第38話 7歳1月 ガチなミーティングと愛おしい気持ち
「軽いミーティングだから、金銭担当として参加してくれないかしら?」
先生にそう言われて、軽い気持ちで参加したミーティング。
参加者は先生、師匠、リヒト、そこに俺が加わった形だ。
リヒトが報告している。
「中級ダンジョン攻略班からの報告となります。
こちらは当初の計画通り2月より24階層に到達予定。
現在のところ、魔物の強さ等に問題はありません。
24階層到達後は月4回の攻略で諸経費を抜いて、毎月60万~80万Gの稼ぎを見込んでおります。
今後の予定に関しましては、少し予定を早め、5月には29階層到達を予定。
30階層の転移部屋を確保後はしばらく29階層での戦いを予定しております。
30階層、中ボス戦に関しましては不安が残りますので、お手伝いをお願いにあがると思います。
6月以降は月4回の攻略で100万~120万Gの利益をあげられる見込みです。」
どこが軽いミーティングなんだよ。。。
ガチのやつじゃねーか!
「中級ダンジョン33階層に行けば、最低でも150万G以上の稼ぎが見込めます。
しかし、こちらに関しては、ユウキ君に敵の魔法攻撃を一手に引き受けてもらう必要が出てくる為、1度検証してご相談致します。」
何だよそれ…
俺に盾を構えて、魔法攻撃の蜂の巣にされろということか。
まぁ、確かに無駄に精神だけが高いのは認めるが。。。
「報告は以上となります。」
「ふふふ、リヒト、ありがとう。
次は私からパーティー運営資金の現状を話すわね。
結論から言わせてもらうと、大変厳しいと言わざるを得ないわね。
まずは配布した資料の支出と収入の欄を見比べてもらえば分かると思うけど…」
パーティーの育成には時間も金も掛かる。
それは分かっている。
分かってはいるのだが…。
やっぱり資金がキツいらしい。
俺がマジックポーションを毎日2本飲んでいることに加えて、中級ダンジョン攻略に武器防具を購入したことも重なり、予定以上の出費を強いられている。
師匠の融資により、しばらくは持ちこたえられるが、このペースでいくと5年生になる前には完全に枯渇するらしい。
そうなってくると、名前が上がるのは金銭担当の俺だ。
「次は金銭担当のユウキ君からお願いね。
現状の報告と今後の予定をお願いね。」
え、俺…?
何も考えてないけど…。
「えーと、今は39階層に通って、月に450万Gくらい稼いでます。
今後の予定は45階層にはあと2~3ヶ月で1度チャレンジしたいと考えてます。」
「ユウキ君、もう少し早めに45階層へ行けないかしら?
あと、前倒しで装備品に付与して稼げそうにない?」
どうやっても45階層に関してはあと2~3ヶ月は必要だ。
相手は金属の塊だ。
相当、良い武器がないと魔法でしか敵を倒せないから、【火魔法使い】を最低でもLV12にして、【火魔法(小)】を覚えないと戦いようがない。
付与は大したスキルを持っていないから、現状では無理としか言いようが無いし。
はぁぁぁぁ。
結局、お金に追われることになるのか。
そりゃ、そうか。
俺も含めてマジックポーションだけで、4人で5本✕10万✕30日で月に1500万Gの経費が掛かっている。
俺が長期休暇を含めて、月平均500万G稼いでも、あと1000万G足りない。
いくら先生と師匠と言えど、そんなにお金がもつ訳がない。
師匠はいくらか稼いでるらしいが、それでもその赤字額は埋めようがないだろう。
俺が45階層に行けるようになれば、稼ぎは増える。
少しでも資金の足しにしてもらえるように、頑張るしかないか…。
しかし、このパーティーは一体何を目指しているんだ?
もちろん、俺だって誰1人として、死者を出したくない。
だからこそ、全員少しても強くなるべきだ。
それは分かってはいる。
俺だって同じ気持ちだ。
でも、サラさんは当然として、セリナ、リヒト、ダイチの3人だって、飛び抜けた才能を持っていると言っていい。
その才能の塊に貴族並みの教育費用を掛けた挙げ句、さらに魔法では『大魔導師』であるセイラ師匠
全体の連携や武術に関してはレベッカ先生の指導まで付いている。
そもそも、7~11歳のメンバーだけで中級ダンジョン攻略なんて聞いたこともない。
このまま行けば、3年後には上級ダンジョンでも行かせるつもりか?
俺達は小学生だぞ?
しかもだ。
『聖魔法使い』リーシャ
『アタッカー(魔法)』セリナ
『アタッカー(物理)』ダイチ
『斥候』リヒト
『壁役』未定
『回復』未定
『従者』俺
このメンバーに加えて、冒険者を装って先生と師匠とサラさんまで別動隊として付いてくるというのだ。
この3人がいれば、セリナもダイチもリヒトも居なくても普通にやっていける。
私達は別動隊だから、戦力として当てにするなと先生は言っているが、そもそも別動隊って何だよ?
いくら何でも戦力過剰だ。
この豪華メンバーに俺が付与する予定のレア属性、聖属性の武器と暗黒耐性の防具をフル装備。
各防具に【闇・暗黒耐性(微)】(暗黒属性ダメージ10%減少)が付くだけでも、やっかいな【暗黒魔法】の脅威度は大きく下がる。
さらに『闇魔法使い』の俺とリヒトがいれば、魔族が接近しても気付けるのだ。
このまま、あと4年ちょっと修行し続ければ、正直、中級魔族ぐらいなら何とでもなりそうな気がするんだけど。。。
当初はリーシャを守るだけのパーティーだったはずなのに、ここにきて、ただの魔族討伐パーティーとは思えなくなってきた。
上級魔族でも狩りにいくつもりか?
かと言って、そんな雰囲気でも無さそうだし。
俺達が何も知らないと思って、先生と師匠は何か隠しているような気がする。
まぁ、どちらにしても言われるがままに動くしかない訳だが。
来月の会議まで、少しでも状況を改善できないか各々で考えるように伝えられ、今日は解散となった。
さぁ…ダンジョンでも行くか。。。
俺の出来ることって、金を稼ぐか、強くなることしかないし…。
「はぁぁぁぁ。」
本当にもどかしい。
素直に認めるしかない。
自分の育成が上手くいってないことを。
この38~39階層で戦うようになって10ヶ月。
当初は魔法攻撃から身を守る為に精神値が大きく伸びる『僧侶』や一部の魔法職を。
敵に囲まれたら死にかねない状況から、スキル【気配察知】【気配遮断】を得る為に『狩人』『盗賊』のレベルを。
それぞれ重視して伸ばしてきた。
しかし、ここにきて、これが裏目に出始めたのだ。
急遽、『付与魔術師』『光魔法使い』『闇魔法使い』のレベルを集中的に上げることになった為、精神の値が予定よりも大きく伸びてしまった。
結果、精神と魔力が大きく伸びたが強い魔法スキルは無い。
ただの魔法に打たれ強いキャラが出来上がってしまった。
サラさんやセリナのような魔法使い相手なら圧倒的に強い。
ただ、それだけになってしまっている。
エレメントコアに対してもそうだ。
相手の魔法は大して怖くもなくなった。
もう5体程度なら囲まれても気にしなくなった。
囲まれても全く怖くないのに、やっともうすぐ、囲まれない為のスキルが取れそうだ。
我ながら遅過ぎるわ…。
でも、敵を倒す攻撃スキルが乏しい分だけ、相変わらず時間が掛かる。
要は守りは万全なのに、攻めは貧弱なのだ。。。
「はぁぁぁぁ。失敗した。」
こんなことなら、ダメージを与えられるように違う職業を伸ばしておくべきだったか…。
結局、10ヶ月前と似たようなことを言ってる気がする。。。
まぁ、着実に強くはなってるし、稼いだ経験値が無駄になる訳ではない。
気長にやるしかないか。
もう少ししたら、45階層にチャレンジする。
45~46階層はこの38~39階層とは逆のステータスが必要になる。
