2 巨大なめくじ

 神様との会話が終わり、どのくらいの時間が経ったのだろうか。

 意識が戻り始めた俺は、そんなことを先に思い返した。

 ただすぐに今の自分に何が起こっているのかと疑問を持つことになってしまった。


 それはというと、現在俺の顔をぬめぬめと舐めている何かの存在があるのだ。

 目を開けないとその存在を確認することができないのだが、目を開けてその存在を確認をしたくはないのだ。

 いやうん、普通に怖い。

 しかし、その存在を確認しなくてはどうしようにもならない。


 恐る恐ると俺はゆっくりと目を開けていく。


 ――それと、目が合った。


 あ……終わっちゃった……。

 あ、俺が何と目が合ったのかを説明しなくてはいけませんね。

 俺が何と目が合ってしまったのかというと、巨大ななめくじのような生き物とだ。

 あれ? 俺って来る世界間違えちゃったのかな? 神様、間違えちゃったんですかね?


 しかし今更思ったのだが、なめくじに目はあるのかな?

 見た限りだとなさそう……じゃなくて、この状況どうすればいいのだろうか……。

 なめくじみたいな巨大な生き物に目を覚ました瞬間舐められてるとかそんな状況になったことなんか今まで一度もなかったので、焦ってしまった頭の回転が上手くできない。


 ついでにもう一つだけ思ったんだが、舐められているっていう表現もどこか違和感を覚えてしまう。

 舐められる、ではなく、べとべとした粘着液的なものをつけられている、という表現がしっくりくるかもしれない。

 どちらにせよ、この状況は非常にまずいような気がしてきた。

 このままこのなめくじみたいな巨大な生き物に乗っかられてしまっていると、体が溶けてしまうんじゃないのかと。

 なめくじが食べるものを溶かして食べているかは疑問だが。


 いやまあ、どちらにせよ今はこの状況をどうにかしなきゃいけない。

 このままこんな状況を続けていても体が臭くなってしまいそうだ、今もこの生き物から臭いにおいが出ているから。

 早くこの状況から抜け出さねければいけないなぁ。


 ……。

 …………。

 ………………。


 え、どうやって⁉ どうやってこの状況から抜け出せと⁉

 とりあえず、考えるんだ。

 神様からもらった創造創作の能力なら……いや、そもそもそれをどうやって使うのかが俺には分からん。

 使えたとしてもどうする? 何を作ればいいんだろうか。


 しばらくの間、この場面を打開する方法を考えに考えまくったのだが、打開策を閃くことはできなかった。

 その対価としてか、顔の方にまでなめくじみたいな巨大な生き物が迫ってきている。

 うん、やばい。


 もうこれはアレだろうか、異世界来てからの第二の人生はなめくじに殺されて?終わってしまうのだろうか?

 自由に生きることなく、終わってしまうかな?

 どちらにせよ、それだけはもの凄く嫌なんですけど。

 神様、なんでこんなことになっているんですか!

 だがまあ、心の中でつぶやいたところで俺の言葉は神様に届くはずはないだろうし、神様が干渉していることもなさそうだ。

 干渉しているなら、声が聞こえそうな気がするからな。


 拝啓


お父さんとお母さん、あと神様へ

 俺は異世界に来ましたが、第二の人生はなめくじによって終わりそうな気がしています。

 楽しかったどうかは異世界でまだ第二の人生を始めていないのでわかりませんが、来世ではなめくじ恐怖症に目覚めてしまうんじゃないのでしょうか。

 では、さようなら (?)


