騙された魔女⑨




ヘンリーは間一髪のところで木の棒を叩き落とした。 その際に手に火傷を負ってしまっている。 予想外の行動にイージュだけでなく村人も驚いていた。


「なッ! お前は人間だろ!? どうして魔女の味方をするんだ!」

「あそこにも彼女とそっくりなヤツがいただろ!?」


そう言ってヘンリーはクローンがいる方を指差した。


「あぁ。 魔法を使ってワープでもしてきたんだろ?」

「もしそうならとっくにアンタたちはやられてしまっているよ。 村を荒らしているのはクローンロボットだ! 彼女じゃない!」

「クローン、だと・・・!?」


ヘンリーの弁解により、イージュへ向かって攻撃する者はいなくなった。 村人はざわめき出す。


「どうしてそんな、クローンなんて・・・」

「ロボットにどうやって太刀打ちをしたらいいんだよ!」


クローンロボットだという事実を受け混乱する村人たち。 だが次第に目標を失い、標的はイージュへと戻ってきた。 村人たちはイージュを非難し始める。


「も、元はと言えば魔女の存在がいけないんだ! 魔女がいなければあのクローンは作られていなかった!」

「そ、そうだ! 魔女がいたのがいけない!」


―――何だよ、それ・・・。

―――全て当て付けじゃないか!


心無い声がイージュの胸に突き刺さる。 非難されイージュはこの村を救う気がなくなった。


―――・・・もうこんな村なんて知らない。

―――このまま滅びてしまえばいいんだ。 


居ても立っても居られなくなりイージュは一人走り去る。


「あ、待って!」


それをヘンリーだけは追いかけてきた。 何度も呼び止める声が聞こえるが、全て無視して走り続ける。


「あ・・・」


だが逃げた先で運悪くクローンと鉢合わせしてしまうのだ。 そこには当然のようにライスもいた。


「あれ。 イージュ、まだ生きていたんだ?」

「・・・」


ライスと目が合い彼はニヤリと笑う。


「魔女はクローンだけで十分。 もうすぐイージュは燃え尽きるんでしょ? 手伝ってあげようか?」

「・・・」


イージュは何も言わずクローンの前から一歩も動かなかった。

 

―――そうだな。

―――・・・ここで死ねるのなら、私はそれでも・・・。


ライスはチラリと森を見ると、イージュを指さしながら命令した。


「クローン。 イージュを燃やせ」


それに従いクローンはイージュに向かって一撃を放った。 イージュは死ぬ覚悟をしていたため動かない。 だがその光線がイージュに当たることはなかった。 

攻撃が当たる寸前にヘンリーによって突き飛ばされたためだ。


「ッ・・・! ヘンリー・・・」

「無事かい!?」 


二人は安否を確認しながらその場に立ち上がる。 ライスは何も言わず何もせずに、二人のことをジッと見ていた。


―――ライスはこれ以上何もしないのか・・・?

―――攻撃を畳みかけるなら今だと言うのに。


ライスを横目にヘンリーに尋ねる。


「さっきもだけど、どうして私を守ってくれたんだ? 貴方は人間だろう? 私は魔女なんだぞ?」


そう言うと当然のようにヘンリーはこう言ったのだ。


「魔女は魔女でやるべきことがある。 だから生まれてきたんだ。 必要のない生き物なんてこの世には存在しない」

「ッ・・・!」


その言葉だけは確かに記憶されている。 祖母が思い出の中で語った、唯一の人間との懸け橋となる言葉だ。


―――おばあちゃんを救ってくれたのはライスじゃない。

―――ヘンリーだったんだ・・・!


そう思うとじんわり胸が熱くなった。 だがこの後更に驚くことをヘンリーが言ったのだ。


「それで、これは兄さんの仕業だったのか」

「・・・え?」


ヘンリーはライスに向かってそう言っていた。



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