神の手違いで死んだので異世界で第二の人生を自由に生きる

霧羽夜羽

1 神様と能力選び

 死とは唐突に起こってしまうものであり、予想できないことなのだ。

 生まれたばかりで死んでしまう運命の人もいれば、そうじゃない人もいる。

 学生になって楽しみな学校生活が始まろうとしているのに死んでしまう運命の人もいれば、そうじゃない人もいる。

 社会人になって働き始めるぞって思って初めて働きに行こうとしているのに死んでしまう運命の人もいれば、そうじゃない人もいる。


 そして死は、神が管理をしているもので寿命なんてものは関係しておらずその人の人生の運命の中に死という文字があるのならば、その人の人生はそこで終わりになるよう神が仕事をしている。


 ということは、今目の前にいる白髪で髭を生やしている高身長な老人こと神様が言っていたことを説明した。


 「ということで、紅来こうきくんは死んでしまったのじゃ」

 「はい?」

 「事実じゃ」

 「マジですか」


 ということで、俺――式神紅来しきがみこうきは死んでしまったみたいだった。

 目の前の神様言っていることが現実味がなさ過ぎて理解ができない。

 というかどうして俺は死んでしまったんだ?


 「それはじゃなぁ……」


 俺の疑問がわかっているのか神様は口を開くも、途中で言わなくなってしまった。

 だが、意を決したのか再び口を開いて続きを言ってくれる。


 「それはじゃなぁ、紅来くんを我が手違いで死なせてしまったからじゃ」


 え? 今なんて言いましたか? 

 手違いで俺を死なせてしまった?

 うん、ますます意味が分からなくなってしまってきたぞ。

 そういえば、と思いここより少し前の記憶を思い出してみることにする。


 俺は21歳になって、社会人三年目を迎えて仕事を休むことなく毎日追われるようにやっていた。

 三年も続いてしまうとどんなにつらい仕事だって苦にはなってはなかった。

 けど、体調管理がへたくそすぎて体調を崩したまま仕事をしている時もあったなと思い出してしまう。

 そして最後に、7月1日という夏に入る前というところで俺は倒れてしまったんだなって。

 今思えば、よくもまあ三年も倒れずに仕事をし続けれたと思っている。

 体調を崩しても崩しても薬に頼っていたからか、そんな効果を体が絶えるようになってしまっていたのだろうか?

 まあ、今となってはもう振り返ることではないのだろうなと。

 だってもう、あんなブラック会社のところで仕事に追われる日々がなくなるのだから!

 低賃金だったし!


 だから、


 「逆にそれはそれでありがたかったと思いますよ。なので、神様は気にしないでください」


 逆に感謝をしてしまった。

 それに、ブラック会社に勤めていた普通の人間に対して申し訳なさそうにしている神様なんて俺は見たくないと思う。 

 いや、何かの手違いだったとしても神様を責めるわけにもいかない。

 どんな人でも手違いなんてするものだから……あ、目の前にいるのは人じゃなくって神様だけども。


 「紅来くんは優しんじゃなぁ」

 「優しいというよりも、常識? あー、普通のことですから。責めるっていうのがそもそも好きじゃないので」

 「そういうところが優しいと思うんじゃよ。それとまあ、あんな会社で働いている時に起こった二年前の事件も部下が悪いのに自分で責任を負っていたみたいだしのぉ」

 「ど、どこまで知っているんですか……」

 「神じゃぞ。すべてを知っておるわ」


 満面の笑みを見せてくる神様。

 おぉうぅ、この神様のことが少しだけ怖くなってしまったよ?

 人権って存在してないのかな、ここには。


 あぁー、二年前の事件っていうのは……言わないと駄目ですかね?

 駄目みたいですね、説明はしたくないですがすでに終わったことなので一応話してはおこうかなぁ。

 二年前の事件に関しての話をするやる気がまったくでないんだけど。


 えーっと、二年前の事件とは俺が新入社員としてまだ入ったばかりの年だったのだがブラックなだけにすぐに昇格などがあって、俺は上司くらいに偉い立場へとなることができた。

