転生失敗談―――さまよう魂―――

ロングテイル

第1話


 恐らく俺が活動できる時間は短い。何かがゴリゴリと減っていくのが分かる。


「トーマスッ!トーマスいないのかッ!?」


 ベットから執事長であるトーマスを呼びつける。

 しばらくすると訝しげな表情でトーマスがやってきた。


「いかがなさいましたか若様」


「今日俺が認可したあの書類を一度差し止める!急いでもってこい!」


 ハッとした表情を浮かべ驚愕の表情を浮かべる。


「まさか……思い直していただけたのですか!?」


「早くしろッ!俺が躰を動かせる時間は短い!」


 そう叫ぶと普段見たことも無いくらい慌てて走り出した。十八年見てきたがあそこまで慌てるのを見たことが無かった。


 後は考えていた別の案を今のうちに書き留めて、これを草案にしていけば問題ないだろう。

 そうこうしているうちにトーマスが書類をもってきた。


「若様、書類をお持ちしました」


「この件はこれを草案にもう一度練り直せ。あとな、こういう大事な書類は夜、俺が寝た後に持って来い。疲れたから俺はもう寝る」


 何かトーマスが言っていたが、力を使いすぎた俺はそう言って椅子に座ったまま、眠りについた。



 次の日教会からエクソシストが送られてきた。依頼者はトーマスらしい。……ナンデヤネン。





 「確かに憑かれてますね」


 どうやら見えるのは本当らしい。試しに移動してみるがイヤラシイ目線がついてくる。

 くそ!俺のシックスパックを見てるのかそれとも更に下を見てるのかわかんねぇ。だが奴はとある部分を隠すと舌打ちした。間違いなく見えている!


 だいたい、俺は悪い幽霊じゃないよ!


 俺の魂の叫びは届くはずもなく、滞りなく儀式の準備が終わる前に、俺は逃げ出した。

 いや、普通に逃げるよね。そんなあからさまに準備し出したら。


「待ちなさい!ターンアンデット!」


「気持ちいいいい!昇天しちゃううううう」


 昇天したいと願う欲望に耐えつつ屋敷から文字通り飛び出していった。

 俺がただの背後霊だったら間違いなく死んでたね。いや、昇天か?

 それにしてもあの駄目神!何がミスで死んだから転生させますだ!転生先のあいつ死んでないじゃん!俺中に入れなかったじゃん!ここでもミスしてんじゃねーよ!何かあるかと思って十八年もこちとら全裸待機してたんだぞ!


 こうしてエロクソシストから逃れ、駄目神に呪詛を振りまきつつ、浮遊霊にランクダウンした俺は新たな憑き先を探して旅に出たのである。

 


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転生失敗談―――さまよう魂――― ロングテイル @yaya0528

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