11

 背筋を直接滑る口づけに目を覚ました。

「起きた?」

 裸の男がに、といつもみたいに笑んで甘え、求めた。請われるがままに彼を受け容れる。

「ほら、来て御覧。見せたいものがあるんだ。――あ、その前に早く何か羽織って」

 そこら辺に転がる脱ぎ捨てた衣服を慌てて被り、彼の方を向く。

 その瞬間、閉じたカーテンを彼は思い切り開け、向こうに広がる景色を見せた。


 朝日。


 次いでベランダと部屋とを仕切るガラス戸を開いてカーテンはためく不思議な景色の中でこちらに手を差し伸べた。

 ひやりと冷える朝独特の感触と、地球が辛うじて残してきた神々しさに手を伸ばす。彼は直ぐに捕まえて自分の方へと引き寄せ、肩を強く抱いた。

「見てごらん。どこの誰もが決められた時間に起きるものだから、この朝日はもう俺ら以外誰も見ることは無いんだ」

 言われるがままその方を見るとどこの四角も真っ白なカーテンを閉じたままで何だかぞくぞくした。日の朱と彩雲に空気は彩られ、冷えた空気にその光線が隅々染み渡る。肺一杯に空気を吸い込めば生きている感じがする。


 死んだ世界が今だけ生きている。


「なあ。いつか名前も中身も取り戻そうな」

「そしてどこか誰も知らない、誰にも見つけられない場所で二人だけで暮らそう。その時には二人で本物宣言をするんだ」

「ああ、そうしよう! ――ここに宣言する! 俺達は生きてるぞー!」

「生きてるんだー!」

「お前達とは違うぞー! いつかその街ぶっ壊してやるんだー!」

「そうだそうだー!」

 直後には二人で大笑いして、恥も知らずにそのままフレンチキスに堕ち込んだ。

 そのまま、また二人で求め合って、生存確認を繰り返す。

「なあ。この前の話の続きだけどさ」

「何」

「生き物の寿命が鼓動の数で決まるって学説の話したじゃん」

「……覚えてるよ」

「そしたら俺達早死にするかもな」

「……ほんとだ。するかもね」

「逃げる前に死んじゃったらどうしよう」

「良いんじゃない? 私は死ぬならアンタに殺されたい」

 またきょとんとして、ちょっと固まる。直後、彼は笑んで

「上等だ、殺してやるよ」

と首筋にあの時と同じ接吻を押し付けた。


 日光が、世界の全てを色づけていく。


 今日、やっと私は、生まれた。


(おわり)

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星 太一 @dehim-fake

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