騙された魔女⑪
ヘンリーは頑なに動こうとしないイージュを見て目を見開いていた。
「どうして!?」
「ここで逃げたらクローンにこの世界を奪われる」
「いや、そうかもしれないけど!」
イージュは意を決してクローンに抱き着いた。 幸いクローンの口から破壊光線は危険だが、背後に回ってしまえば対処できないようだ。 そのまま離さずキツく抱き締める。
魔法が使えないためクローンの動きを力尽くで制御したのだ。
「何をしているんだ! 今すぐ離れるんだ!!」
「私はもうじき燃えてしまう。 クローンと一緒にこのまま死ぬ!!」
「そんなッ!」
酷く悲しむヘンリーに向かって小さく笑ってみせた。
「・・・おばあちゃんを助けてくれて、ありがとう」
「ッ・・・!」
身体がかなり熱くなった。 本当に芯から炎でも溢れるような感覚だ。
―――もう私の人生はここで終わるんだ。
―――村を救えて終えるなんて幸せじゃないか。
このままクローンと共に死ぬと覚悟した瞬間、何故か一気に身体が冷めていった。
―――・・・え?
―――どうした?
―――一体何が起こったんだ?
同時に一気に魔力が回復していた。 理由は分からないが魔力が回復すれば魔法を使うことができる。 次の瞬間にはクローンロボットは地面から這い上がる霜によって氷の彫像のように固まっていた。
いや、実際に触れば冷たい氷に包まれているだろう。 本物の魔女の前にクローンロボットは何の力も示さなかった。
―――クローンロボットを倒せた・・・!
「あの魔女がクローンを倒した・・・?」
「嘘だろ? 魔女が人間の村を救った!?」
今の光景を見ていた少人数の人間が騒ぎ出した。 人間側に付いたイージュに困惑しているようだ。
「・・・あ」
その中に混じっているライスを発見した。 逃げずに森の中で身を潜めていたようだ。 ライスはイージュと目が合うと慌てて逃げていった。
―――どうして逃げずに見ていたんだ?
考えているとヘンリーがやってきた。
「驚いた。 あのたった一つの薬が当たったのは、イージュだったんだね」
「薬? 何の話だ? そう言えば、さっきも薬の話をしていたな」
「あぁ。 身体が熱くなったっていうのは本当?」
「本当だ。 身体が燃える合図だと思ったけど、今思えばあの感覚はまるで呪いが解けていくような感じだった・・・」
「一週間前に魔女狩りに遭った時、飲まされた薬があるだろ?」
「あぁ」
「その時にこっそり、身体が燃える薬を魔力を抑える薬に混ぜたんだ。 もし魔力を抑えられたらその時だけ身体が人間になって、呪いを解呪できるかもしれないと思ったから」
「それをヘンリーがやったのか?」
ヘンリーは静かに頷いた。 ヘンリーが言うのならその言葉に嘘はないのだろう。 同時に他の魔女たちの行方も気になった。
「そしたら、他の魔女たちは・・・」
「・・・ごめん。 魔力を抑える薬は高価で、一人分しか手に入らなかったんだ」
「ッ・・・」
「だから君しか助けられなかった。 本当は全員助けたかったんだけど、僕の力不足で・・・」
俯くヘンリーに首を横に振った。
「・・・そんなことはない。 魔女一人の命を助けてくれただけで十分だ。 ありがとう」
そう言うとヘンリーは力なく笑った。 そしてクローンのことを思い出す。
「・・・なるほど。 そういうことだったのか」
「何が?」
「どうしてクローンの魔法が弱かったのか。 私の抑え込まれていた魔力だけを吸い取ったから、クローンは弱かったんだ」
ヘンリーはよく分からない話に首を捻っていた。 研究所にいなかったため分からないのも当然だ。
「それで今、薬の効果が切れたということか」
「そういうことだね。 身体が熱くなったのは薬が切れる予兆だと思う」
話していると周りを大勢の人間に囲まれていることに気付いた。 イージュが周りを見渡すと、人間たちはイージュに向かって一斉に拍手を送っていた。
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