第9話 友達以上、恋人未満
僕はバスの中で考え込んでいた。
向かうは駅前、そこで雪風ちゃんとあう約束をしている。
本来は山田と暗井、その彼女たちで待ち合わせていたのだが、当日になってそろってキャンセルしてきたのだ。
ラインには「がんばれよ」と一言だけ添えられていた。
まさか、僕のために気をきかせたのだろうか?
そう思ったとき武者震いが全身を揺らす。それは逆効果だよ君たち、だ、誰かたすけてくれぇー! うわーん。
本来ならば待ち焦がれた一日のはずなのに、こんなにも期待と不安でいっぱいになるとは想定していなかった。
僕と雪風ちゃん、二人で会って間が持つのだろうか?
公園で顔を合わせるのとはわけが違うのだぞ! とまぁそんなことを考えていたら思わず胃が痛くなってきた。
でも大丈夫、僕は手持ちの胃薬を口に入れ持っていたお茶で流し込んだ。
こんなこともあろうかと薬は常備している。
準備万端おまちどうなのだ。
そう、後は気合い、気合いである。人知れずガッツポーズをとり胸をドンと叩いた。きっと僕の後姿は、他人の目には異様に見えたことだろう。
「なれてないからか、かなり早くついちゃったな……」
僕はバスから降り駅を見上げていた。
辺りを見回すが雪風ちゃんも、見知った同学年もいなかった。なぜかほっとする自分に苦笑いしながら駅の柱に寄りかかった。スマホを取り出し「デート おすすめ」でタップする。
うーん、映画だのスポットだの、いろいろと表示されるがどれもピンとこないな、僕は雪風ちゃんと何がしたいのだろうか、正直、二人となら何でもいいと思っているが、うぅーん、二人でやりたいものかぁ……。
しばらくして僕は雪風ちゃんとのキスシーンを想像していた。
「うは!」
僕はエッチな方向に進む妄想にブレーキをかけた。
今はこんなことを妄想する時ではない、してしまったら最後、勘のいい雪風ちゃんに気づかれてしまう……。
そうなれば最悪の展開だ。まずは冷静に、今日はそんなことをする日ではない、いつものように公園で会う時のように、そう、リラックスして遊ぶんだ。
――まずは煩悩を捨てよ。
そう意識を集中している時だった。
僕は不意に肩を叩かれ「ヒイィ」と悲鳴をあげカッコ悪く飛び上がっていた。
「なんて声をだしてるの? 君」
「え、雪風ちゃん?」
「早いね、いったい何時からまってるの?」
「さ、誘った者が早く現地入りすることは当然……なん、だ……えぇ?」
――僕は言葉を失っていた。
そこには学校で見る雪風ちゃんとはちがう、別人のような女性が立っていたからだ。
だが、そこにいるのは間違いなく雪風ちゃんである。
学校とはまた違う、薄く化粧をした姿が別人のようであった。
僕は時を忘れて見入ってしまっていた。好きという補正がかかっているとはいえ、ここまで可愛く変わるものなのかと、そう、それは初めて体験するカルチャーショックだったのかもしれない。
「さあ、いこっか」
そう雪風ちゃんの言葉を聞いたとき、僕は思わず雪風ちゃんの手を握り引っ張っていた。
なんでこうしたのかわからない、独占欲か高揚か、この説明できない衝動に押され、らしくない行動がでてしまったのだった。
だが雪風ちゃんに驚いた様子はない、まるで僕がそうすることを知っていたかのように、それを受け入れ並んで歩きはじめた。
もしかして、山田や暗井が来ないことも知っていたかのだろうか?
雪風ちゃんから彼らのことを問うことはなかった。
そう考えていたとき雪風ちゃんは言う。
「これってデートみたいだね!」
「うん、デートみたいだね……」
そう言うと雪風ちゃんはそっと近づき、からかうように耳打ちした。
「私の見た夢ではもっと進んだけど、君はどうするの?」
「えぇ、これって雪風ちゃんの?……えぇっと、どうするって……」
雪風ちゃんは笑った。
その姿を見て僕も笑う。
雪風ちゃんの夢の話を詳しく聞きたかったが、今はこのままでいいと思った。共に歩いている今を楽しもうと思ったのだ。
こうして僕達は、今までとは違う関係、そう、友達という枠を超えた「友達以上恋人未満」の関係となった。そう言える根拠などないが僕はそう思えるような気がしたのだった。
今だからこそ思う。僕にとって彼らの存在が宝であり、彼女の存在こそが夢なのだと……。
人生を変えた魔法の神器 ヒラ少尉 @kousa18
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