第2話 チュートリアル
この部屋はマンションの一角だったか。
部屋の外に出ると意外な感想を抱いた。
特に変わらない、普通のマンションだ。
ここはどうも4階のようだ。
エレベーターがないので、階段で下に降りていくしかない。
腰の拳銃の感覚はまだ慣れない。
「アイリスだったか。この世界の状況はどうなっているんだ?人類が負けているって言われても、街並みは普通だからあまりピンとこないんだが...」
『と言いますと?』
「いや、今現在、日本が残っているのはわかるんだが、他はどうなっているんだ?」
『そうですね。詳細はインフォメーションにありますが、ご質問から推測しますと、現在の覇権国家は、国力順に、台湾、ロシア、アメリカ、日本といったところです』
「台湾?中国は壊滅で台湾が覇権国家なのか?」
『はい。史実ではそうなっています』
どうも相当、世界に変事有りということか。
『世界情勢もよいですが、マップを見ていただけますか?』
「ああ...マップね。タブレットか?」
『上着にスマートフォンがあります。起動してマップを』
右ポケットに硬い感触がある。
スマートフォンだ。日頃使用していたスマートフォンとは大差がないようだ。
「マップね。タブレットとリンクしてるな。目標まで5キロ。さすがに徒歩だときついな。今が、7時30分で、目標到着時刻は8時30分?所要時間は、電車と徒歩で30分ね...」
『はい。ここからは私がナビゲートします。左ポケットのワイヤレスイヤホンを装着して同期させてください』
「はいはい...。これか」
使い方はあまり変わらないな。早速、同期させて装着する。
『では、まず、大通りへ出て駅へ。そこから新宿方面行きの電車に乗り、首都高校前で降りましょう』
「シンプルプランだなぁ。ま、行ってみますか」
大通りは車の往来が多いからすぐにわかった。
街並みは、前の世界と変わらない、平日の朝そのものだ。
しかし、少し、人気がないような気がする。
『速報です。市内に小型の鬼が徘徊中。軍は至急排除を。』
イヤホンから無線が飛び込んできた。軍?自衛隊の無線か?
『鬼が市内にいます。警戒を。情報によれば、小型の鬼ですので、自衛軍のドローン部隊が片付けるでしょう』
「自衛軍の...ドローン?無人機か?」
『はい。人類の戦力の半数以上は無人機です。とはいえ状況により、人間が勝るケースが多いです』
「ふーん。ところで魔物というか、鬼というのはどんな生物だ?」
『分かりやすく言えば、ヒグマを殺人に特化させたような存在です』
それってめちゃめちゃ強いのでは...。
「そんなのがうろうろしてる中に放り込んだのか!」
『チュートリアルですから、それくらいしないと』
「な...この鬼畜AI!何が人類推しだ!」
『おっしゃっていることがよくわかりません。AIなので』
クソッ。何だこのAIは...人間を殺しに来てるぞ!
とはいえ落ち着け。鬼とか言うヒグマもどきに遭遇する確率を考えよう。
相手の数は不明だが、市内に避難勧告は出ていないようだし、軍のドローンも派遣される。
積極的に交戦しなければ、生き残ることは、そう難しくないはずだ。
「鬼とかいうやつの数と、避難勧告は?」
『避難勧告は30分前、鬼の数は3体、いずれも小型です』
「とっくに市内にうろうろしてそう...。部屋に戻ってやり過ごしたほうが良さそうだ」
『チュートリアルですから、その選択はいかがなものかと』
「お前は俺に死んでほしいのか?」
『引いた個体の特性を把握したいのです。AIですから』
くっ...そもそも本当に生きているか実感はないから、一度鬼というのを見て死んでみるか?
いや、しかしかなりリスクが高い...。
それにこのアイリスとか言うAIを信用していいのか?
AI戦記 @jackfrost3
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