主人公の心の叫びだよね」
「心の叫びといえば、『神様ドォルズ』のOP『不完全燃焼』」
「OP映像カッコ良いヤツだ~」
「アニメいいとこで終わってたから思わず原作買っちゃった」
「はいはーい! 『僕だけがいない街』OPにひかれてアニメ見て続きを早く知りたくて原作一気買いしました!」
「『Re:Re:』は
「OP映像が意味深だし、ちょこちょこ変わるから飛ばせなかった」
「それ用に作ってないのに激ハマりといえば、『あの日みた花の名前を僕たちはまだ知らない』のED『secret base~君がくれたもの~(10 years after ver.)』。すでに切ない歌って知ってたけど、さらに切なくなったよ~」
「うんうん!」
「なんていうんだろ? なんか過ぎ去った感? 別離感? がある」
「『かくしごと』のED『君は天然色』もなんかこう、過去を感じるよね」
「わかる! それがまた
「なんでだろう? どっちもすでに流行ってて聞いたことあったから~?」
「うーん。うちらにとったら、青春がすでに過去だから?」
「どっちも違う気がする。青春ぽい曲は今聞いても青春ぽく感じる」
「なんか不思議だよね~」
「不思議といえば、『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』のOP『inner universe』」
「あぁ~。今ではまさに攻殻って感じがするけど、最初衝撃的だった」
「歌詞聞き取れないけど、
「あー、『ダンダリアンの書架』のOP『Cras numquam scire』も好き」
「あ、字幕ついてる異国語のヤツか」
「歌いたいけど歌えなくて、日本語訳の歌詞で歌ってたわ~」
わかる、自分で再現したくなるよね、とひとしきり頷き合う三人。
「『絶園のテンペスト』のOP『Spirit Inspiration』の映像がカッコ良くってさ~」
「あー。キャラクターが切り替わっていくのがいいよね」
「でも英語歌詞だから歌えないというオチ」
再び、あるあると三人は頷き合う。
「キャラが切り替わるといえば、『バッカーノ!』のOP『Gun’s&Roses』や、『デュラララ!!』の『裏切りの夕焼け』も格好良かった!」
「わかりやすく名前も表示してくれるのが大変ありがたかったです!」
「どっちもキャラ多いもんね~」
「あー、なんでか私、『魔法少女 俺』のED『硝子の銀河』が耳に残ってる」
「なんか残るのってあるよね~。私は『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%』の『マジLOVE1000%』だなぁ。しょっぱなでアレ見た時の衝撃が忘れられない。本気でライブ会場かと思ったもん。もっと大画面でじっくり見たい~」
「私は『イクシオンサーガDT』の『DT捨テル』と『レッツゴーED』」
「待て待て待て! 文字通りだと色々ヤバいから!」
「あは~。アレは面白いよね。さすがゴールデンボンバー! もっとツッコみたいけど時間そろそろヤバそうだから、ここらでお開きで~す」
「異議なし!」
「異議なーし」
「あ~、でもまだまだ全然、語り足りないよ~」
「楽しい時間はあっという間だよねー」
「数年ぶりだから、一晩あっても語り尽くせる気がしない」
「次はアニメのOP・ED縛りやめて、挿入歌とゲームも入れてよー!」
「え、マジか~?」
「これ以上カオスにする気、だと?」
「まぁ次回に期待だね。こんな感じでまた集まろうよ~」
「今度はもっと早めにしよー」
「たまっちゃうからな」
「発言ー!」
挨拶のあとPCを切った三人の表情は、数時間話し込んだ後とは思えないくらいツヤツヤしていた。
しばし現世を忘れて二次元の世界を飛び回っていた三人は、夢から覚めたようにおもむろに立ち上がって伸びをする。
「よし!」
部屋から出たその口元には懐かしい一曲がハミングされていた。
おしまい
ある日のオタ女子会 高山小石 @takayama_koishi
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