 多分、誰かの思惑によって俺があげられたと思うんだ、そこから仕事が倍以上になってしまったのだから。


 話がずれてしまった。

 それでだ、俺が昇格した次の月に中期採用ということでまた社員が入ってきたのである。

 ただその社員、もの凄く物覚えが遅い子だったので仕事の進め方もへたくそだったし仕事のスピードもいつまでたっても遅いままだったのだ。

 だけどそんなある日、社長が持っていたとてつもなく貴重な資料がなくなったという知らせが入ってしまった。


 それを本気で探し始めると、なぜか俺の部下にあたっていた中期採用の子の鍵付きデスクの中から出てきたのである。

 どうしてそんなところから出てくるのかがわからなかったが、俺の働いていたブラック会社の社長はクズと目の前で言われるほどのクズだった。

 そこから線をたどっていった結果、その社長がその子の鍵付きデスクの中に入れていたという事実が分かった。


 ちなみにその証拠は、俺が突き止めた。

 会社に来れない中期採用の子のために、大切な部下のために、それとまあ俺が指導をしていたのもある。


 それでそこから次々にあふれ出る社長の陰謀。

 中期採用の子には俺は何を言わなかったのだが、俺は確実に聞いていた。

 社長が中期採用の子に責任を持たせるために、貴重な資料を鍵付きデスクの中に入れて、その事件の当日に責任を取らせるために自分のものにしようと陰謀があったことを。


 ただそれを録音して突き止めたのだが、社長が本当にくずだった。

 中期採用の子はもう使えないから会社を辞めさせるとか、俺には減給だのと色々だ。

 それに、それを断るもんなら中期採用の子を渡せとか。

 なんですかね、俺はいつから親に?

じゃなかった、どちらにせよ社長は本当にクズだったのである。


けどまあ結果的に見てみれば、中期採用の子に被害が出なかったのが救いだったし、俺の一日にする仕事の量も減ったし、社長が刑務所に入ったということもあったしで結果は良い方向進んだと思う。

その後の話だが、中期採用の子は家にいるのは一人で危険ということだったので次の仕事に就けるまでの期間だけ俺としばらく同棲をしていた。


あ、特に恋への進展はしてないですよ?

そこからはまあ、中期採用の子は無事にホワイト企業へと転職をすることができて幸せな日々を過ごせれるようになったと写真付きのメールを送ってくれた。


 とまあ、これが二年前の事件の話だ。

 めちゃくちゃ長くしゃべったし、クズ社長のことを本当に久しぶりに思い出したような気がする。


 ん? どうして俺が中期採用の子を手を差し伸べていたのかって?

 うーん、指導していたのもあったけれど、唯一の女子社員だったのでブラックな俺の勤めていた会社の毒牙に捕まらないように守りたかった、みたいな感じだと思おう。

 なんというか、あの子は元気にしているだろうか? 最後に話したのもあんまり覚えていないけど、会ってお茶をしているような気がする。


 「どちらにせよ、もう昔の事ですよ」

 「そうじゃなぁ」


 神様は本当にすべてを知っているみたいだった。

 きっと俺の好きな食べ物と嫌いな食べ物もわかっているんだろうし、あの日この日のことも知っているんだろう。

 というか、そこまで覚えるのってキャパオーバーなのでは?、と思ってしまったがそういうのは神様だから関係ないかとなってしまった。


 「とりあえず二年前の事は置いておいて、そろそろ本題に入ってもいいかの?」


 コホン、と一度咳払いをした神様はにこやかな笑顔を止めて真剣な表情へと変えてきた。

 え、顔の表情がどこか本気(マジ)なのは俺の気のせいなのだろうか? 果たしてどうなのか、もしかして俺はこれから何かされてしまうことになるのか、それとも地獄にでも落とされてしまうんじゃないだろうかと神様の今の表情を見て思ってしまった。

 いや、多分そんなことはないんだとは思うんだけどね、俺のことを優しいってさっき言ってくれてた神様なんだから。

 人の所業的な何かを褒めてくれる神様なんだから! あ、目の前にいる神様以外の神様がどうなのか知らないし、目の前にいる神様以外にも神様がいるかどうかは俺は知らないけど。


 「本題というのはじゃな。色んな人には人それぞれ色んな人生があって、どんな人生にせよ死ぬという運命が無い者を神の手違いによってまだ先にある死ぬ運命よりも先に死なせてしまったんじゃから、第二の人生を生きてみるのはどうじゃ?というわけじゃよ」

 「なるほど……。その、第二の人生っていうのはまた日本に生まれて生きることになるんですか?」

 「違うのぉ。死んだことになってしまっている以上その者の魂をそのまま日本(地球)に生まれさせるというか生き返らせるというか、第二の人生の同じ世界でさせるのは神の手違いだったとしても禁忌なんじゃよ。だから地球と並行しておるように動いている異なる世界――紅来くんの居た日本の言葉を借りるなら、異世界というところで第二の人生を生きてもらうことになるのじゃ」


 あ、異世界で第二の人生を送ることになるんですね。

 ということは、もうこれ以上ブラック企業の沼にハマることのない人生を送られそうな気がします、やったねっ!

