前日譚:第五話

「椿、準備出来た?」

「うん、ばっちりだよ。それじゃあ行こうか」

 車に乗り込み、駅へ向かう。

「楽しみやわぁ」

「ずっと色々考えてたもんね」

 他愛のない話をしながら車を走らせ、駅に着き。駐車場に車を停める。

「うっ、やっぱり寒いなぁ」

「駅の中入れば多少は温かいやろ、冷える前に行こうか。そろそろ着くみたいやし」

 小走りで駅の中に入る。

 遠くから少しずつ電車の音が聞こえてくる。

 ……電車が止まり、ドアの開く音が遠くから聞こえる。

 こんな小さい駅にしては珍しくガラガラガラ、とキャリーケースを引きずる音がする。

「あ!桜ちゃん久しぶりー!」

 お母さんは改札の中の少女に手を振る。それは――

 ――桜さんだ。

 初めて会うはずなのに、写真でしか見たことがないはずなのに。

 なぜか、どうしてか。とても懐かしい気持ちがこみ上げてくる。

「――娘連れてきたのよ」

 と、お母さんの声がするまで思考がこんがらがっていた。

「こんにちは。私は桜、あなたは?」

「椿です、お母さんがいつもお世話になってます――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

母の娘に恋をする。 るなち @L1n4r1A

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