出てくるモンスターはアイアンゴーレムとシルバーゴーレムのみ。
物理攻撃が効きにくく、魔法攻撃がメインになる。
そして、敵からの攻撃は物理攻撃ばかりになる為、魔法ダメージを軽減する精神が必要なくなり、物理ダメージを軽減する体力が必要になる。
何より美味しいのは、ここのドロップだ。
通常のドロップは鉄と銀の塊。
これも、まぁ、銀の方はそこそこの値段で売れる。
問題はレアドロップのミスリルの塊だ。
これが美味しい。
大きさや質によって変わるが1つ20万~最大50万Gで売れるらしい。
そして、俺は運が高い。260もある。
セリナなんかで言うと、運が50くらいしかないと言っていた。
さらにスキル【運上昇(微)】(運+10%上昇補正)がつくと実質286。
これは一般成人平均の286%の運が加算されることを意味する。
レアドロップ確率はトドメを刺した人間の運の数値に依存する。
要は俺は他の人の何倍もレアドロップ確率が高いのだ。
そうなれば、稼ぎが一気に増える。
まぁ、稼いだ所で、パーティーの運営資金になるだけなのだが。
それでも、やるしか道もない。
学校もギリギリまで休んで、『火魔法使い』のレベルを急いで12まで上げないと、45階層にチャレンジすることもできないか。
23時過ぎ。
これから帰って、『光魔法使い』のレベル上げだ。
何か疲れた…。
今日はミーティングのせいもあって疲れきっている。
「ただいま。」
「お兄ちゃん。お帰りなさい。」
いつもの笑顔でリーシャが出迎えてくれた。
俺が疲れた顔をしているからか、今日はおねだりをして来ない。
「お兄ちゃん。お疲れみたいですね。
ここで横になってください。
疲れを癒す魔法を覚えたので、お兄ちゃんのお役に立ちたいと思って。」
「リーシャも疲れてるのに、ありがとう。」
本当に良くできた子だ。
俺を癒す為に待っててくれたのか…。
「いいえ、お兄ちゃんのお力になれるなら、リーシャはとても嬉しいです。」
リーシャが魔法を使うと暖かい光が俺を包む。
【リラックス】心を癒す魔法らしい。
「ありがとう。リーシャ。
ちょっと精神的に追い込まれてたから、とても気持ちが楽になったよ。」
「ふふふ、良かったです。
これから、毎日、魔法を掛けさせてもらってもいいですか?
お兄ちゃんが少しでも楽になるなら、その…婚約者として…頑張りたいですし…。」
リーシャの優しさが心に染みる。
セリナなんか頼みもしない【魅了魔法】を掛けまくってくるのに…
「リーシャがしんどくない時だけでいいからお願いしてもいいかな?」
「やった!やっとお兄ちゃんのお役に立てそうですね。」
ニッコリとリーシャが微笑んでくる。
俺のことをいつも考えてくれるリーシャの気持ちが嬉しい。
リーシャを抱きしめて、頭を撫でてあげる。
「リーシャ、いつもいつもありがとう。
リーシャがいてくれて、俺は本当に幸せだ。」
「あっ、お兄ちゃん…
リーシャも…リーシャもとっても幸せです。」
この子を愛おしいと感じる。
俺が絶対に守ってみせる。
絶対に死なせはしないからな!
2人のそんな光景を影で見ながら、レベッカはほくそ笑んでいた。
お嬢様にユウキを癒すように誘導したのは、もちろん私だ。
ユウキが喜ぶと言ったら、張り切ってユウキを待っていた。
ククククク、本当にユウキはチョロイわね。
すぐに情にほだされる。
まぁ、お嬢様が幸せになってくれるに越したことは無いけど。
ふふふ、ねぇ、ユウキ。
これから、さらにがんじ絡めにして抜け出せなくさせてあげる。
あはは、その為にセリナもサラもいるのよ。
どっぷりと泥沼にはまってちょうだい。
ふふふふふ、あなたは私の計画の為に必要なんだから。
しっかりと働いてもらうからね。
元勇者は転生し、人並みに過ごしたい 彩都と @saitoto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。元勇者は転生し、人並みに過ごしたいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます