騙された魔女⑤




魔女は魔法を使えば色々なことができるが、普段は人間と大きく変わらない。 眠った時に夢を見るのも人間と同じだ。


「大丈夫だよ。 イージュ」

「でも、おばあちゃんが・・・。 おばあちゃんがぁ・・・ッ!」


その夢は幼少の頃に魔女の集落で泣いている場面から始まった。 そんなイージュを仲間が慰めてくれるが涙はなかなか止まらない。 その理由は身内である唯一の祖母の帰りが遅いからだ。 


「やっぱりおばあちゃんも、人間に襲われちゃったの?」

「それはまだ決まって・・・」

「嫌だ。 そんなの嫌だよ!」


両親は既に亡くなっていたため身内を失うことに怯えていた。 人間は魔法を使う魔女を殺すための策をいくつも編み出してきた。 両親は人間に見つかりあっさりと殺されてしまったのだ。 

その上祖母もいなくなるとと思うと不安で仕方がなかった。


「大丈夫。 泣かないで、イージュ。 きっと帰ってくるから」 


祖母の帰りが遅かったことは両親を失ってから一度たりともなかった。 魔法を使える魔女は時間に遅れるということ自体がほとんどないのだ。 それでも仲間は慰めてくれ、待っていること数時間。 

夜中になってようやく祖母は帰ってきた。


「ッ! おばあちゃん!」


イージュは祖母に駆け寄り抱き着いた。


「イージュ、まだ起きていたのかい?」

「うん。 ずっと心配で眠れなかった」

「そうかい。 心配をかけてごめんねぇ」

「本当に心配だった! ちゃんと帰ってきてくれてよかった・・・」

「ちょっと色々とトラブルが起きちゃってね」

「人間に見つかったの?」


率直に尋ねると祖母は表情を暗くした。


「・・・あぁ。 見つかったよ」

「ッ・・・!」


その言葉に一気に涙が溢れた。


「そんなぁ・・・ッ!」


顔が知れ渡れば人間は祖母を探し、魔女狩りに遭う可能性が高くなる。 だが祖母は優しく笑いながら頭を撫でてくれた。


「でもイージュ、安心して。 人間の子供がおばあちゃんを助けてくれたんだ」

「・・・人間が? 人間が助けたの?」

「そう。 珍しいこともあるもんだねぇ。 人間も悪い人ばかりではないのかもしれないね」

「・・・」


イージュには理解ができなかった。 今まで人間は危険な生き物だと教えられてきたからだ。


「・・・その人間の子はどんな子供だったの?」

「そうだねぇ。 綺麗な緑色の髪をして、目は澄んだ青色。 とても可愛らしい少年だったよ」

「そうなんだ。 どうして人間なのに、魔女を助けてくれたんだろう・・・」


そう呟くと祖母は嬉しそうに言った。


「それを聞いてみたんだよ。 そしたら『魔女は魔女でやるべきことがある。 だから生まれてきたんだよ。 必要のない生き物なんて存在しない』って言ってくれたんだ」

「・・・! いい人だね、その人間の子供」

「そうなんだよねぇ」


もしかしたら魔力という力がその夢を見させてくれたのかもしれない。 



―――そうか・・・。

―――どこかでライスの容姿に憶えがあると思ったら・・・。

―――ライスはおばあちゃんを助けた、人間の子供だったのか・・・。


イージュの意識が徐々に戻ってきた。 過去の映像がどんどん遠ざかっていく。


―――また昔の夢を見ていた・・・。 


薄っすらと目を開けると前に背中を向けるライスがいた。


「ライ・・・」


声をかけようとしたところで止めた。 ライスが何かを呟いていたのだ。


「これで母さんの敵が取れる・・・。 ようやくここまできた。 準備が全て整った」


―――・・・ん?

―――何のことを言っているんだろう・・・。


ふと辺りを見渡すとそこは知らない一室だった。


―――え?

―――ここはどこ!?


どう見ても先程案内された場所ではない。 どうやら運び込まれたようだ。 ライスの先程の呟きを整理したいが、寝起きの頭では上手く考えられなかった。


―――私は、今・・・。


イージュは何故か椅子の上で縛られ拘束されていた。



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