霧にぶつかる現在(いま)の僕

影迷彩

霧にぶつかる現在の僕

 その日もこの町は、霧に覆われてた。

 夏の季節なのに涼しく寒気のするこの町で、僕は待ち合わせの場所へ走っていく。


 僕がこの町に来てからある日、その街は何かが砕けるような音と共に霧に覆われた。 

 霧に覆われたこの街は、至るところで異変が起きる。モノの移動、見慣れない物体の出現。

 向かいの家の自転車が何かに吹き飛ばされたように道路に転がり、近くにあった市役所の倉庫は再び消えていた。

不規則で厄介。そんな日常に僕は未だに慣れない。そして待ち合わせ時間を守らない大人も厄介だと思った。

 

 「ごめーん、おそくなった!!」

 僕は最近、知らない顔のこのお姉さんと仲良くなった。病弱な隣の女の子の未来の姿。

 仲良くなったというより、霧の出た日よりあとに現れたこのお姉さんに絡まれている感じだ。

 「こんな毎日だから仕方ないけど……お姉さんがしたいっていったから付き合ってるんだ。その、いなくなったと思ったら怖いしさ」

 「ほんとごめん……アイス奢るから許して!!」

 「寒いからいらないよ」

 こちらに腕を絡ませ、人懐っこく迫るお姉さん僕はいつもたじたじとなりながら、寒く、冷たい夏を共に過ごす。

 田んぼや山道を抜けて散歩し、店で駄菓子を選んで買い、虫取をしようとはしゃぐお姉さんに呆れる……

 その間も、霧の中で町は次々と光景を変えていく。

 「怖いの、カイト君?」

 お姉さんに名前を呼ばれ、僕はその方向に向いた。

 「これから起きることは必ず起きるし変わらない。だから一々衝撃を受けてもしょうがない。のんびり受け入れるといいよ」

 アイスを頬張りながら言っていることに、僕はまるで理解できなかった。


 お姉さんに見送られ、僕は家に帰る。向かいの家は敷地を残して消えて住民を困らせている。隣の家は無事だが、病弱な子がいるらしくていつも怯えている。

 明日家が消えたらどうしようか。僕はそれを考えながら、お姉さんの言葉を思い出すと面倒くさくなってすぐにぐっすり眠った。


 その日、霧が晴れた。霧が晴れた先から町の光景は戻っていく。


 「どんな未来になっても、好きな子は守りな!」


 最後まで元気だったお姉さんも、その言葉を最後に霧と共に消えていった。

 町は結局わけが分からないまま、その日の出来事を外に漏らさず、平穏を維持し続けた。

 発展し、様々な施設が立ち、古い建物は消えていく。


 僕も大人になり、上京から帰ってきて変わりゆく町の景色を眺めた。

 隣にいる女性に気づく。僕の家の隣に住んでいた、あの病弱な子らしい。

 その頃の面影は消え、彼女は快活で人懐っこいお姉さんに育っていた。

  僕はあの夏の出来事を覚えていない。だけどこれから何が起きようと、付き合い始めた彼女の隣に最後までいよう。

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