第6話 運と不運の法則

 雪風ちゃんから枕カバーを受け取り、自宅に戻った僕はベットの上に転がって妄想していた。

 題して『雪風ちゃんはどんな夢を見たのか』である。

 雪風ちゃんに直接聞いてもはぐらかされた。

 耳を赤くし背中を向けていた。

 校内での姿、大人びた空気、歩き方から姿勢まで、一挙一動がいつもと違って見えた。

 女の子っていったいどんな夢を見れば、そんなにも変われるものなのか?

 自分に置き換えても分からず、ヤフー知恵袋に似たような質問がないかチェクもした。その後、様々な占いを試し第六感を働かせた。

 そこで暗井の言葉を思い出す。


「山田のやつ、その枕を使って夢精したらしんだ」


 まっまっまっまっまてぇぇぇ……僕は何を考えているんだ!

 雪風ちゃんが、む、む、む、夢精だなんて!

 いや違う!夢精は男、相手は女子だぞ! そりゃあ……すこしは魔が差すかもしれないけど、雪風ちゃんがそんなこと……でもあのの大人びた空気は……ま、ま、まさか夢の中で大人の階段を上がったということなのか!って、それってどんな階段だよ……。

 僕は動揺していた。一人でボケとツッコミをやるほどにだ。

 いや錯乱といったほうがいいかもしれない。

 禁断の妄想に悶絶しながら気がつくと、僕は枕カバーを握りしめながらいた。

 もう我慢できない、どう考えても次は僕の番だろう。

 みんないい夢を見たんだ。俺だって……。

 夢精だろうがなんだろうかドバドバしてやろうじゃないか!


 だが、一方で潜在的恐怖が僕を縛る。


 山田はいい夢を見た。暗井もだ。雪風ちゃんだってそうだ。

 しかも三人とも「恥ずかしくて言えない」という。つまりそういう夢をこの枕カバーで見たのだ。これは誰もが夢精するような夢を提供する饗宴のアイテムなのかもしれない。説明書にだって失敗のことなど書いてない。これは単純に使用者の夢を実現する究極の願望器だとしたら……。

 僕は枕カバーを被せた枕を膝に乗せながら頭を抱えていた。


「そんなすごいものなら回数制限があるだろう、ハッピーペンのように……」


 僕はそう自分に言い聞かせていた。

 世の中は残酷である。

 運も悪運も等しく同量ではない。

 僕は知っているんだ。世の中には物欲センサーなるものが存在し、はまった者をどん底に落とす罠が潜んでいることを。神の手が存在し人間をもてあそぶのだと。普通に当たりが三回も出たのなら、次はハズレが来ると誰もが考えるだろう、僕なら120パーセントそれを引く、絶対に最悪の夢をみるにちがいない……。


「そこに信号があるならばそれはみんな赤である」


 これを言わしめるほどの人生を歩んできた。そんな、僕だからこその持論がまた全身を縛る。そう、僕に足りないものは成功体験なのだ。

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