最終話 『アダムとイブ』
エドワードをせっかく助けてやったのに、俺への虚偽の証言を取り消させるのを忘れていた俺は、はぁーっとため息を吐いたが、
「私はもうアダム様から離れません!!」
とすっかり懐いたこの国のバカ王子が居るから大丈夫か……と苦笑を浮かべる。
これ以上のスキルの使用は自重しようと心に決め、歩いて王宮に向かっていると、ヨルが横に来て話しかけて来た。
「アダム。どうするんだ? これはもうアルムの時とは状況が全然違うぞ……?」
この「どうするんだ?」は俺の『力』の話しだろう。先程はジョンの登場で有耶無耶になってしまったので、俺を心配しているんだろう……。
確かにこれは問題だ。あの乳だけ女神は「そのうちわかる」と言っていたが、「ヤバい事」自体はわからないのだ。
(とりあえず、『ヤバい事』がなんなのかくらい教えておけよ……)
と思考を続ける。俺が「創造」したのは太陽、ブラックホール、回復薬などだけだ。まぁ虹色の魔力などもあるし、どう考えても身体強化と瞬間移動はバレているだろう……。
まだ俺のスキルが「森羅万象」だとバレた訳ではない。これらの共通項から誤魔化しが効くような言い訳を考えないといけないわけだが……。
いっそ、カーラを騙した時のように、超レア魔道具を複数持っていた事にしようか? これが1番、現実的で、誤魔化しが効くと思うが……。
「おい、アダム!!」
すっかり考え込んでいる俺にヨルは慌てて俺の名を呼ぶ。先程の戦闘を見ているから、俺の身に何もない事は知ってるはずだが? と口を開く。
「なんだ? うるさいな……」
「あれだけ魔力を消費したんだ、流石のお前でも……」
「問題ない。気にするな。それより何か良い手はあるか?」
「上手く誤魔化す方法か?」
「あぁ」
ヨルは難しい顔をして考え始めたが、そもそもの俺のスキル自体は知らないだろうから、ヨルに助言を求めても意味がないな……と苦笑する。
まぁ王宮までの道のりで、「魔道具でした作戦」以上の策ができるとも思わないし、放っておけばいいか……。と未だ纏まらない思考を続けていると、
「まぁ適当に嘘を並べるしかないんじゃないか?」
「あぁ。まだ俺の『森羅万象』がバレたわけではないから、どうとでもなるだろう……。ん?」
「……し、し、『森羅万象』!?」
(ん? いま『森羅万象』って言ったか? えっ? 言ったよな……?)
ヨルのおうむ返しに、周囲が反応する。
「「「「『森羅万象』!!!???」」」」
「なんだそれ? 聞いた事ないスキルだ」
「アダムのスキルらしい」
「流石にやばそうなスキルだな!」
「神の化身なんだ! 『神代スキル』に決まってるだろ!?」
「おぉ!『神代スキル 森羅万象』か!!??」
俺はもう知らない。どうなろうが知った事ではない!イブさえ守り通せればもう何でも良い。『ヤバい事』だろうがなんだろうが、どんと来い!!
