第35話 7歳11月 リヒトの苦悩とダイチの加入

セリナがユウキを使って『魔女』のレベルを上げていた裏で、あまりにも報われない人物がいた。


そう、世代別最優秀『盗賊』とかいう迷惑な賞に選ばれ、パーティーに強制加入させられた彼である。


主な仕事は諜報と称したクラスメイトの脅迫材料探しと友人のレベル上げの監視と報告。


回ってくるのは嫌な仕事ばかりである。。。


クラスメイトの弱みを握って来いと偵察に出されるも大した成果もあげられず

レベッカにそろそろ結果を出せと脅されていた。


挙げ句の果てには、助けようとした友人から男の嫉妬は見苦しいと殴られ

魔法の師匠からは成果を見せないと、魔法練習の標的として扱われる。


彼はこのパーティーが嫌で嫌で仕方がなかった。


そして、遂に…

最も恐れていたレベッカからの尋問を受けることになった。。。


彼の名はリヒト。

少し前まで尊敬する父に大切に育てられ、盗賊ギルドでは神童と呼ばれた少年である。


今の彼に神童と呼ばれた頃の面影は微塵も無い。。。



◆リヒト視点


リヒトは呼び出されるなり、何度も殴られていた。


「ゴフッ…もう…もう許して…」


「ねぇ、リヒト。

あなた、ふざけてないかしら?

これだけ時間を掛けて、この程度の情報しか集められないの?」


そ、そんなこと言われても…

命令された通りに探った結果、特にめぼしい情報がなかっただけなのに。。。



「も、申し訳ございません。

その…対象に特に弱みがなくて…。」


ドンッ!


レベッカが机を思い切り叩く。

「ヒイッ…」


「はぁぁぁぁ。

あなたはまだそんな生温いこと言ってるの?

とことんまで追い込まれないと理解できないのかしら?」


「そ…そんな…滅相もございません。

僕なりに精一杯…ガハッ…」


「リヒトの精一杯はクソの役にも立たないわね。

せっかく任せてあげたのに。

いい加減、自分の立場を理解しましょうね。」

「はい…。」


そうだった…この人はプロセスは求めない。

結果こそが全て。

要は情報なんてどうでもいいんだ…。

対象が仲間になりさえすれば。。。



「ふふふ、しょうがないから、私が彼の落とし方を教えてあげる。」

「え…?」


分かってるんなら、最初から言ってよ…。


「あら、彼のような強さにしか興味のタイプは簡単よ?

果たし状でも出して、勝ったらパーティーに加わってと言うだけで誘いに乗ってくるわ。」

「いや、でも…僕じゃ…そもそも勝てないと…。」


相変わらず無茶が過ぎる…。

何で僕が戦うことになるんだよ。。。

諜報部門担当って自分が言ってたよね?



「あはは、大丈夫よ。はい、これ。

試合中にこの薬を彼に向かって投げるだけでいいの。

たったそれだけで、あなたが勝てちゃう魔法の薬。」

「え…それって…」


ちょっ、ちょっと…

翻訳すると、クラスメイトに試合を挑んで、怪しい薬を投げて勝てってことだよね。。。

もう人として問題ありませんかね?



「あなたじゃ、彼に勝てないでしょ?

リヒトの為を思って用意したのよ?」

「そ…そんな…。」


いやいやいや、リヒトの為って、この命令自体がおかしいから。。。

僕は勝ちたいなんて、一言も言ってないし…。



「ふふふふふ、ねぇ、リヒト。

薬を使うかどうかは任せるけど、必ず任務を成功させなさい。

ここまで助けてあげたんだもの、できるわね?」

「いや、でも…。」


そもそも、助けてもらったとか微塵も思ってないから…。

只でさえ、巻き込まれて迷惑してるのに。。。



「ふふふ、やる気が出るように、あなたもここで一緒に暮らした方がいいかもしれないわね?」

「え…?」

「あはははは、そうだ。

任務に失敗したら、私の隣の部屋を用意してあげる。

ふふふ、毎日、おはようとおやすみの挨拶も付いてくるわよ。」


それだけは嫌だ…嫌過ぎる…。

この人、機嫌が悪いと殴ってきそうだし。

何をさせられるか分かったもんじゃない。。。


「が、頑張りますから…それはできれば…。」




「はぁぁぁぁ。」


いてててて…。

こんなに何度も殴らなくても。


呼び出された時点で理不尽な目に合うのは分かっていたけど…。

流石にここまでとは。。。


しかし、毎回毎回、ロクでもないことばかり思い付くな。

あの人は…。



レベッカさんの狙う次の仲間は総合順位2位の中級職『侍』ダイチ君。


範囲内の感覚を増幅させる【闇魔法】を使えば、負けない試合でいいなら、やれる自信はある。

でも、勝つとなると話は別だ。


僕にはダイチ君を破る手立てが無い。

特にスキル【心眼】。

あれが無理だ。

要は僕にできるのは時間切れ狙いの引き分けが精一杯ってことだ。


「はぁぁぁぁ。」


どうしよう…

正直、レベッカさんのお隣に引っ越しするくらいなら、死んだ方がマシかもしれない…。


かと言って、人として、ダイチ君に怪しい薬を投げ付けるのも嫌だし…。


「しょうがない。

とりあえず、普通に1度お願いしてみるか…。

ダメなら、ユウキ君に果たし状を出してもらおう。。。」




次の日、リヒトはダイチに頼み込んでいた。


怪訝そうな顔をするダイチ君と手合わせし、僕の本気の力を見せる。


やっぱり予想通り、勝つのは無理か…。

せいぜい引き分けが精一杯。


しかし、手合わせに満足したダイチ君は、毎日、朝練に付き合ってくれれば、パーティーに参加してもいいと言うのだ。


予想外の返事にリヒトは驚いていた。


マジですか!?


この人もどこかがおかしい人だ…。

僕なんか抜けたくて抜けたなくて仕方ないのに。。。


「えっ、本当に!?」


「あぁ、俺よりも強い奴と戦えるなら別に構わんぞ。

強くなる為に旅をしようと思ってたし。

そのメンバーなら、俺も退屈することはないんだろ?」


「うん、それは保証するから!

みんな強くて、付き合ってられないし。。。」


「それは楽しみだ。

それより、毎日、本気のおまえ達と戦えるって約束は大丈夫だろうな?」


「あぁ、うん。

それも僕に任せといてよ!

ありがとう、ダイチ君。

君は命の恩人だよ!」


良かったぁ…。

引っ越しとか言われたら、死のうと思ってたし。。。


こんなにあっさりとOKが出るなんて。

こんなことなら、最初から普通にお願いすれば良かったよ。。。


しかし、誰だよ?

弱みを握って来いとか、怪しい薬を投げろとか言う馬鹿は。

そもそも、発想がおかしいでしょ。

そりゃ、ユウキ君も家に帰らなくもなるよ。

あの人と暮らすくらいなら、ダンジョンに住んだ方がマシだよ。本当に。



早速、朝練の件をユウキ君達にも伝えなきゃ。



「俺は朝練はパスかな。

その時間はリーシャと植物魔法の練習してたりするし。」


「私も朝は寝るのに忙しくて行けないかな。

ユウキがどうしても私に会いたいって、お願いしてくれるなら考えてもいいけど?」


「はぁ?

何でお前と朝から会わないといけないんだよ?」


「じゃ、私も嫌よ。リヒト君、ごめんね。

ユウキのせいだから。」


「ちょっ!ちょっと2人とも。

お願いだから、話を聞いてよ!」


えっ…ダイチ君は快くOKしてくれたのに…

まさかこの2人に断られるとは思っても見なかったよ。。。


友達が困ってるのに、助けてあげたいとか思わないの?


そもそも、何で僕がしたくもない仲間集めをこんなに必死でやってると思ってるんだよ。。。


自分達のパーティーのことでしょうが!

