騙された魔女⑦




ライスはイージュを置いて研究所へと戻ってしまった。 一人取り残されたイージュの頭の中には疑問符が並んでいる。 薬で眠らされ魔力を奪われてっきり酷い目に遭うと思っていた。 

しかし、現在は監禁も解かれ自由の身。 更に最後の意味深な言葉だ。


―――今すぐに村へ戻れ?

―――一体どういうことだ・・・?


言葉の意味は分かる。 だが何を思ってそのようなことを思ったのかいくら考えても分からない。 残された時間は少ないはずで、有効でなければならないがやはりあの言葉を無視することはできなかった。


―――とりあえず今は、私にできることをしないといけない。


村というのは人間の村のことだろう。 魔女の集落を村とは呼ばないし、今更戻ってももう仲間たちはいない。


―――私のクローンロボットを使って村を襲うと言っていた。

―――何故それを私に伝えるのかさっぱり分からないが、今は戻るしかない。


イージュは急いで自分の住んでいた村へと戻ろうとした。 ここへ来るまでに時間がかかったが空間転移を使えばすぐに戻ることができる。 だが魔法は発動しない。 魔力が枯渇しているためだ。


―――あのクローンは魔法が使えるということか?

―――のんびりとはしていられないな。


仕方なく全速力で村へと戻った。 フードを被っているため村人の視線が痛い。 たがそれにも構わず人通りの多いところへ移動する。


―――・・・人間の前に姿を晒すのは怖いけど。

―――この村を救うことができるのなら。


イージュは意を決しフードを脱ぎ去ると、大きく声を張り上げた。


「みんな! みんな、聞いてくれ!!」


やはり魔女であるイージュに村人たちは一斉に注目した。 ひそひそ話からざわめきが少しずつ大きくなっていく。


「ッ、魔女だ! 魔女がまだ生きているぞ!」

「誰か火を持ってこい!」


散らばり始める村人たちに慌てて言う。


「待つんだ! まだ私を殺すな! どうせ私は今日で死ぬんだから、急ぐ必要はない!!」 


そう言うと少し村人は静かになった。


「・・・何しにここへ現れた?」

「忠告をしに来た」

「忠告? 何のだ?」

「もうすぐで隣の街からの襲撃が来る」


村人はしばらく顔を見合わせた後、嘲笑うように言った。


「ははッ! 哀れにも残った魔女が、俺たち人間に避難しろって? 嫌だね!」

「俺たち人間がここからいなくなったら、お前たち魔女がこの村を横取りする気なんだろ?」

「違う! 私は本当のことを言って」

「もうすぐお前の身体は燃えるんだ。 さっさと散れ! この村を燃やすな!!」

「そうだそうだ! この村から出ていけ!!」

「ッ・・・」


信じてもらえず石など投げられればこの場にはいられない。 


―――私は本当のことを言っているだけなのに。

―――もう、どうしたらいいんだ・・・。

―――私はまだ諦めたくない。


村を出るよう言われたが出る気はない。 とりあえず森に避難しようとすると一人の村人に呼び止められた。


「君!」


振り返ると呼び止めた彼は緑色の髪をして目は青色の青年だった。


「あれ、さっきの・・・」

「さっき? 何のこと?」

「え?」

「君とは今初めて会ったけど」

「初めて・・・?」


言われてみれば先程まで一緒にいたライスとは全然顔が違う。 珍しい特徴なのかと思っていたが、案外そうでもないのかもしれない。


「・・・何か用か?」

「いや、どうして襲撃をしに来るって俺たちに教えたのかなって。 一応人間と魔女は敵対しているわけだし」

「・・・確かにここは人間の村だ。 だが別に場所を憎んでいるわけではない。 アンタは知らないだろうが、この村には感謝しているところもあるんだ」 


それだけを言うとイージュは一人元の居場所へと戻った。 今朝もいた場所で人間にの目に付かず落ち着くことができる。


―――魔力はどのくらい回復した・・・?


試しに簡単な魔法を使おうとしてみたがやはり使えない。 本来、眠っている間に魔力は回復するもののため睡眠薬におかしなものでも入っていたのかもしれない。


―――どうしよう。

―――本当にこのままだとこの村は滅びる・・・。


襲撃されたら自分が前へ出て攻撃を抑えたかった。 魔法さえ使えれば魔力を籠められただけの人形なんかに負ける気はしない。


―――もう私にできることはないのか・・・。


何もできない自分に悔しく思ったその時だった。 近くから大きな爆発音が聞こえてきた。


―――ッ、もう来たのか!?


早速隣の街から襲撃が来たようだ。 激しい音と村人の悲鳴が聞こえてきた。



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