                                   敬具


 日付はわかりませんので、申し訳ないです。

 式神紅来 21歳


 心の中でそんな文章を読んだ俺は、もう抗うこともやめてしまい静かに目を閉じる。

 ゆっくりと、もの凄くゆっくりとだがなめくじが俺の体全体を覆いつくそうとしているのがわかる。

 まだ時間がかかりそうだが。

 だけどこのなめくじが重すぎるしべとべとで体が思うように動いてくれないので、逃げることはあきらめてる。

 そういうわけで、俺は意識がなくなるのを静かに待つことに。


あぁ……てか、普通に寿命で力尽きたかっ――。


 「大丈夫ですか?」


 そこまで思った時、俺は少年の声を耳にする。

 なんだ、と思いながら目を開けてると、そこには高校生くらいの少年が剣を片手の俺を心配そうに見ていた。


 そこでふと、なめくじの存在を思い出した。

 少年から視線をそらしてなめくじがいたはずの方向を見てみると、なぜか跡形もなくいなくなっていた。

 代わりに俺のお腹あたりに紫色の石のようなものが置いてあって、少し視線をずらした地面のところには緑色の液体が満杯に入っている小瓶のようなものが置いてあった。

 なんだこれ。


 「あ、さっきの魔物は倒したので大丈夫ですよ」

 「そう、なんですか?」


 というか、さっきのなめくじみたいなやつって魔物だったのか……なんか怖いなぁ。

 あ、てか俺の体って今臭いからやばいじゃんか。


 「あのー、助けてもらってありがとうございました。それとなんですけど、さっきのなめくじみたいな魔物に乗っかられていたので、俺の体多分臭いので近寄らない方がいいと思いますよ?」


