第7話 垣間見えた青い信号

 僕はふらつきながら登校していた。

 ビビりの僕はハッピーペンの時のように枕カバーを使用できず、ある意味落ち込んでいたのだ。


「みんなの前向きな姿勢がうらやましい……」


 なんと悲壮感に満ちた独り言なのか……気がつくと乾いた笑いがこぼれていた。

 昨晩も雪風ちゃんの夢の内容について考え、結論なく終わってしまったし、今晩も同じなのだろうなと思うと憂鬱な気持が襲う。

 しかし、雪風ちゃんの夢の相手は誰だったのだろうか?

 自分か? いや、雪風ちゃんって一か月前に失恋していたし、たしか片思いの相手だったしな、あるいは……。

 そう考えていた時、後ろから肩を叩かれ僕は揺らめくように振り返った。


「なに猫背で歩いてるんだ?」


 山田が神妙な表情で立っていた。さらに後ろに女子がいるのが見えた。

 よく見たら、以前紹介された山田の彼女だった。

 最近急に仲良くなったなこの二人、そう思いながら僕の視線は山田の股間に注がれていた。


「どこ見てんだよ!」

「いや、なんとなく……」

「ところでどうなったんだ? 上手くいってるのか雪風ちゃんとは?」

「うーん、それが色々とドツボにはまっていて……」

「そうなのか?」


 山田は不思議そうな表情で考え込み「おかしいなぁ」と呟きながら僕を見た。


「雪風ちゃんは誘ったのか?」

「えっ? どういうこと……」

「実は俺の見た夢ではな、俺は彼女とデートしたんだが、そのときお前と雪風ちゃんの二人がいたんだよ、まぁ、ダブルデートってやつ? お前らすげー仲良くって、二人を見てたらこりゃ負けられないって思ってさ」

「……」

「待ちきれず俺は彼女とデートしたんだ。まあ、ダブルデートではなくなったけどね。夢をさらにアドリブで進ませたって感じかな」

「えぇ!」

「でっ? そっちはどうよ? っておー--い」


 僕は走り出していた。

 ただ無我夢中で走っていた。

 まだ山田の言ったことは整理されてないけど、今まで感じたことのない直感がそうせよと急き立てたのだ。


「いたー-!」


 僕は暗井を見つけ指を刺した。

 暗井は女の子を連れている。これが噂の腐女子というやつか、趣味はともかく確かにルックスがいい、それが彼女の第一印象だった。だが、今は他の女の分析をしている場合ではない!僕は暗井の首に腕を絡ませヒソヒソ話を始めた。


「お前の見た夢の話だが」

「あぁ、あれかぁ、おかげさまでイイ感じだよぉ」

「どんな夢を見た?」

「どんな夢って……夢精したってこと? うひ、てれるよぉそんなぁ、まあ、想像にお任せしますぅ」

「そうじゃなくてお前の夢に俺は出たかと聞いてるんだ」

「あー、いたよ」

「雪風ちゃんは?」

「いたいた」

「俺たちは何をしていた?」

「校門前でイチャコラしてたような……」


 僕は天を仰いだ。

 彼らの見た夢の中に僕らはいる。

 それはどこか安心感となって僕を包んでいた。

 二人の夢を総合すれば、僕と雪風ちゃんとの関係が前進していると考えられるからだ。

 だが、それだけでは駄目な気がする。

 山田の言っていたアドリブで内容が改変されるならなおのことだ。

 ならば自分で後押しするしかない。

 一世一代のアドリブで彼らの見た夢を実現するしかないのだ。

 僕は大きく息を吸う。

 恐れるな、自分を奮い立たせろ、不確定だが夢という担保だってあるんだ。この一日だけ自分を信じたっていいじゃないか、赤信号、みんなで渡れば怖くない!


 僕は意図して両手を放し、ノーブレーキで進むことを選ぶ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る