騙された魔女⑩
―――・・・兄さん?
―――兄さんってどういうことだ!?
ライスが楽しそうに言う。
「丁度いいところで入ってきたね。 間一髪でイージュのことを助けるなんて」
「イージュのことを知っているのか?」
「まぁ、色々とあってね。 ね?」
「・・・」
ライスがこちらを見てきたがスルーした。 ヘンリーは真剣な表情で言う。
「・・・兄さん、お願いだ。 僕の大事な村を荒らすのはもう止めてくれ!」
「嫌だね。 お前は魔女信者過ぎるんだ。 そんなお前と絶縁して精々している」
「どうしてそんなに魔女を嫌うんだ!」
その質問にライスは冷たい表情で答えた。
「それはみんなが思っていることと一緒さ。 魔女に支配されたら人間が負けるからだ」
―――・・・まぁ、普通はそう考えるよな・・・。
魔女がその気になれば人間の村を一夜で滅ぼすことも可能だ。 だがそれでは魔女たちにとってもいいことにはならない。 魔女はその字の通り女性にしかおらず、単体では繁殖することができないのだ。
しかしそれは魔女側の事情であって、人間には関係ないこと。 自分たちより明らかに強大な力を持つというだけで畏怖の対象となる。
「ヘンリー。 お前こそどうして魔女を庇うんだ?」
「魔女だって心優しい人がいるって知っているから」
「魔女に助けられたことでもあるのか?」
「ない。 だけど会ったこともない人を悪い人だと決め付けるのは、それはおかしいって言っているんだ」
「お前は魔女に騙されている」
「騙されていない!」
二人の会話を聞いてイージュは疑問を抱いていた。
―――兄弟、なんだよな・・・?
―――だから二人の容姿はこんなにも似ていたんだ。
―――だけど兄弟なのに、普通こんなに意見がすれ違うものか?
二人の言い合いを聞いていると突然イージュの身体が熱くなり始めた。
「うわ、熱ッ・・・!」
イージュはその症状から遂に時が来てしまったことを察した。
―――嘘、今!?
―――今から私の身体は燃えるのか・・・?
身体の内部から来る熱さが、もうすぐ燃えるという合図だと思った。 ヘンリーがイージュの異変に気付き駆け寄ってくる。
「イージュ! イージュ、大丈夫!?」
「来ては駄目だ!」
「どうして!」
「これ以上近付くとヘンリーも火傷してしまう!」
「そんな! じゃあせめて、川にでも・・・」
その様子を見ていたライスが余裕の笑みを浮かべて言う。
「ほら、クローン。 もうこの魔女は終わりだ。 これからは魔女クローンロボットの時代になるぞ」
『そう・・・。 魔女クローンロボットの時代になる』
話を聞いているクローンの様子がどこかおかしい。 そんな気がした。
「とっととこの村を破滅させよう。 ほら、クローン攻撃だ」
『・・・』
その言葉に咄嗟に戦闘態勢を取る。 だがクローンは動かない。
「クローン? どうした?」
『・・・』
「魔女クローンロボット! 命令を聞け!」
『・・・これからは魔女クローンロボットの時代。 だから人間は全て滅亡させる』
クローンがハッキリとそう喋り目の色を変えた。
「なッ!?」
クローンは自分の意思を持ち暴走し始めた。 もうライスの命令を聞く様子はなく、あちこちにある建物を壊していく。 こうなれば人間はどう足掻いても太刀打ちできない。
「そんな・・・ッ! こんなはずじゃなかった・・・ッ」
ライスは驚いた顔をして逃げていった。
「おい、兄さん!」
クローンを作り出した本人が逃げ出してしまってはどうしようもない。 それを見たヘンリーが溜め息交じりに言う。
「クローンロボットには勝てない! イージュも逃げよう!」
そう言って腕を掴まれた。 だがイージュはその腕を振り払った。
「イージュ!?」
「・・・ごめん。 私は行けない。 いや、私は逃げない」
「・・・え?」
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