山手線おんな

ブンカブ

山手線おんな

「それじゃ君は犯行の一部始終を見ていたんだね?」


 駅の構内で警官の質問にあっていたのは、都内の大学に通う女の子だった。


「はい、それはもう、あますところなく全て」


 この日、JR山手線やまのてせんが一時間ほど止まった。ある男が『車内に爆弾を仕掛けた。 電車を止めたら爆発させる』と電話をかけたからだ。 ところが、その男が爆弾を仕掛けた場所は彼女に見られていた。ついでに顔と特徴も覚えられていたので、男はすぐに逮捕された。


「おかしな男だと思っていたんです。挙動が不審でしたし。だから私、彼の後を

こっそり追ったんです」


 彼女は満面の笑顔で答えた。


「すばらしい洞察力だ! 君の勇気は市民の模範だよ。でも、その“おかしな男”が 入ってきた駅から出て行くまで山手線ほぼ一周だ。もしも君が男より早く降りていたらと思うと––––」


 警官は思わず感心しつつも、あり得たかもしれない最悪の事態に体を震わせた。


「いえいえ、それはありえませんよ〜」


 彼女はニッコリと微笑むと言葉を続ける。


「だって私、さっきので山手線12周目ですから」


 さて、本当の不審人物はどっちだったのだろうか。



《終わり》

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