 けどまあ、第二の人生を日本で始めたとしてもブラック企業に入社しそうな気がしてしまう、人に騙されやすいところあるから自分の眼で見らずにブラック企業を選んでしまいそうだな。

 と言えど、元中期採用されて入ってきた子みたいな女の子みたいな存在とは日本で第二の人生を生きたところでもう会えないような気がしている。

 かと言って、異世界でも無理だなぁって思う、なんとなく。


 「でもまあ、異世界で第二の人生は楽しみですね」


 色々な考え事をしている間にも、俺は無意識にその言葉を口にしていた。

 無意識に口から出てくるくらい俺は楽しみなんだと思う、自分が思っている以上に。


 「では、ここから欲しいと思ったやつを一つだけ選んでおくれ」

 「はい……?」


 神様は指をパチンッと鳴らした、音が響いている。

 すると神様との間の少しの空間に唐突に大きな石の板が現れた。

 神様凄い、さすが神様。さすかみ、だ……あ、ふざけてごめんなさいというか、すべってしまったみたいだな。


 しかし今更思ってしまったことなのだが、今俺と神様がいる空間は言葉では説明しにくいようなところだ。

 足元を見れば雲のようなものの上に乗っかっており、周りを見てみれば壁はなくどこまでも終わりのない空間が続いている。

 だからまあ、この石の板ってどういう原理で現れたんだ?っていう疑問が不通に生まれてしまう。

 けれどここには神様がいるのだから、そういう原理とか理屈は存在していないんだと思う、多分。


 とりあえず、目の前の石の板を見てみよう。


 「おぉー!」


 板には『剣術:Lv1』やら『魔法:Lv1』やら『聖騎士:Lv1』やらと様々な文字が書いてあった。

 聖騎士っていうのは多分チートみたいな力を持っているんだと思う、名前的に考えてみてだけど。

 けど、色々あるな、数えなくてもなんとなくでの計算だが、1000くらいの単語 (?)はあるんじゃないだろうか。


 「うーん。どういうのがいいんだろう……」


 神様は一つだけと言っていた、俺がこれから異世界でどんな第二の人生を送るかは自分でも全く予想も想像もしていない。

 だって、今さっき異世界で第二の人生を送るっていうことを知ったんだもの。


 しかし第二の人生、どんな風に生きるかによっては今まで見たいな人生と同じ道を進みそうになってしまうんじゃないだろうか?

 悩む、もの凄く悩んでしまう。


 「悩んでおるのか?」

 「そんなところですかね」

 「なぜ悩むのじゃ? 聖騎士ならば人々の注目を浴びるほどの力を手にすることもでき、ハーレムだって築き上げることができるのじゃぞ」

 「なるほど……」


 まあ、そりゃそうだよな。

 聖騎士ってそういうチートみたいな感じなんだな。

 うーん、でもそれは自分の行動を自由にすることはできなくなってしまうんじゃないだろうか?

 例えばだが、聖騎士を神様からもらって異世界で活躍をして強くなって名を上げたところで、それよりも上の存在から扱き使われてしまう可能性がある。

 別に実際の話や聞いた話というわけではないのだが、そういう系の話はライトノベルで結構主人公とかがやっていて、扱き使われてしまって自由に行動できていないシーンがあるんだ。


 そういうわけで、


 「聖騎士は却下ですね。自由に行動ができないと思うので」


 聖騎士は却下したのだった。


 「なるほどなのじゃ」


 あれ? なんか神様が納得されちゃっている、マジか。

 いやまあ、今は神様からもらえる一つだけの能力的なものを選ばなければだ。

 だがその前に、異世界で第二の人生を送るとしてどういう感じにしたいのかを決めてから決めないといけないとなと思う。


 とりあえず、第二の人生は自由に生きたいな。

 だからそのためには、人の注目を集めてしまうような強い力に頼るわけにはいかなければ、チートハーレムのような目の敵になるような行動も避けておきたい。

 となると、逆に能力をもらわずに生きていった方が得策じゃないのでは?と思ってしまった。


 「あ、先に言っておくがの、もらわないという選択肢は存在しておらんからな。理由は、異世界で生まれてもない者は異世界のものには慣れてはおらんからすぐにポックリ逝ってしまうのじゃよ」

