第8話 思いの形は人それぞれ
僕は居ても立っても居られず、校門前で下校する雪風ちゃんを待っていた。
そう、ここは一か月前、はじめて雪風ちゃんに話しかけられ、その後、一緒に帰った、ある意味思い入れの深い場所だ。僕にとって始まりの地といってもいい。だが、今日はあの時とは違う、立場は逆で、今度は僕から話しかけることになる。もし運命をつなぐ赤い糸が存在し、それが枕カバーによるものならば、状況的に雪風ちゃんと繋がっているはずだ! 神様だって、それくらいのワガママ聞いてくれるだろう! とまぁ、こんな調子で身勝手な強引きわまる自己解釈を振りかざし、僕はここに立っているのだ。
――待ち時間がやけに長く感じるな。
屁理屈で精神状態を保つのもそろそろ限界か、そう思ったとき雪風ちゃんの姿が見えた。
下駄箱で靴を履いている。
僕は生唾を飲み込み、効果不明のスーパー呼吸法で衝動を鎮めようとした。
雪風ちゃんが僕を待っていた時、どんな気持ちで待っていたのだろうか? なぜかそう考えるだけで勇気がわく気がした。
「あ……」
僕は雪風ちゃんの視線を感じ取った。
その瞬間、僕の心の中で何かが弾けた気がした。ここはいつもの公園ではない、学内であり在校生の目に付く場所でもある。しかし、雪風ちゃんは動じることなく僕の前で足を止めた。
僕の待ち伏せに驚いた様子もなく、それどころか余裕のある身のこなしで笑っていた。
いつもの挨拶、交わす視線、こんな一瞬がなによりも嬉しいと思う。
「いつも一緒に帰る子たちは?」
「うん、今日は一人で帰りたい気分だったから」
「そっか」
どこか違和感を感じていた。
僕は雪風ちゃんに会いたくて衝動的に校門前で待ち伏せた。その後、雪風ちゃんは一人で現れた。
事前にラインもせず、本来のプロセスを無視しているのに雪風ちゃんに驚いた様子もない。まるで、用意された舞台装置の中で三文芝居をしているような不思議な感覚。まさか雪風ちゃん、ここに僕がいることを事前に知っていたのか?
もしかして、これが枕カバーの力なのか……。
雪風ちゃんは両手を背中に組み、くるりとひるがえり僕の前に立った。
「どうしたの今日は? いつもとちがうね!」
「えっと……」
――ヤバい、可愛すぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
雪風ちゃんが見せるリアクションに僕はいつも撃ち抜かれる。
私かわいいでしょ? と言わんばかりの、あざといポーズなのに、なぜ心躍らすのかと小一時間自分を問い詰めたくなるほどだ。正直、枕カバーのことなどぶっ飛んでしまっていた。
いや、まてまて! 忘れてはならないものだってある。それはいまここで待ち伏せた理由だ。
暗井の見た夢をなぞり、山田の見た夢を現実化する。これが理由だったはずだ。
校門前で僕は雪風ちゃんをデートに誘うのだ。
逃げるな! 前を見ろ! そうだ! 僕は満を喫して雪風ちゃんに告げる!
「雪風ちゃん。実は、山田と暗井が女友達をつれて遊びに行きょん……」
あちゃ……嚙んでしまった。
こんな肝心な時に何やってんだ。
二人きりではなく、山田と暗井を含めたグループだとハードルを下げようとしたのが仇となったか、セリフを増やしたとたんこれだよ……。
雪風ちゃんは僕の言葉を待たずに「どうしようかなぁ」とわざとらしく笑う。
そして、すでに心の中で決めていたかのように言葉が飛び出す。
「いいよ」
雪風ちゃんは背中を向けてそう言った。
僕は力が抜けその場に座り込む、やりきったという思いとホッとしたという安心感がそうさせたのだろう、なんとも格好のつかない男だと我ながら思うが、それでもどこか満足感があった。
「えぇっと……君、大丈夫なの!?」
雪風ちゃんは、これまでの落ち着きとは打って変わり驚いたような声をあげ僕を覗き込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます