騙された魔女⑥




もがいてみても簡単に鎖は外れそうにはない。 それよりも鎖が擦れる音でライスが気付いた方が問題だった。


「あれ。 もうお目覚め?」


改めて彼の顔を観察してみる。 緑色の髪をして目は青色の青年。 夢で見た祖母の言う特徴と全く同じだ。 人間にして緑色の髪というのは非常に珍しくイージュは他に見たことがない。 

だがイージュ自身が実際に顔を見たわけではないのだ。


「どういうことだ・・・? どうして私は縛られている?」

「いや、それよりもさ。 目覚めるの早くない? まだ三十分しか経っていないんだけど」


―――いや、そんなことを言われても・・・。


ライスは本当に不思議そうな顔をしていた。 目覚めはいい方だが、薬を盛られた後どうなるのかは初の体験だ。


「これは人間用の薬だし、魔女には効果が薄いのかな・・・」


ライスの言葉をスルーし、縛られている金属を外そうと魔力を使う。 だがピクリとも動かず外せなかった。


「あれ、魔法が使えない・・・。 もしかして本当に人間に戻ったのか・・・?」

「あぁ、戻っていないよ」

「え?」


ライスは縛られたイージュを見下ろしながらあっけらかんと言った。


「あれはただの睡眠薬だから」

「睡眠薬? じゃあ、どうして今鎖が・・・。 睡眠薬なら魔法は使えるはずなのに」

「魔力切れじゃない?」

「魔力切れ・・・?」


そう言えば確かにこの身体の感覚は魔力が枯渇した時のものだ。 今日一日を振り返れば確かに魔法をよく使った。 普段は極力魔法に頼らない生活をしていたため久しぶりだった。 


―――全部魔力を使い切らせるための計画だったというわけか。

―――だが魔力切れを起こした私を捕まえて何になる?

―――もう数刻もすれば炎に包まれ死んでしまうというのに。


魔法は今現在使えない。 そしてイージュは今監禁されている。 逃げる手段がなかった。


―――・・・ライスは夢で祖母が言っていた青年ではなかったのか?


道中のことに思い巡らせ、打開策を模索する。


「妹さんが大変な病にかかっているという話は?」

「僕に妹なんていないよ。 いるとしても弟だけ」

「私の魔力をどうする気だ?」

「どうすると思う?」 


ライスはこの部屋にある棺桶のような箱の傍に移動した。


「こうする気」

「・・・ッ!」


何かを操作すると蓋が開き、そこから一人の人間が現れた。 いや、ただの人間には思えない。 顔や皮膚もつるつると光っていてどうもおかしい。


「これはクローンロボットさ。 まあ、イージュには分からないだろうけど」


分からないだろうと言われても分かることが一つある。 それはそのロボットがイージュそっくりな見た目をしていることだ。


「どうして、私の姿がそこに・・・」

「イージュの魔力をこのクローンに全て注ぎ込んだ。 これで僕に忠実な魔女の完成さ」


ロボットは自立で移動し青年の隣に並ぶ。 自身そっくりの何かに見られているのはどこか気味が悪い。


「それを使って何をする気だ?」

「イージュが今まで住んでいた村を襲おうと思って」

「はッ・・・。 襲って何になる?」


そう尋ねるとライスは一瞬考えてから言った。


「あー、そうだな。 俺のものにしたいんだよ、うん」 


どこかフワッとした言い方だった。


―――怪しい・・・。

―――その答えも嘘のように思える。


だがライスが悪事を企んでいるのは確かだった。 しかもイージュの見た目をしているため、人々はイージュも仲間だと考えるだろう。


―――・・・おばあちゃん。

―――やっぱり人間はみんな嘘つきだったよ。

―――小さくて魔女を大切に想ってくれていた彼は、もうどこにもいないんだ。


ライスは資料に目を通す。 ある数を数えるとイージュに繋がれている鎖を全て外した。


―――・・・え?


「イージュはもう用済みだ」

「何だ? 用済みって」

「この後は勝手に身体が燃えるんだろう? 研究所にいられたら迷惑だ。 どうぞお外へ」

「私はただライスに利用されただけなのか?」

「そういうことだよ」


ライスはイージュを研究所から追い出した。 だがその際にイージュを一瞬自分のもとへ引き寄せる。


「おい、何を!」

「今すぐに村へ戻るんだ」

「・・・?」 


彼が一体何をしたいのか分からない。 言うことを聞くのも癪な気がする。 だが村に戻れと言った時の彼の瞳がやけに青く輝いて見えたのだ。



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