下―眼帯の奥の瞳
「宝君、眼帯で隠している方の目ってどうなっているの?」
「……」
宝君は「もう、降参」とでも言いたげな顔をしていた。
「見たいか?」
そう言う、宝君の表情や話し方は今までのものと全く違っていた。まるで別人のようだった。きっと、こちらが本来の彼なのだと、照華には分かった。
「うん」
照華がそう静かに答えると、宝君は両手を両耳にかけ、その黒い眼帯を外した。照華は驚きの声すらも発さなかった。いや、発することが出来なかったのだ。宝君の本来右目がある位置には、宝石が埋め込まれていた。ベランダから光って見えたものは宝君の右目だったのだ。沈んでいく夕日の光が少しさし、きらきらと光るその右目に、照華は言葉を失うくらい、心を奪われたのだった。
「気持ち悪いって思っただろ?」
「ううん。綺麗」
照華のストレートなその言葉に、宝君は顔を少し紅潮させた。宝君はそれ以上、自分自身を自虐しなかった。
「俺、友達と遊んでいた時に事故で右目を失って、五歳の時に捨てられたんだ。今は拾ってくれた母さんと父さんのところにいるんだ。二人が俺のことを「宝物」っていう意味で「宝」って名付けてくれたんだ。それで、母さんが持っているアクセサリーを見て、たとえ宝石を入れてでも、俺の目があったのなら、母親は俺のこと捨てずに愛してくれたのかなって。ましてや美しい宝石なら、美しい、綺麗って言ってくれたのかなって思ったんだ。だから、このアクアマリン色の宝石を埋め込んだんだ。まぁ、俺のは本物ではないが……。だから本物が見てみたくて、許可をもらったんだ」
口には出さなかったが、それでもなお、宝君の右目が美しいのは、宝君自身が格好良くて美しいからなのだと照華は思った。
「照華、俺の右目、綺麗って言ってくれてありがとう。本当に嬉しかった」
急に「照華」と呼ばれたので、照華は顔を紅潮させた。それを宝君に悟られないように照華は返事を返した。
「本当に綺麗だよ。話してくれてありがとうね」
照華は、宝君がやっと完全に心を開いてくれたような気がした。
翌日、学校は大騒ぎとなっていた。理科室にある百瀬先生のガラスケースが、ガスバーナーによって割られていて、中にあったアクアマリン色の宝石が盗まれていたのだった。犯人はまだ分かっていなかった。照華はその騒動を横目に見ながら、屋上へと向かった。屋上へと続くドアを開けると、そこには目当ての人物がいた。
「宝君」
「何だよ、照華?」
宝君は首を傾げて、いたずらっぽい笑みを浮かべた。二人でいる時だけは、宝君は眼帯を外していた。その右目は昨日のものよりもきらきらと輝いていた。
「ううん、なんでもない」
「なんだよ、それ」
「ふふ」
二人は顔を合わせて笑い合った。ごめんなさい、先生。私は宝君か笑って欲しかった。たとえ本物の母親が宝君を愛さなくても、私が宝君を愛す。本物の「母親」としての愛情を与えられなくても、私はそれを超えて満たしてみせる。照華はそう心に決めたのだった。
光る宝石 ABC @mikadukirui
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