 「ま、マジか」

 「マジじゃよ」


 思ってしまったことは神様の言葉によって崩れる。 

 そしたらもう、弱そうな能力で、自由に生きれるようなものを選ぶしかないのではないじゃないか。

 けど、自由に生きるために必要な能力はこの石の板には無いような気がする。

 そもそも俺の、自由に生きるっていうのは一つのことだけじゃなくて色んなものに手を出して自由に生きていきたいんだ。

 だから一つだけに肯定されてしまう能力じゃそんな願いは絶対に叶わない。


 「ずいぶんと悩んでいるようじゃの?」


 俺の気持ちを分かっているのか神様が聞いてきた。

 あ、もしかすると俺の表情が悩んでいるっていう感じなのかもしれない。


 「ですねぇ。自由に生きたい、せっかくの第二の人生を異世界で生きるから色々なことをして自由に生きたいんです。けど、ここにあるものじゃ一つだけに固執しちゃって色々なことをできない人生になっちゃいそうな気がするんです」


 思っていることをそのまま述べると、神様は何故かどこか嬉しそうな表情へと変わってしまった。

 神様って結構感情が出てくるものなんだな、俺の中での神様の印象とかを変えておかないといけないような気がしてきた。

 ちなみに俺の中での神様って感情を見せない無表情な感じだ(個人の意見です)。


 「そこまで考えておるとは、紅来くんは最高かもしれんのぉ。いずれの時に備えて作っておいた儂と同じ能力を与える時が来たようじゃな、レプリカじゃがの」

 「神様と同じ能力、ですか?」

 「うむ、そうじゃよ。能力の名前は、創造創作。レプリカになってしまうから、儂のようなものではないが紅来くんの願いを叶えてくれるものにはなるとは思うんじゃよ。ちなみにどんなものかは異世界に行ってからのお楽しみということにしておこうのじゃ」

 「創造創作……良さそうなものですねっ!」

 「そうじゃろ」


 まさかまさかの神様と同じ能力を使えることになるとは……、まだそうと決まったというわけじゃないけどね。

 創造創作、かぁ。神様の言うように自由に生きるために力になってくれる能力なんだろうなって思う。

 これなら納得して異世界で第二の人生を自由に生きれると思うな。


 「それじゃあ、神様と同じ創造創作にしたいです。それで、やりたいことすべてやって自由に生きれますね」

 「分かったのじゃ。では、手続きを始めよるのじゃ」


 そう言って神様は俺に右手を出すように言ってきた。

 言われた通りに右手を出すと、右手の甲の上に神様は自分の右手を上からかざしてくる。

 その瞬間、神様の右手からまぶしい光が出た。

 まぶしすぎたので俺は思わず目を瞑る。

 だがそのまぶしい光もすぐになくなってしまい、


 「もう目を開けても大丈夫じゃぞ」


 神様のその声を聞いて俺は目をゆっくりと開いた。


 「これで紅来くんには、儂と同じ能力の創造創作が与えられたぞ。もう時間がないので異世界に送るが、良いか?」

 「え? もうですか?」

 「神の世界に何時間も居続けると、体に変化が起こってしまうのじゃよ」

 「え⁉ そ、それは早くしないとじゃないですかっ‼」


 まさかの出来事に俺は焦ってしまった。

 神様、それをもっと早く言ってくださいよ!

 てか、ここに何時間もいたとか初耳だ。

 てっきりまだ三十分くらいしか時間が経っていにとずーっと思ってたんですけどね。


 「では今から異世界に送るからの」


 そう言うと同時に俺の視界が突然揺らいだ。

 何事なんだ、とは思ってしまったのだが神様の次の一言で納得する。


 「今視界が揺らいでるとは思うんじゃが、それは異世界に飛ばされる前兆なようなものじゃから気にすることはないんじゃ」


 はぁー、良かった、安心できた。

 そこからすぐに俺の視界はどんどん揺らぐのが強くなっていき、目を開けてるのも精一杯なまでになっていた。

 そこから俺はすぐに目を閉じてしまった、体から力が抜けてしまったから。


 「異世界で第二の人生を自由に生きるのじゃよ」


 意識が遠のく中、神様の最後の言葉を聞いたのだった。

 口は動かないが心の中で強く思う。


 第二の人生を自由に生きる、絶対に!と。


 そうしてブラック企業に三年間務めてきた俺、式神紅来は、21歳にして異世界にて第二の人生を自由に生きるとなるのだった。


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