第36話 7歳12月 賑やかな毎日と孤独なリーシャ

◆レベッカ視点


「はぁぁぁぁ。」


私の可愛いお嬢様が今日もため息を付いている。


新しい仲間ダイチが加わった裏で、リーシャ1人だけが寂しい思いをしていた。


同棲を始めて4ヶ月。

只でさえ、2人の仲はほとんど何の進展も見られない。

それどころか、ユウキが朝練に行くことになり、2人の唯一の時間、【植物魔法】の訓練まで失われようとしている。


お兄ちゃんと過ごすあの時間だけがリーシャの楽しみだったのに…


目の前の5人は朝練でも、学校でも、ダンジョンでも一緒にいられるのに…


どうして、婚約者の私だけ…


「グスッ…お兄ちゃん…

リーシャは…リーシャは寂しいです…。」


朝練の光景を眺めながら、お嬢様が呟いていた。



自分の任務の為に、みんなが頑張ってくれてるのは分かっている。

だからこそ、ユウキに寂しいなんて言えないのだろう。


でも、頭では分かっていても、心が付いていかない。


また、今日も私と2人、あのおぞましいアンデッドと怨霊相手にレベル上げだもの。

当然、気も滅入ってくる。


そろそろ、お嬢様を何とかしてあげないと。

心が持たなくなってしまう。


久しぶりにユウキを出動させるしかないわね。



◆ユウキ視点


ほぼ毎日、俺の睡眠時間は4時間半くらいか…。


23時過ぎまで39階層で戦った後は、家に帰って『光魔法使い』のレベル上げが待っているからだ。


食事と風呂に入ったら、寝るのは1時過ぎ。

朝練があるせいで5時45分には起きざるを得ない。


だからこそ、昼休みは寝ないと体が持たない。

本当は授業中も寝たいのに、師匠のノルマをこなさないと地獄が待ってるせいで眠れない。。。



昼休み。


眠たい…。


俺はただ寝たいだけなのに…

何故か俺の周りに人が集まってくるようになった。


何でこんなに賑やかなんだよ。。。


「あぁぁん、セリナ、可愛い!」

「あはは、でしょ!でしょ!」


向こうでやってくれよ…

うるさくて眠れないし…。



特に厄介なのがサラさんとセリナだ。


5年生のサラさんが、最近では2年生の俺たちの教室に入り浸るようになった。


いや、それどころか、人目も気にせず、羞恥プレイを求めてくる…。


「よしよし、もうユウキ君は眠たいんだね。

今日は、お姉さんが膝枕してあげようか?」

「え…いや、大丈夫です。。」


「あはは、ダーメ。ほら、はやく。

恥ずかしいなら、顔を隠せば分からないから。」


「いや、普通に分かりますから…。

お願いだから、みんな見てますし、マジで勘弁して下さい。。。」


「ねぇ、ユウキ君。

3秒だけでいいからお願い。

やってくれるまで、私は教室に帰らないからね。」

「はぁぁ。3秒だけですよ…。」


またサラさんの羞恥プレイが始まったよ。。。

この人、本当に言い出したら聞かないんだよな…


「いち、にー、さん。

はい、もういいでしょ?」


起き上がろうとすると。

頭を押さえられる。


「ちょっ!もう3秒経ってますよ!

みんな、見てますから本当に勘弁して下さい!」


「あはは、ユウキ君、ダメだよ。

見せ付けてあげたらいいじゃない。

お姉さんもまだ堪能してないもん。」


「いや、ちょっと…離して!約束が違う。」


本当にこの人は俺を何だと思って…。



次に厄介なのがセリナだ。


またセリナが可愛く見えた…。

堂々と【魅了魔法】を掛けてくるようになった。


俺は精神が高いから、中々、魔法が効かないと言っていた。

今のところ、成功率は20~30回に1回らしい。

逆算すると、1回可愛く見えたら、20回は魔法を掛けようとしていたことになる。


今日2回目ということは、40~60回は俺に魔法を掛けてきたということだ。。。


本当にこの女だけは…。

しれっと俺でレベル上げすんのやめれ!


最近ではリアルだけではなく、夢の中までセリナが侵入してくる…。

そう、昼寝の最中も魅了してくるのだ。

思想教育がどうとか言っていた。。。


夢の中でリーシャの頭を撫でていたら、いつの間にか、セリナに変わっているみたいな感じだ。。。


クソが!頼むから夢の中まで現れるなよ!

もうストーカーよりタチが悪いわ!



