郵便配達


「最近、ここらで失踪事件があったんですって」

「あら、私もそれ聞いたわ。急にバイトに来なくなって、部屋に行ったら…」




自転車を漕ぐ傍ら、そんな井戸端話を聞き流しつつ急ぐ道。

すでに陽の傾きつつある現時点で、鞄の中はずしりと重い。

慣れない道に大幅に後れを取ったとはいえ、責務は責務。待ちくたびれているだろう便りたちにあと少しの辛抱だと軽く叩けば、商店街、路地、やがて住宅街へと縫うように配していく。




やがて疲れが足に溜まるにつれ、思い出すのは先程の会話だ。

噂好きの女性達の、可哀想だと言う同情の言葉に自分も少し、チクリと心を傷めた。




けれど、あと少し。とっくに降りた帳を纏い、遠目に黄昏の残滓を留めながら一歩一歩、錆びた階段を上がればテープを引き千切って。






「ほら、お家だよ。よく頑張ったね」




ずしりと重い、彼女の髪を手櫛で整えれば畳の上へ。


月明かりと黄昏の混じった光を浴びる彼女は美しくて、その瞬間全ての苦労が報われる。




けれど、いつまでも見惚れてはいられない。












「――こんにちは。いつもこのお時間ですが、指定のないお荷物もこの時間で宜しかったでしょうか?」




さあ、次の配達だ。








 

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妄想蒐集 六宗庵 @keinxpulse

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