騙された魔女⑧




イージュは身を潜めながらこっそりと様子を窺った。


「・・・ッ!」


思わず息を呑む。 そこには先程イージュを裏切ったライスとイージュそっくりのクローンがいたのだ。


―――やっぱり、もう来たんだ。

―――さっきライスが言っていた言葉は本当だった。


クローンを見た村人が言う言葉はイージュが予想していた通りのものだった。


「さっきの魔女だ!」

「やっぱりアイツは隣町の奴らとグルだったんだ!」


―――・・・やはりそうなるよな。

―――ライスが私そっくりの見た目の人形を作り、私を村へと追い返したことはそう思わせるためだったのか?


だからどうだというのだろうか。 結局は魔女が村を襲っているという事実がなくてもイージュは迫害されているし、死にゆく運命を持つのだ。 

もっともこのままだと村が無事だったとしてもここにはいられそうになかった。 


―――私とクローンを間違えるなんて、致命的だが・・・。


魔女は火が苦手だ。 火のついた松明を持ちクローンと戦おうとしている。


―――相手はクローンだけどロボットだ。

―――火が弱点ではない。

―――クローンロボットに人間が勝てるわけがない。


村は襲撃に耐えられず既にボロボロになっていた。 人形は魔法を自由自在に扱えるというわけではなさそうだが、破壊力なら十分な力を持っている。 

口から飛び出す青色の光線は瞬く間に民家を炎で包んだ。


―――どうしてそんなところから魔法を・・・。

―――私のイメージも何もかもお仕舞だ!


その時だった。 先程イージュを引き止めた村の青年がやってきた。


「いた!」

「ッ、どうしてここへ・・・」

「やっぱりあの魔女は君の偽物。 そうだと思った」


居場所が見つかり驚いたイージュは少し彼と距離を取った。


「驚かないで。 僕の名前はヘンリー。 君の名前は?」

「・・・イージュ」


どこかでやり取りした覚えのある言葉だった。


「・・・私と見分けがついたのか?」

「ついたよ。 イージュには感情がある。 でもあの魔女には感情が感じられなかったから」

「・・・」


ヘンリーは真剣な表情をして言った。


「お願いだ。 この村を救ってほしい。 これはイージュにしか頼めないんだ」


人間は大嫌いだが、ここは祖母と暮らした思い出があり仲間の眠る場所でもある。 せめてこの村を救ってから死にたい気持ちがあった。


―――でも、私には・・・。


しかし今の自分では何もできないため首を横に振る。


「・・・私もできればそうしたい。 でも無理なんだ」

「どうして?」

「今の私には魔力が全然ないから」


それを聞いたヘンリーは驚いた顔をした。


「魔力が全然ない・・・!? もしかしてイージュは、僕が用意したたった一つの薬を・・・」


ヘンリーは首を傾げながら独り言を呟く。


「・・・何だ?」

「・・・いや。 ごめん、確証がないし何でもない」

「・・・そうか。 とにかく今の私にはあのクローンには太刀打ちができないんだ」

「そっか・・・」


二人して困っていると避難途中の村人と出会った。


「魔女だ! 魔女を見つけたぞ! さっきまで向こうにいたのに一瞬でワープしやがって!」


まだクローンをイージュだと疑っているのだろう。 村人は手に持っている火のついた棒をイージュに向かって放り投げた。


「ッ・・・!」


イージュは咄嗟にいつものように身構えた。 だが咄嗟のことだからこそ、身体に染み付いた習慣として魔法で対処しようとしてしまう。


―――・・・ッ、駄目だ!

―――私は今魔力がなくて打ち消せない!


逃げる判断を最初からすればよかった。 だがもう遅い。 目の前に火が飛んできていた。


―――もう、終わりだ・・・。


そう諦め目を瞑ろうとした瞬間だった。 イージュの前にヘンリーが立ちはだかったのだ。


「え・・・。 どうして!?」



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