騙された魔女⑫




数日後。 村は極めて平穏な日常に戻っていた。 イージュが暴走を止めたということでイージュは慕われる存在になった。 そして村の守り神として歓迎されるようになったのだ。


―――こんなに上手くいっていいのか・・・?


イージュは村の復興を手伝った。 壊れてしまった建物などは魔法ですぐに直すことができる。 だが新しい家を建てることはできなかったため、村で一番大きな家をイージュはもらうことになった。 

古くなっていていずれは壊す予定だったということで都合がよかったのだ。


―――それに、食べ物もたくさんもらったし。


家の片付けや修理をしているとヘンリーがやってきた。 元々約束をしていて、隣町へと向かうことになっていたのだ。


「来ると思ったよ。 俺のところに」


二人が向かったのは研究所で、予想していた通りライスはそこにいた。 二人が来ることを分かっていたのか、すんなりと出迎えてくれた。


「ライスは私の村を滅ぼして奪おうとしていた。 だけどそれは嘘なんじゃないのか?」


イージュはずっと疑問に思っていたことを尋ねる。 それに感心した風にライスは答えていた。


「どうしてそう思うんだ?」

「色々と気になることがあったからだ」

「へぇ、例えば?」


イージュは思い出しながら言う。


「まず一つは私を解放して村へ行くよう促したこと。 そして、クローンを使って私を殺さなかったこと」

「いや、殺そうとしたでしょ」

「いやしなかった」

「俺はちゃんとクローンに殺すよう命令をした」

「でも丁度よくヘンリーが来て私を助けてくれた」

「それはたまたまタイミングが悪かっただけで」

「違う。 あの時ライスは一瞬だけ森を見た。 ヘンリーが丁度助けに来れるタイミングで、クローンに攻撃をするよう命令をしたんだ」

「・・・ふぅん・・・」

「そして私がクローンを倒す瞬間。 ライスはそれを最後まで見届けてくれた。 普通は怖くてあの場から逃げるはずだから、おかしいと思ったんだ」

「・・・」

「ライスの本当の目的は何だ?」

「兄さん。 観念して全てを話してくれ」


ヘンリーもそう言うとライスは深く息を吐いてこう言った。


「・・・本当は俺も、魔女の信者だよ」

「え?」


ライスはヘンリーの言葉を聞いて素直に驚いていた。


「お前は小さくて物心がついていなかったから知らないと思うけど、俺たちの母さんは魔女だったんだ」

「魔女!? 母さんが?」

「あぁ」

「いや、そんなことを急に言われても」

「・・・そして母さんは人間に殺された」

「・・・母さんは隣町へ行った帰りで事故に遭ったんじゃ」

「それはお前に心配をかけないように、っていう父さんの嘘だ」

「・・・その話は全て本当?」

「本当だ。 魔女狩りを一番最初に始めたのはこの街。 この街で母は人間に殺された」

「そんな・・・」

「そして魔女狩りを今お前たちが住んでいるあの村でもやろうとした。 だから許せなかったんだ」


二人の会話にイージュは割って入る。


「人間を懲らしめるために魔女のクローンを作ったのか?」

「あぁ。 でもそれだけじゃない。 魔女の評価を上げたかったのもある」

「評価・・・」

「クローンをイージュが倒したおかげで、人間は魔女の存在を認め今は魔女狩りが廃止された。 そうだろ?」

「・・・そうだな」

「イージュの魔力が回復した後、クローンに負けろっていう命令をするつもりだったんだ」


次に言いたいことは予想できた。


「イージュの魔法の攻撃によってクローンは敗れる。 魔女が人間を救った。 結果、魔女は誇られ人間は魔女狩りを廃止する」


そこまで言うとライスは溜め息をついた。


「この流れを想定していたけど・・・。 まさかクローンが裏切るとはね。 それに魔女の本当の力がクローンの足元にも及ばないくらいだったのには驚いたけど」

「もしかして、この研究所へ来るまでに私に意図的に魔力を使わせたのって」

「クローンに負けさせるためだよ。 クローンが普段のイージュ以上の魔力を持っては駄目だからね」


正直あの程度の魔法では魔力はほとんど消費されなかったが、彼なりにやろうとしていたことは分かった。 ライスは話をいったん区切り立ち上がると、壁の装置を操作し地下への階段を出す。


「地下へ行く。 付いてきてくれ」

「どうして地下へ?」


ライスはその疑問には答えずゆっくりと階段を下りながら語り出す。


「あの一週間以内に身体が燃える薬。 あれを全てただの水にすり替えたんだよ」


つまりただの水にすり替えた後にヘンリーは一つの薬を交換したらしい。 何も打ち合わせなしの出来事だったが、兄弟の各々の考えが上手く重なったようだ。


―――凄いな。

―――まるで奇跡だ。


兄弟の計画の奇跡が生まれなければ成功しなかった。 そして、階段を下りた先の地下室でとんでもない光景を目にすることになる。


「え、みんな!?」

「魔女はみんな無事さ」

「本当か!? でも、魔女は私以外燃えたって聞いたけど・・・」

「俺が人形を使って魔女が燃えたように見せかけたんだよ。 あの村にいた魔女たちを一人ずつ俺が迎えにいったんだ」

「・・・そこまでしていたのか」

「あぁ。 それでイージュは最後の魔女だった。 他の魔女の無事を確認し、最後の魔女には活躍をしてもらいたかったからこうなったわけ」


地下室を開けてくれた。 そこには見慣れた仲間たちがいて、笑顔でイージュを迎えてくれた。 イージュと魔女が再会を喜んでいる間ヘンリーがライスに尋ねた。


「どうして僕にまで魔女が嫌いだとか嘘をついたんだ? 家族なんだから相談くらいしろよ」

「身内を一番最初に騙さないと計画は成功しないだろ」






                                 -END-



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

騙された魔女 ゆーり。 @koigokoro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