第37話 7歳12月 リーシャのおねだりとかじられるユウキ

最近、俺が帰るまでリーシャが起きて待っていてくれるようになった。


「お兄ちゃん、おかえりなさい。

毎日、ご苦労様です。」

「ただいま、リーシャ。」


「あの…今日はお兄ちゃんに為にお菓子を焼いてみたんです。

お兄ちゃんのお口にあったら嬉しいなって思って。」


「いつもありがとう、リーシャ。

後で食べさせてもらうね。」


「それで、あの…今日も…その…おでこに…私、頑張ったから…」


顔を真っ赤にしたリーシャが上目遣いで、おでこへのキスをせがんでくる。。。

いや、ちょっと…可愛い過ぎるから…。



俺だって、リーシャが好きだ。

俺には勿体無いぐらい良い子だと思っている。

こんなことでリーシャが喜んでくれるなら、いくらでもやってあげたい。



あの悪魔さえ、いなければ。


「あははははは。」


リーシャの後ろであの女が笑っている…。

さっさとやれとあの女がジェスチャーで指示を伝えてきた。


クソが!この悪魔め…


2週間前、あの悪魔はリーシャが頑張ったご褒美に、おでこにキスをしろと命令してきた。


拒否した俺を殴ったあげく、ロープで木から吊るし上げ、ゾンビの餌にしようとしたのだ…。

ビビりの俺は足を3回噛まれただけで、あの悪魔の軍門に早々と下ってしまった。。。


いや、本当に怖かったんだって…

ダメージがどうこういう問題じゃなくて、精神的ダメージがヤバイというか…。


只でさえ、気持ち悪くて怖かったのに…

足をかじられたんだよ?


それからだ。。。

毎日のようにリーシャが何かを頑張り、ご褒美をおねだりするようになったのは…。


お嬢様が嬉しそうに色々と取り組むようになったと、あの女はご満悦のご様子だ。



「あの、明日も頑張りますから、その…

やっぱり、何でもないです。

お兄ちゃん、おやすみなさい。」

「あぁ、リーシャ、おやすみ。」


リーシャが小さく手を振ってくる。

ささやかかもしれないが、幸せな気持ちになる。


俺も今日1日頑張って良かったと思ったよ。

いつもありがとう、リーシャ。


リーシャが部屋に戻ると、あの女が俺の所にやってきた。


ささやかな幸せがぶち壊しだ。


「ふふふふふ、あはははは。

本当にあなたも酷い男よね。

おでこへのキスぐらいでお嬢様を操ろうとして。」


「なっ!操るってなんだよ?

全部、おまえがやれと言ったんだろうが!」


「あはは、あら、あなたは命令されれば、何でもするのかしら?

じゃ、明日からはもっと気持ちを込めてやりなさい。

リーシャ、愛してるよ。とか、気の利いた一言も欲しいわね。」


クソが!

断れば脅され、やったらやったで付け上がりやがって。

マジでぶっ殺してやりたい。


「はぁ?何でそんな言い方されてまで、やらなきゃいけないんだよ?

じゃ、もう俺は何もやらん。

絶対やらんからな!」


「あら、お嬢様をその気にさせるだけさせといて、今さら、そんなことが通ると思ってるのかしら?

そもそも、お嬢様には何ていうのよ?

ふふふ、ゾンビに噛まれるのが怖くて、おでこにキスしました。とでも言うつもりなの?

あはははは!」


ぐっ…クソが!

いつも!いつも!いつも!いつも!

俺をおもちゃにして遊びやがって!


「もう我慢ならん!

おい、表に出ろよ。

今日という今日はぶっ殺してやる!」


「あはははは、それは楽しみね。

今日は何を見せてくれるのかしら?」



俺だって着実に強くなっている。

『吟遊詩人』のレベルが12に上がり、【HP回復の歌(少)】を覚えた。

持続的にHPが回復していくスキルだ。


精神が上がり続けた結果、39階層ではもうこのスキルと【闇魔法】で敵の魔法を防げば、『僧侶』の【回復魔法】があまり必要なくなった。


【闇魔法】を展開すれば、範囲内の感覚も増幅される。

魔力やMPだって上級冒険者と肩を並べるようになった。


おまえを信じていた頃の俺とは違う!


俺だって何も考えていなかった訳ではない。

もうおまえの得意分野では戦わない。


魔法系のレベルが伸びているんだから、魔法使いの戦い方をすればいい。



『吟遊詩人』の各種バフは全て掛けた。

これでMPと運を除く、全ステータスが10%上昇。

後は自分の周りに炎の壁を2重に作り、あの女が近寄れなくする。


炎の壁のせいで、俺もあの女が見えないがそれは問題ない。


【闇魔法】を全力で展開。

この魔法はレベルと魔力に依存する。

魔力が高い俺はリヒトの展開範囲をもうとっくに越えている。

半径12m以内であれば、どこに居たって分かる。


後は魔法を飛ばしまくるだけ。

さぁ、こいよ!


MPが多い俺だからこそできる鉄壁&物量作戦だ。


「フフフ、これならあんたも近寄れまい。

オラオラオラオラオラ!」


魔法を全力で飛ばし続ける。

あの女にダメージが通ることは前回確認済みだ。

前回と違って2割程度の魔法が当たっている。


よし!このままいけば、もしかするともしかするぞ!



「ぐっ…ユウキ君、成長したわね。

さすがの私も近寄れないわ。」


当たり前だ。

この1ヶ月、この作戦をずっと考えてきた。

もうおまえには負けない。



しかし…


「なんて、言うとでも思ったの?

あはははは、本当に期待外れだわ。

これはお仕置きが必要ね。」

「え…?」


あの女は【闇魔法】のエリア外まで離れたのだ。


ぐっ、おかしい…。

なんらかの魔法探知系のスキルか、闇系統の魔法が使えないと、【闇魔法】が使われていることすら分からないはずなのに。。。


「炎の壁まで作って自分の逃げ道まで塞いじゃって、あなた程度なら、その辺に落ちてる石ころで十分よ。」

「いたっ!あつっ!」


石が凄い勢いで飛んでくる…。

しかも、炎で熱せられて石が熱いおまけ付きだ。


ただでさえ石が早くて避けれないのに、炎の壁のせいで逃げ道がない…。

しかし、炎の壁を消せば、すぐに殺られるのが目に見えている。


「いたい!いたいって!」


石が飛んできてもHPはいくらでも回復できる。


でも、それだけなのだ…


炎の壁のせいで、こっちは相手がどこにいるか良く分からないけど、あの女はこっちの居場所が分かっていて一方的に攻撃してくる。。。


要は石を投げられ続ける的のような状態…。


作戦が裏目に出てる…。

ここから、どう立て直していいか分からない。。。


あかん。

あかんやつや。。。


もう勝ち筋が見えない…。


素直にごめんなさいしたら、許してくれないかな。。。


もう勝ち目が無いことを理解し、急に弱気になるユウキ…。

この前のゾンビが堪えていた。。。

まぁ、最初から勝ち目など全く無いのだが…。



「先生、お稽古ありがとうございました!

大変、勉強になりました。」


炎の壁を消して、頭を下げてお礼を言う。

お願い、許して。


ちょっと、無茶はあるが…

いちかばちか、白々しく稽古ってことにしてもらおう。。。


「ふふふ、いいのよ。

他でもないユウキ君の為だもの。」


「は、はい、先生!ありがとうございます。」


た、耐えたのか…?

俺は助かるのか…?


「次からはちゃんと先生の言うことを聞けるかな?」

「はい!もちろんです。」


この場さえ逃げ切れば、それでいい。

後のことはその時だ。


「ふふふ、ねぇ、ユウキ君。

先生はとっても嬉しいの。

明日から素直になれるおまじないを掛けてあげるわね。」

「え?え?」


そう言って、先生が俺をロープでグルグル巻きにしだした。

ま、まさか、このロープはあの時の…。


嫌な予感しかしない。。。


「あはは、ちょっとおいたが過ぎるから、大好きなゾンビに少しかじってもらいましょうね。」

「え…いやだ…いやだぁぁぁぁ!」


「ふふふふふ、これでちょっとは従順になってくれるかしら?」

「なる!なります!もうなりました!」


ちょっ!頼むから勘弁してくれ。

あれはマジでヤバイんだって!!


「あはははは、ユウキ君。ダメよ。

私に歯向かったらどうなるか、ちゃんと心と体に覚えさせてあげるから。」


「お願い!やめて!先生!レベッカ様ぁ!」

「ギャァァァァァ!」


こうして、ユウキの心は再びへし折られた。

今回のお仕置きは凄惨を極めた。

さすがのユウキもしばらくの間は従順になったという。。。



◆レベッカ視点


「ふふふふふ。」


木に吊し上げられ、ゾンビに手と足をかじられて、泣き叫ぶユウキの顔を思い出すと笑いがこみ上げてきた。


「レベッカさん、今日は珍しくご機嫌ですね?」


行きつけの酒場で飲んでいるとリヒトが声を掛けてきた。


「えぇ、うちの従者君が性懲りもなく、噛みついてきたから、昨日、お仕置きをしてあげたのよ。」

「ま、また…ユウキ君ですか…。」


「あはは、ゾンビにかじられながら、泣き叫ぶユウキ君がおかしくって。」

「そ…それはまた、凄まじそうですね。。。」


「ふふふ、最後は気を失って、お漏らしまでしちゃって、連れて帰るのが大変だったんだから。」

「ゴクリ……。」


「ふふふ、最近、あなたも反抗的な時があるし、気を付けないと同じ目に合うかもしれないわね?」

「ぼ、僕はレベッカさんの為に頑張りますから

。。。」


「まぁ、それは残念だわ。

ユウキ君と並べて、どっちが耐えられるか比べてみたかったのに。」

「あは…は…」


こうして、ユウキのお仕置きを聞いたリヒトも従順になったという…。


まだしばらく、この2人がレベッカの支配から逃れられる日はやってきそうもない。。。


ステータス

ユウキ 7歳


HP 548/548

MP 543/543

体力 444

力  391

魔力 529

精神 574

速さ 453

器用 428

運  260

吸収 8


職業

戦士 LV9(845.98/900)

火魔法使い LV11(132.63/1100)

水魔法使い LV8(757.72/800)

土魔法使い LV9(86.27/900)

風魔法使い LV9(188.69/900)

僧侶 LV16(805.43/1600)

盗賊 LV11(826.06/1100)

武道家 LV8(623.85/800)

吟遊詩人 LV12(429.72/1200)

植物魔法使い LV9(194.48/900)

付与魔術士 LV9(2.03/900)

剣士 LV6(388.19/600)

盾使い LV9(288.57/900)

狩人 LV11(183.31/1100)

薬師 LV8(147.12/800)

魔物使い LV2(127.48/200)

槍使い LV3(35.44/300)

遊び人 LV6(332.60/600)

斧使い LV2(111.36/200)

弓使い LV5(218.05/500)

生活魔法使い LV4(393.64/400)

闇魔法使い LV8(547.23/800)

光魔法使い LV6(568.16/600)


スキル

経験値吸収 LV8(134.75/800)

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