そして、油断ならないのがリヒト。

最近は何かあるとメモを取っている。


「今日はみんなの前で、お姉さんと膝枕、と。」

「おい、そこ!なにメモってるんだよ。」

「いや、記録に残さないと。

また、お願いを聞いて貰わないといけないし。」

「残すな!記憶からも抹消してくれ。」


本当にどいつもこいつも…。



明日から2日間、中級ダンジョン11階層から20階層にチャレンジする。


魔物も強くなってきてはいるが、このメンバーなら、まだ何とかなるか。


正直な所、パーティーから抜けて、遅れている自分のレベル上げがしたい。

でも、回復役と壁役がいないせいで、どうやっても抜けられないのだ。


俺がいなくなれば、サラさんとセリナの所に魔物が行きかねない。

前衛で戦うリヒトとダイチを回復する者もいない。


「はぁぁぁぁ。」


明後日、夕方頃に中級ダンジョンから戻ったら、その足で初級ダンジョンに向かわないと。


来週からもこのメンバーで、週1日のレベル上げは続けるらしい。

そうなると、月間ノルマのお金を稼ぐのが厳しくなってきた。


レベル上げに、朝練に、中級ダンジョン攻略か。


お金稼ぎのノルマは少し下がったと言っても、明らかに前より過酷になってる…。


やっぱり学校を週2回は休まないと、もう追い付かなくなるのが目に見えている。

いつまで、こんな生活が続くんだよ。。。


「はぁぁぁぁ。」


さて、今日も39階層でエレメントコアと戯れるか…。

そう思っていると、ダンジョン前で珍しく先生とリーシャが声を掛けてきた。


「ねぇ、ユウキ君。

ちょっと付き合ってくれないかしら?」

「お兄ちゃん、学校お疲れさまです。」


リーシャはやっぱり可愛いなぁ…。


「リーシャもお疲れさま。

付き合ってあげたいんだけど、稼ぎが追い付いて なくてさ。

何かあったのか?」


「今日だけでいいから、お嬢様の護衛に付き合って欲しいの。」


そう言えば、リーシャが戦ってるところを見たことがなかったな。


「あぁ、分かった。

今日だけでいいなら付き合うよ。

リーシャを守れるように頑張るから!」


「やった!うれしいです。

お兄ちゃん、よろしくお願いしますね。」




「ギャァァァァ!」


ビビったぁ…

突然、地面から足を掴まれたのだ。


しかも、やたら暗いから視界も悪い。

不気味な呻き声がずっと聞こえるし…

これは心臓に悪いわ。。。


「ふふふ、お兄ちゃんたら驚き過ぎですよ。」

「め、面目ないです…。」


も、もう嫌だ…帰りたい…。


リーシャを守るどころか、この可愛い婚約者に守られている。。。

さっきから、足を引っ張っているのは俺だ…。


こ、こんなはずじゃなかったのに。。。

圧倒的なステータスで、今頃、お兄ちゃん、カッコいいってなってる予定が…。


しかし、マジか…

こんなところでリーシャは戦っていたのか。。。



協同墓地地下迷宮。

『光・聖魔法使い』とその護衛のみが入ることを許されるダンジョン。

アンデッドや怨霊系のモンスターしか出てこない為、聖属性の魔法や武器がないと雑魚を倒すだけでも時間が掛かる。


俺も敵を倒せないことはないが、このゾンビは頭を潰しても、身体を切っても、多少のことでは動きが止まらない。

【聖魔法】で浄化する方が圧倒的に早いのだ。


「ふふふ、ユウキ君。ありがとう。」

「え…?いや、何の役にも立ってないんですけど…。」


「あはは、確かにさっきから酷いわね。

ビビり過ぎでしょ。」

「う…。」


「でも、今日はお嬢様が楽しそうだから。

ずっと寂しそうにしてたのよ?

もうちょっとお嬢様に時間を作ってあげて欲しいの。」


「それは悪かった。

もう少し意識して時間を作ってみるよ。」

「ふふふ、ありがとう。

はい、これ。早速やってみようね。」


先生からメモを渡された。どれどれ。

【ダンジョンから出たら、お嬢様の手を繋いで…】


「ちょっ!何なんだよ、これは!」

「あら、ビビりのあなたでもこれくらいは役に立てるはずよ?」


「そういう問題じゃないわ!

何だよ…このおでこに…キスする下りは…」

「あら?サラには膝枕してもらってるのに、お嬢様にはしてあげられないのかしら?」


「ちょっ!なんでそれを…。またリヒトか…。」

「つべこべ言わずにやりなさい。

あんまりうるさいと、ここに置いて帰るわよ?」


「ちょっ!ちょっと待て!

せっかく付いてきてあげたら、これかよ!」


「あら?ここであなたを動けなくして、アンデッドの餌にしてもいいのよ。

やるか?噛まれるか?どっちか選びなさい。」


「お、おい。そんなの卑怯だぞ!

嫌だ。こういうのは人にやらされることじゃないだろ!」


「うるさいわね。

あなたが自分でやらないから手伝ってあげてるんでしょうが。

1回ゾンビに噛まれないと分からないようね?」


「ま、待て。ちょっと、そんなの…あんまりだ。」

「ギャァァァァァァ!」

「やります!何でもやりますから!」


こうして、ゾンビに噛まれたユウキは素直になった。。。

大好きなお兄ちゃんの積極的な行動に、リーシャの表情は蕩けていたという。

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