第3話 階級と任務開始

カフェから約30分歩いて、俺達はクエストカウンターに到着。




建物の中は大剣や双手剣、大砲などといったザ・武器というような装備をした人々で溢れかえっている。俺も一応、先の戦闘でエレナからもらったバトルダガーを装備してみてはいるが、上下ジャージにダガーって、なんかやばい犯罪者感あるんだよな。




「すみません、フォーシスト登録したいのですが」




「はーい」




 カウンターの奥から紫色ショートヘアでメイド服を着た女性がやってくる。こういう仕事の場で普通にメイド服着ているあたり、ファンタジーの異世界に来たという感じがする。




「フォーシスト登録ですねー。では、まず養成学校の卒業証書をお持ちですか?一般人登録の場合、国民証の提示をお願いします」




 な、なんだと………?




 証書?証明書?




 俺はこの世界に来たばかりで、嘘でも「はい!国民です!」なんて言い張れる自信はない。 


 てか、ゲームとかなら冒険者登録をここでチャチャッと済ませるパターンだろ!カウンター横の広告板には「登録無料!!」と書かれているので、お金はかからないようだ。そこだけが幸いだ……いやきつい状況には変わらないけど!




「エレナ、お前は今言われた身分証明できるものはあるのか?」


「はい……私は仮登録しているので大丈夫です。ですが、進也くんは……」


「そうだな。すみません、俺実は遠い街から来た者なんですが」


「では、右手の入国証をご提示ください」


「入国証…だと」




 やばいやばい、いよいよやばい。これ不法入国とかで捕まるパターンのやつ!テレビとかでよく見るやつ!受付嬢のお客対応の目から犯罪者に向ける目になっているよ!やばいって、まじやばい。


 受付嬢は怪しむ眼差しを向けながら、


「あのー、入国証を…」


 クッ、俺の異世界ライフは監獄脱出編から開始か……。


 俺の身分が遠い街からの人から不法入国者に成り変わりそうになったとき。




「どうもおつかれっす~。今日も変わった状況はないですか~?」


「お、お疲れさまです、マイさん。パトロールですか?」


「そうっすよー。いやー、春なのに思った以上に暑くて困ってるっすよー」




 と言いながら、そのマイという女性はビシッと敬礼をする。紺色のロングコートとロングパンツ、腰には日本刀のような剣を装備し、腰にはリボルバータイプの短銃を装備している。


 高すぎない位置で髪を結んでいるポニーテールは彼女の柔らかい雰囲気にあっている。俺と同じくらいの年齢かな。


 ………てか、少々幼さが見える顔立ちの割には胸が大きいような。これまた眼福。




「あ、初心者フォーシストの方ですね。私、マイ・アーガイルって言います。よろしっくすー。多分そこの男の子と一緒の17歳っすー。階級はB!王国警備隊所属っす」




 年齢は一緒だったか。仲良くなれそうだ。




って、それどこじゃねえ!


 王国警備隊。このイデアル王国のお巡りさんポジションの人。悪い人を取り締まる。




 つまり、不法入国者=敵の式が成り立ってしまう!




 俺は受付のテーブルに視線を落としながら、冷や汗を垂れ流す。エレナは助け舟を出したいが、ここで出したらかえって怪しまれると判断したのだろう。周りの状況を注意深く観察している。




 どうにか乗り切る方法を考えていた時、右手に硬い何かを押し付けられる感触が伝わってきた。




「っ?」


「しっ、あとは何も喋らずに」




 マイが俺の耳元でこっそりと喋りながら、右手にハンコのようなものを押し付けてきたのだ。振り払おうとするも、見えない何かによって動かすことができない。




 あまりの早業に誰もその状況がわからなかったのだろうか、特に気に留められることもなかった。




「あ、そーいえば私お取り込み中のところ割り込んじゃったっすね~。男の子の方の名前はえーっと、進也さんって言われてたっけ?」




「ああ」




「進也さんはフォーシスト登録したいんスよね?じゃあさっさと右手見せるっす!」


「あ、あの」




 エレナはそれを止めようとしたが、右腕を思いっきり受付嬢の目の前に出されて、俺はあえなく罪を自白して……




「はい、確認できました。では、こちらの登録室の方へどうぞ」




 はい?


