レベル4

side 三人称

「ディーバウイルスの患者が運ばれたらしいな」

「あ〜れ〜?なんであんたが小児科にいるのかなぁ、今日は精神科の方に行ってるはずだろ?」


小児科の診察室。一人の男が患者の資料を読んでいた。赤黒い髪色で、白衣をだらしなく肩から下ろしている。緑の瞳が見ているその資料には"坂田海斗"と書かれており、運ばれる直前の状態と症状が載っている。

そんな時、ノックもせずに入ってきた男がいた。背丈が高く、黒髪に白のメッシュが入っており、一束目立つように黄色のメッシュも入っていた。威圧感があると言えばいいのだろうか。何者も寄せつけようとしない一匹狼の風格。少し長めの前髪から覗く黄色の瞳は、まるで月のようであった。

だが緑の瞳を持つ男は、そんな男を見ても明るく笑うだけだった。少し煽りが混ざっているようにも思える。動物に例えるなら、背丈のある男が狼、緑の瞳の男はハイエナだろう。


「どこで出た、言え」

「俺が知るわけないじゃぁん?自分で探せば?天才外科医もとい、精神科医の春屋斗我はるやとうがせんせ」


その言葉に「チッ」と舌打ちを漏らす斗我と呼ばれた男は、イラついた様子を隠そうともせず、デスクに思い切り拳を振り下ろした。鈍い音を立ててデスクが揺れる。それに対して特に焦る素振りも見せない男は、先程まで見ていた資料を斗我の胸に押しつける。


「はいこれ俺からあんたへのラブレター。お返事待ってるよん。だからさっさとどっか行った」


整った顔で微笑みながら、しっしと手を動かす男を見て、またもや拳を拳を振り下ろしそうになった斗我だが、資料を渡された身として中途半端に傷つけることも出来なかった。大人しく出入口のドアを開けると、男は「ばいばーい」と手振った。最初から最後までイラつきを覚える態度に、斗我は先程よりも大きな舌打ち、男に聞こえるような音量で言った。

空間に沈黙による静けさが流れた。時計の針の音が1番大きく聞こえるほどに。男はデスクから、あらかじめコピーして取っておいた資料を取り出す。『腕の一瞬の灰化を確認』と載っている。

ディーバウイルスには、症状ごとにレベルが分けられている。運ばれてきた患者はレベル1『急な発熱と身体の1部の一瞬な灰化』。レベル5まで分けられているこの病気、レベル5はそれ即ち死を表している。病気が進行してしまったら最後、全身が灰になって死亡する。公にはなっていないが、ネット掲示板では都市伝説のような感じで広がっている。


「これは、そのうちバレるぞ〜、院長」


そう呟く男の胸にかけられているネームプレートには、鶴外雨谷つるがいあまやと明記されていた。


side 立花采彩

ディーバウイルスが見つかったのが5年前、1人の医者が犠牲になったことで発見された。感染力は非常に弱く、集団感染をしたという情報は1度も聞いたことがない。

なぜ俺がOAR保持者になったのか、それは天才外科医と呼ばれているからだろう。この機器を扱うには、肉体面、精神面ともに優れていなければならない。偶然俺にはそれが備わっていたというだけ。俺は人との交流を好まない。ただ仕事をこなすだけ。


「すいません、この辺りで変なコスプレした人とか見ませんでした?」

「……さぁ」


はぁ、と肩を落とす内科医を横目に歩く。


『だって!!』


正直、内科医があそこまで叫べるのは知らなかった。普段気弱そうに見えて、患者のことになると己の意志を曲げない男。

まるであの男のようだった。


「采彩さん」

「なんだ」


後ろからついてくる内科医に声をかけられ、歩む足を止めずに答える。


「ディーバウイルスってどんな感じなんですか?怪物のようだとしか聞いてませんけど」

「そのままの意味だ。異質な何か、お前は特撮物は見ていたか」

「はい、そりゃあ小さい子は誰でも見ると思いますけど……」

「その特撮物に出てくる敵のようなものだと思えばいい」


そう言うと「……なるほど……?」と納得したような、納得していないような曖昧な返事を返してきた。

しかし、先程から聞き込みを続けてはいるが、全く目撃情報がない。内科医も根をあげると思っていたが存外ついてまわっている。

どこにいる、ディーバウイルス。

その時だった。


「……ッ」

「うわ、わッ」


大きく地面が揺れた。大の大人が2人ふらつく強さだ。それと同時に人の叫び声が聞こえた。


「きゃーー!!!!」

「さ、叫び声……采彩さん!!」

「あぁ、かなりの近くだな、いくぞッ」

「はい!!」



side 業天翔

たどり着いた時、思わず自分の目を疑った。酷い荒れようなのだ。地面のコンクリートもバラバラで、あちこちに人が倒れている。


「だ、誰か助けてッ、足が、動かない……」


女性の悲痛な声に周りを見回すと、女性が瓦礫に足を挟まれて動けなくなっていた。だが誰も助けない、見て見ぬふり。いや、自分の命で精一杯で助けることが出来ない。助けたくても助けれないのだ。


「お前はその女性を、俺は周りを」

「はい!!大丈夫ですか!!今助けますから!!」


瓦礫は重く、女性一人では無理だろ。男でよかったと心の中で思った。ギリギリ瓦礫を動かすことに成功し、女性の足の具合を見る。軽くその足を前後に動かしてみると、激痛なのかとても辛そうな表情を見せた。


「かなりの出血……これは骨折してるかもしれないですね。それに切り傷から菌が入って腫れてる。救急車を呼びます。応急手当するので」


一応と思い持ってきた包帯や消毒液、添え木を使い、多少の応急手当をしながら、病院に連絡をした。


「はい、僕です、業です。今街のビル街が倒壊などして負傷者が多数いるみたいです。救急車と消防車の手配お願いします。はい、住所はーーーはい、ありがとうございます。……よし後は、安静な場所に運びます。抱えるので痛かったら言ってください」


とりあえず、この女性はひとまずいいだろう。だが、その他にも負傷者が多すぎる。持ってきた物じゃ足りない。これならもっと沢山持ってくればよかった。

采彩さんは周りを見ると言っていたけど、一体どこに行ったんだ?


side 立花采彩


「……見つけたぞ。ディーバウイルスッ」

「ん、なんだニンゲン。この俺様に何か用か」


見つけたディーバウイルスは、まるで狼のような見た目であった。鋭くとがった爪、大きな口、1歩踏み出すたびに地面が揺れる。間違いない、こいつがこの有様の原因であり、患者に感染しているウイルスだ。


「用だと?無論、オペをしにきた。切り刻んでやる」


俺はOARを装着した。

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