 そんな俺の説明を聞いた少年は首をかしげる。

 そして「あっ!」っと口にした。


 「ちょっとだけ待っといてくださいね」

 「あ、分かりました」


 すると少年は剣を腰の近くにあった鞘へと直して、俺の方へ近づいて手をかざしてきた。

 なにをするんだ、と思ったのも束の間で少年は口を開いて言葉を口から出していく。


 「その者の体を綺麗にせよ リフレッシュ」


 不思議な言葉というか、なんというか、異世界で言うところの魔法なんだろうと一瞬で思った。

 少年がリフレッシュと最後まで口にした瞬間、少年がかざしている手から水色の魔法陣が現れる。

 そして気が付いた時には、俺の体に合ったはずのなめくじ魔物からもらったぬめぬめしていたものは消え失せ、体から出ていた臭いにおいまでもが消え失せてしまっていた。

 不思議な現象を目の当たりにした俺は、感動をしてしまう。

 本当に異世界に来たんだって。


 「これでもう大丈夫ですよ」


 にこやかな笑顔を見せてくる少年を見た俺は、この少年は主人公みたいなキャラなんだろうなと思ってしまった。

 いやまあ、めっちゃかっこよく見えるんだもの、男の俺からしても。


 「……」 


 主人公らしい少年を見つけてしまった俺は静かに見続けてしまう。


 「どうかしましたか?」


 そんな俺に疑問を持ってしまったのか少年はきょとんとした表情をしてくる。

 あ……主人公らしい少年は却下にして、美少年でした、はい。


 「あ、いや、ありがとうございました」

 「いえいえ。目の前で魔物に襲われてるのに助けないなんて、僕にはできませんで」


 おぉ、なんてとても優しくて他人想いな美少年なのだろうか。

 髪も見てみればもの凄くサラサラしているし、女性のような髪質をしているような気がする。

 もしかすると美少年ではなく美少女なのかもしれないな、見た感じ的になのと体の作りとか着ている服的にそんなことはないとは思う。


 「優しい方なんですね」

 「そうじゃないんですけどね。ありがとうございます」


 謙遜をするところもなんというか、良い人そうだな。

 でもなんだろうか、どこからか俺と同じような雰囲気?的なものを感じるような気がするな。

 同じような雰囲気?的なものっていうのは、日本で生まれているっていう感じのものだ。

 そんな考え事をしていると、美少年が手を差し伸べてきた。

 そこでやっと思い出してしまったのだ、寝ながら自分を助けてくれた人と話していたことに。

 ちょっとだけ焦った俺は、


 「あ、ありがとうございます」


 その手を取って、立ち上がる。

 その後は、黙ってしまいました。


 「えーと、色々聞きたいことあるんですよ」

 「え? そうなんですか?」

 「はい。なので僕と仲間が生活をしている街について来てもらってもいいですか?」

 「あぁー――」


 返事に迷う、がさっきのなめくじ魔物みたいな現象には遭いたくないし、聞きたいことあるらしいからついて行った方がいいよな。


 「わかりました」

 「――っ! ありがとうございます!」


 そういうわけで俺は一言返事でついていくことにオーケーを出した。

 まあ、さっきも言ったように死ぬ思いはもうしたくはないな。

 それに俺もこの美少年に一つだけ聞きたいことがあるし、着いていこうと思った。


 そこから俺はこの美少年について行って、仲間がいるというところにまで行き、現在は美少年とその仲間が長旅の仕事で使っていたという馬車に乗ることになった。

 いや、歩かなくいていいのはありがたいです、揺れてお尻が痛いけども。

 ただ馬車に乗ってからしばらく、美少年の様子がおかしい。

 というか、美少年ってずっと呼ぶのもあれだよな、助けてもらった人の事を。


 「えーっと、お互い名前もわからないからさ、自己紹介でもしない?」

 「あ、そうですよねっ!」


 そんな俺の問いかけに美少年はどこか上の空だったのか焦ったような思い出したかのような反応をしてきた。


 「とりあえず俺からしようかな。俺は式神紅来、21歳だ。これからよろしくね、一応」


 その俺の自己紹介を聞いた目の前にある席に座っていた美少年は、驚いた反応をしなかった。

 うん、やっぱり俺の予想していた通りの反応だろうな。

 この美少年、俺と同じく日本で生まれてこの世界にやってきた的な感じなんだろう。

 顔立ちとかもう疑いようのないくらいの日本人だしね。


 「えっと、僕は緋色悠人ひいろゆうとです、18歳です。こちらこそよろしくお願いしますね」

 「あ、やっぱり日本人の方だったんですね(あ、思わず口から思ったことが出てきてしまった)」

 「はい! 式神さんの服装を見た時に、スーツ着てるからもしかしたらって思いまして」

 「俺も緋色くんの顔立ちとか見てて思ったんですよね。日本人じゃないかなぁーって」


 日本人、そういうことがわかってしまったおかげで俺たちの雰囲気が少しだけよくなったような気がした。

 ただ、美少年こと緋色くんの仲間であろう少女たち(美少女だろうな)は、俺のことをどことなく警戒しているような雰囲気を感じてしまう。

 緋色くんもそうだ、少しだけ警戒をしているようなものを感じる。


 あ、うん、緋色くんの仲間は緋色くんを抜いて四人いるのだが、一人は馬車を引いている馬を見ており、もう二人は緋色くんの隣にくっつくかのようにして席に座っているが、めちゃくちゃ俺の事を睨んでいるような気がする。

 少女たちはそれぞれ種族?のようなものが緋色くんとは違い、馬を見ている子は猫耳と尻尾を生やしている子で、右側でくっついている少女は耳が尖っている子で、左側にくっついている少女は犬耳と尻尾を生やしている子だ。

 髪の色とかもなんか色とりどりだ。


 「「……」」


 あれ? 無言になっちゃったよ、お互い。

 黙り込んでしまっている緋色くんの表情を見てみると、なぜかどこか心配そうなものと辛そうな表所を混ぜたような二つの表情をしていることに気が付いた。

 どうしたのだろうか、そう思ったのだが話の切り出し方がわからないな。

 ……けど、そんなんじゃ三年間ブラック企業の駒として命までかけて働いてきた俺の名と存在に恥をかけてしまいそうだな。

 いや、そんなことはないか、仕事を止めなかった俺が悪いし。

 まあうん、中期採用の子の面倒を見てきているんだから緋色くんと話すのなんてどうにかなるだろう。

 とりあえずは、うーん、なんでこの異世界にやってきたのかを聞いてみようかな。

 そう思って俺は、口を開いたのだった。

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神の手違いで死んだので異世界で第二の人生を自由に生きる 霧羽夜羽 @arukana2002

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