しがない浪人の備忘録

定期的不定期

第1話 誕生日

1年前を思い出す。あのときは、ほんの一瞬の些細な日常の1ページに過ぎなかった。そのときの違和感、それをつかみきれないから未だにぐずぐずしてるんじゃないか?



誕生日という日は苦手だ。元々主役になるようなタイプじゃないし、祝ってくれた、祝ってくれなかった、覚えててくれた、覚えててくれなかったなど自分の中に無意識に作り上げてしまう序列。変に期待してしまった挙句、結局毎年後悔する。そんな自分を自分で慰める日。誕生日はそんな日だ。どんな人生を辿った人間に誕生日パーティーやサプライズ何てものが待ってるんだろう。どうして自分はそうじゃないんだろう。いつもの自問自答が加速するばかりで何も変わらず歳を重ねる。去年もそんな一日だった。その当時はそう思っていた。


「お誕生日おめでとう!」

朝起きると母は嬉しそうにそう言ってくれた。

「ありがとう」

毎年同じ顔と同じトーンで言われて同じような会話をしているような、そんな誕生日当然の既視感を1年ぶりに感じながら僕は返す。

「今日は何時に帰ってくるの?」

毎日同じ時間に帰ってくるのだから毎日聞かなくてもいいのになと思いつつも、今日が自分の誕生日で、そのためにいつもよりも手を掛けて夕飯を作ってくれるのだろうことを考える。

「いつもとおんなじ~」

「はーーい」

1回くらい友達でも呼んでパーティーを開きたいものだなあ。そんな妄想もこの歳になると直ぐに宙に消える。

(今の幸せを大事にしなさい)

ないものねだりはよくない。そうやって自分を正当化して、己の成長欲求を抑え込むことで自分が傷つくのから守る。

(部活の友達からはコンビニのお菓子くらい貰えるかな…)


いつもより余裕を持って家を出る。祝いのLINEが来ないだろうかと早起きしたおかげだ。期待を超えずテンプレートの絵文字と言葉を見ながら、僕は最寄り駅に向かった

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