 え、一体何これ。状況が理解できない。




「ちょっと、マイさん。一体…」


「そんなサン付けしなくてもいいっすよー。じゃ、フォーシスト登録頑張ってくださいねー」




 そう告げてマイはクエストカウンターから出ていった。




「進也くん?」




 エレナは俺が普通に遠い街からきた人だと認識していたようだ。さっきの挙動はかなり怪しかっただろうな。




「ごめん、フォーシストとかよくわからなくてちょっと混乱してたわ。この街にも早く慣れたいな」




 適当な言い訳をしている間に準備が整ったらしいのか、先程俺に疑いの眼差しを向けていた受付嬢が手招きしていた。




「では、矢野進也さん。あなたは17歳且つ養成学校を卒業していないということで、一般登録とさせていただきます。では、その机の上にある判定用紙に手をかざしてください。基礎能力、魔力量、魔力変換率を判定し、S~Fの6段階の階級付与を行います。それに応じて新魔力の付与を行い、登録を完了させていただきます」




「ちなみに、一般登録の平均的な階級ってどれくらいなんですか?




「そうですね……みなさんCとかD級からが多いですね。稀にE級判定出る人もいますけど」




 なるほど、Fにはならないようにできている感じか。学校とかでこういうのたまにあるよな。テストだけど形だけみたいな形骸的になっている行事ごと。


 日本にいた頃、古文の先生の形骸的なテストだったことを思い出し、安心しながら判定用紙に右手をかざした。






30分後。




「お疲れさまでした。では、エレナさんは初期投資金10万ゴールドをお支払いします。尚、矢野進也さんとパーティ編成をするということで10万ゴールドをお支払いします」




「あ、いえ。パーティリーダーは私ではなく進也くんで……」




「かしこまりました。では、矢野進也さん。パーティ資金はリーダーが受け取ることになっておりますので10万ゴールドと、進也さんの初期投資1000ゴールドをお支払いいたします」




 説明が終わった後、俺の登録カードの所持金欄に101000Gとの表記がされた。


 2人合わせて20万ゴールド。昼に食べたサンドイッチが500ゴールド、オレンジジュースが150Gだったことから、1ゴールド1円と考えていいだろう。


 そう思うと、俺は金持ちだ。高校生のお小遣いなんてだいたい1万円とかだし。




 だが、人はお金だけでは満たされない。




「F級……」




 その言葉にエレナがハッとして、俺の前で慌てふためく。


「進也くん……」




 エレナはあえて何も言わないでいてくれた。


 彼女の階級は最高ランクのS級。基礎能力S、魔力量S、魔力変換率Sという異次元の強さを誇っていた。だからこそ、気を使っていてくるのだろう。基礎能力がEであとすべてFだった俺に。


 確かに落ちこぼれフォーシストだ。クソゲー主人公気分だし、俺が成り上がれそうなフラグはどこにも立っていない。だが、




「エレナ、俺は大丈夫。まずは一通り資金は手に入った。これで宿屋代を稼ぐ手間は省けたんだしひとまずは良しとしよう」




 俺たちの目的はあくまで「宿屋代と生活費の調達」だ。その目的さえ達成できればあとはこっちのものだ。


 F級だったのはかなり悲しい、いや泣き出しそうなくらい悲しいが、異世界召喚者の身で選べて、尚且自由に動き回りながら帰還する方法を模索できるのは、冒険者ポジションのフォーシストくらいしかない。




「私は、進也くんは弱いなんて思ってないよ。勇気を出して人助けしてくれる君は、判定用紙にはわからない強さを秘めているんだから」




「ありがとう」




 素直に感謝しか出ない。こんな俺を見捨てずに強いと言ってくれる女の子がいる。




 正直、異世界でのんびり過ごすのもありかと思った。ゆったり系のパーティにして、簡単なクエストを攻略して夜はみんなで食事。エレナも性格的に戦闘は向いていないらしいのでそれでも良かったはずだ。




 しかし、盗賊少女によって盗まれたバックには、エレナの故郷の大切なお守りが入っていると知らされている。その時は、すぐにでも警備隊に言うべきだと思ったが、




「盗賊は月に3回盗品マーケットを秘密裏に行うの。普通なら一般人のほとんどは知らされないけど、S級の人はクエストカウンターの任務窓口で秘密情報の開示をしてもらえることが多いんだって~」




 ワオ、S級すごすぎい。


 エレナのファインプレー、というより彼女の持つ天性の才能により、事は順調に運びそうだ。俺も負けてられねえ。なにかできることが少しでもあるなら全力でサポートしてみせる。




 長期滞在の更新を完了させ、夕方、俺とエレナは本日二度目のクエストカウンターへ足を運び、クエストを受注した。


 内容はもちろん「盗賊団討伐任務」。これは表向きの掲示板には掲載されていなかったクエスト。エレナのS級特権により特別受注できた。


 今夜、盗賊団の野営地で会合を開くとの情報が入ったため、夜は偵察任務。そして、明日の盗品マーケットが開催される正午過ぎに野営地の襲撃を行う。




 初っ端から裏クエストとか、俺の異世界生活は一筋縄にはいかなさそうだ。




 俺はバトルダガーを取り出し、下級狼の返り血をしっかり拭き取った。




 さあ、切り替えていくか!


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