自分の失態を無かったことにして、「流石です。師匠!!」と気がつけば師匠と呼び始めたジョンを華麗に無視する。
王宮の門が見えると「予言の巫女」の姿をしたイブが見える。俺を見つけると、その場に座り込み涙を流し始めたようだ。
その後ろでカーラがイブの背中をさすっており、庭先には竜化しているアイラの姿が目に入る。
アイラはバサッと強風を生み出しながら俺の元に飛んで来ていると、
「ド、ドラゴンだ!!」
「まだ厄災は終わってない!」
「戦える者は準備しろ!!」
と周りがざわつき始め、はぁ〜とまたため息を吐いていると、
「マスターー!! ちゃんと守ったのだーー!! 褒めて欲しいのだーー!」
と、イカツすぎるドラゴンは少女の声で、怖すぎる満面の笑みを浮かべている様子に、周りはキョトンと静まり返った。
ドスンッと俺の前に降り立ったアイラ。知らないフリはできそうにない。
「アイラ、人型に戻れ」
「はいなのだー!!」
すっかり少女になったドラゴンを皆は目を見開き、中には鼻水を垂らしている者も居て、あまりに情けない驚愕な表情に、俺は声を出して笑ってしまった。
「マスター??」
「ふっ。アイラ、よくやったな。あんなマヌケ面はなかなか拝めるもんじゃない。ふふっ」
そう言ってアイラの頭を撫でると、「ん?」と首を傾げながらも嬉しそうにしていた。
「……ドラゴンを使役している」
「こんなことあり得るのか……?」
「流石、『英雄様』。神の化身だ!!」
などと周囲から驚愕と称賛が降り注ぐが、俺はもうイブにしか目がいかない。本当なら駆け寄ってしまいたいくらいだが、何だか恥ずかしくて、ゆっくりと歩み寄った。
「良い子にしてたか?」
俺が声をかけると、すくっと立ち上がり、俺に抱きついてくるイブ。
「……うん! 離れてたのはちょっとだけなのにすごく寂しかった……」
俺の肩口でボロボロと涙を流しながら言うイブに、俺の心拍は跳ね上がる。
「そうか……。まぁ、……俺もそんな感じだ」
俺がそう言うと、イブは驚いたように俺の顔を見つめ、真っ赤に顔を染めた。おそらく俺も真っ赤な顔だ。
「ふふっ。アダム。おかえりなさい」
「ああ。……ただいま」
すっかり2人の世界に入り込んでしまっていると、冒険者達から悲鳴とも歓声ともとれる声が上がり、王宮に匿われていた民衆からも同様の声?が上がる。
「カーラ、よくやった」
俺がカーラに声をかけると、
「い、いえ! 私は何も……」
と顔を染めている。俺はカーラの頭に手を置き、
「ちゃんと褒美を考えておけ。俺以外でな」
と笑いかけると、ぷすぅ〜っと空気の抜けた真っ赤な風船のようにその場に倒れてしまった。俺はふっと笑い、イブの耳元に口を持っていく。
「イブへの、褒美は今夜だ……」
と言うとカーラ同様、倒れてしまいそうになったが俺がしっかりと引き寄せた。俺はキスをしたい衝動に駆られたが、周囲の人の多さに気づき、しっかりと自制し、王宮の中に入った。
王都中の酒や食べ物が集まり、すぐに宴会となった。ジョンがことの経緯を知らせる前に、アレクサンダーは俺に深々と謝罪した。
「本当に申し訳なかった……。本当に感謝する……」
と何度も何度も謝り、何度も何度も感謝を述べた。
宴会は夜になっても終わることはなく、それから三日三晩続いた。まだ瓦礫の残る王都で一際賑やかな王宮は静まる事がなかった。
「正式に謝罪をしたい……」
とアレクサンダーに言われたが、面倒だったので断ったが、イブが「ちゃんとした方がいい」と言うので仕方なく王都に留まった。
すぐにでもイブを抱きたかったが、ひっきりなしに冒険者や民衆、アルムの馬鹿共やジョンなどが来るのでなかなか事に移すことができなかった。
皆が俺を英雄と呼び、神の代行者だと騒いでいる。俺のスキルがバレたことは一目瞭然で、イブが「2人だけの秘密だったのに……」と拗ねていたのが死ぬほど可愛かった。
―――1ヶ月後 王宮
全国中の領主全員が集まっている。イブは自分の専用スペースで俺を見つめてはニコニコと楽しそうに笑顔を作っている。
神妙な面持ちでアレクサンダーは声を上げる。