そっちがその気なら僕にも考えがあるからね。


「いたたたた、ユウキ君に殴られた傷が痛むなぁ。

男の嫉妬は見苦しい?

あんなに殴らなくても。」


「いや、リヒト…あれは俺が悪かったというか、そこのクソ女に唆されて…」


「ふーん、リーシャちゃんが知ったら、どう思うんだろうね?

他にも沢山あるよ。

サラお姉ちゃん、大好き。だっけ?

ユウキ君、あーん ってご飯も食べさせてもらってたね。」


「おまっ!やめろ!やめてくれ!

俺だってやりたくてやってる訳じゃないから!

分かった。行く。朝練に行くから。」


「ありがとう、ユウキ君。

満更でも無さそうに見えたけどね。」

「いや…その…。」


セリナさんは…3日前にリーシャちゃんの部屋に行った帰り、どこかにこっそり行ってたよね?」


「えっ…何でそれを…。」


「ユウキ君が知ったら驚くだろうね?

まさか、ユウキ君の」

「行きます!朝練に行かせて下さい!

だから…お願い。言わないで…。」


「あはは、2人とも助かるよ。

最初から協力的なら、こんなこと言わずに済んだのに。

明日から毎朝6時半に集合だからね。」


「おい、セリナ!おまえ。何したんだよ?」

「し、知らない。私は何も知らない…」

「ウソ付け!吐け!さっさと吐けよ!」



こうして、ダイチが仲間に加わることになる。


この2人はさっさと脅迫した方が早いということをリヒトも覚えた…。

その手口はどこかレベッカに似ていたという。。。



◆レベッカ視点


目の前で新しいメンバーのダイチを加えた5人が朝練を行っている。


やっぱりいいわ。ダイチ君。

『侍』としてしか戦う気が無さそうだけど、どう見ても他の職業も持ってるし。

その辺は追々聞けばいいか。


ククククク、しかし、いい感じにメンバーが集まってきたわね。


このメンバーで週に1回、中級ダンジョンでも攻略させれば、連携も取れるようになるかしら。


残りは回復と壁役ね。

ユウキに全部やらせてもいいけど、あの子はさっさと付与できるようになってもらわないと。


どこかにお金の掛からない都合の良い人材は落ちてないかしら?



「はーい、みんな、一回集まってくれるかしら?

今週末の土日は中級ダンジョンにアタックするわよ。

今週末は10階層への転移部屋の確保。

来週末は同じく20階層への転移部屋の確保ね。

みんな、予定を空けといてね?」


あはは、あからさまにそれぞれの反応が違う。


どうでも良さそうな、ユウキ。

ユウキといれたらいい、セリナ。

めちゃくちゃ嫌そうな、リヒト。

割りと楽しそうな、サラ。

そして、やる気満々のダイチ。


ふふふ、やっとパーティーらしくなってきた。

さぁ、しっかり強くなってもらうわよ。



ステータス

ユウキ 7歳


HP 537/537

MP 529/529

体力 437

力  383

魔力 515

精神 561

速さ 444

器用 420

運  256

吸収 7


職業

戦士 LV9(655.18/900)

火魔法使い LV10(800.92/1000)

水魔法使い LV8(694.24/800)

土魔法使い LV9(22.79/900)

風魔法使い LV9(125.21/900)

僧侶 LV16(361.12/1600)

盗賊 LV11(481.56/1100)

武道家 LV8(486.53/800)

吟遊詩人 LV12(72.65/1100)

植物魔法使い LV9(194.48/900)

付与魔術士 LV8(767.23/800)

剣士 LV6(388.19/600)

盾使い LV9(87.24/900)

狩人 LV10(943.31/1000)

薬師 LV8(147.12/800)

魔物使い LV2(127.48/200)

槍使い LV3(35.44/300)

遊び人 LV6(137.98/600)

斧使い LV2(111.36/200)

弓使い LV5(101.95/500)

生活魔法使い LV4(234.94/400)

闇魔法使い LV7(361.72/700)

光魔法使い LV6(12.73/600)


スキル

経験値吸収 LV7(672.33/700)

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