「この度は、私の軽率な判断により、この国の、いや、『神代スキル 森羅万象』を有する『世界最大戦力』であるアダム・エバーソンに対する不名誉な行動を取った事を心より謝罪致す」
そう言って、アレクサンダーは深く深く腰を折る。(世界最大戦力って……)と苦笑して、アレクサンダーに歩みより、俺は小さな声で口を開く。
「頭を上げろ。俺は昔、あなたに命を救って頂いたことがあるんだ。いま改めて感謝を伝える。それに一国の王がそんなに簡単に頭を下げるな」
「……ありがたく……。私は責任をとり、王を退く事に決めた。本当にすまなかったな……」
「バカを言うな。これからも民を導いてくれ。『アレクサンダー国王』」
俺はそう言ってアレクサンダーの元に跪いた。
謝罪を受け入れたように見えた領主達は歓声をあげた。その中の1人が駆け寄って来て、
「アダム様、私の都市に住んで頂きたい!」
と言ったのを皮切りに、複数の領主達に囲まれた。
(またこれか……)
と俺は深くため息を吐き、ここ1ヶ月での面倒くさい事の連続を思い返した。
※※※
この1ヶ月、街を歩けば囲まれ、中には求婚される事すらあった。ジョンしかり「弟子にしてくれ」と言ってくる奴らも後をたたない。
部屋に篭れば、次から次へと貴族達が押し寄せ、俺に取り入ろうと躍起になっていた。その度に俺とカーラの機嫌が悪くなるので、イブとアイラ、ずっとくっついて回っているジョンやヨルは俺達を宥めるのに必死だ。
王すら部屋を訪れて、「エドワードの処罰はどうすれば?」と聞いて来たりと、「もう勝手にしろ!」言うような事を逐一聞いてくるお偉いさん方に辟易とした。
イブはずっとこんな環境だったのか……と身に沁みて実感しながらの日々だった。
聞いた話しではエドワードは地下牢に入れられたようだ。目を覚ましたようだが、もうすでに牢に入れられていたのでエドワードとは話していない。
ブルック、ハンナ、アリステラはたまに俺の部屋を訪れ、「一緒に連れて行ってくれ」と何度もお願いしに来ていたが、断固ノーの姿勢を崩さない俺に、何やらゴソゴソと画策している雰囲気だ。
この「正式な謝罪」を終えると俺は王都を離れ、アクアに向けてイブと旅をする。これは決定事項だし、いつまで経ってもイブに『褒美』をあげられていないので、俺のストレスはそろそろ限界だ。
「ほら、『ヤバい事』になったでしょ?」
心底楽しそうに、笑う乳だけ女神の顔を想像しては、ぐうの音もでない自分に苛立った。確かにこれはかなり『ヤバい事』になってる。
これなら『お守り』の方がまだマシだ……。
※※※
群がる領主達から瞬間移動で専用スペースに座っているイブの元に移動する。
「イブ。もういいだろ? 出発するぞ?」
「…………」
イブは急に現れた俺に、ぽーっと頬を染めて、固まっている。
「イブ?」
俺の問いかけにイブはハッとしたように、淡褐色の瞳を潤ませて、恐ろしいほど綺麗に微笑んだ。
「アダム……私……アダムの事、」
「イブ、アクアには何の用事があるんだ?」
俺はイブの言葉を遮り、問うた。
「……えっ? あ、いや、」
「ふふっ。アクアでの用事って、俺と家族を作る事だろ?」
旅の終わりの場所にイブを連れて行きたくない俺は、アクアを旅の始まりの場所にしようと、プロポーズをした。
イブは瞳から涙を流し、少し頬を染め、
「そうだよ?」
と少し首を傾げ、屈託のない笑みを浮かべた。
ーーーーーー
ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました!!
たくさんの応援、大変嬉しかったです。
本当にありがとうございました!!!!
新作も投稿しておりますので、読んでくれたら嬉しいです!!
神代スキル【森羅万象】で、勇者パーティー追放から3日で英雄に。〜お前らなんかもう知らない。そんな事より、【予言の巫女】よ……。もしかして俺の事好きなの?〜 夕 @raysilve
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます