第2話 

「おーい颯太くぅん今日も金持ってきたか?」


 西城学院の1-7の教室では金髪の男が、目元まで髪を伸ばした颯太という男にカツアゲしていた。

 

「ごめん寛太君。もうお金ないんだよ」


「ハァァァ!!?せっかくこの俺が魔力ゼロのお前なんかに存在価値を与えてやってんのに、それを断るなんてふざけてんかテメェ!!」

 

 おずおずと颯太がいうが、それにキレた寛太が叫んで颯太を突き飛ばす。

 ガッシャーン!!と音を立てて机を倒しながら颯太が倒れるが、周りにいる人も颯太を見て助けようとするどころか、クスクス嘲るように笑っている。

 

 魔術が使えるかどうかは、個人の魔力量によって決まる。

 魔力量が多ければ多いほど使える魔術の規模も変わってくるし、魔力量が少なければそれこそ、初歩魔術と呼ばれるものも使えなくなる。

 だからこの世界では魔力量がすべてだ。


 そしてこのカツアゲされている渡邉颯太は魔力ゼロ。

 つまり全く魔術が使えないとされ、いつも学校でいじめを受けている。


「お前今すぐリボ払いでもいいから金用意してこい!」


「そんなことする必要はないよ」


 打ち所が悪かったのか、いまだに倒れて動かない颯太に罵声を浴びせかけるが、それは一人の爽やかな声に止められる。


「まぁまぁ、そこまでしなくてもいいじゃないか。弱者にだって自由にする権利はある。な?そうだろみんな」


 彼が周りにいた人たちに声をかけると、女子は目をハートにし、男子も感心したような顔を向ける。

 

 彼は斎藤修二。

 イケメンで魔力量は学校で理事長を除いて一番でありながら、性格もよいとされている。


「でも修二君。そいつは魔力ゼロで生きてる価値もないって先生も言ってたじゃないか」


 先ほどまでカツアゲしていた寛太が、修二に異を唱える。


「彼は今日は金を持っていないといったんだろう?それなら持ってくるのを待っていてもいいじゃないか。君だってそんなに金に困っているわけでもないんだろう?」


 修二にそう言われて黙ってしまった彼を後にして、颯太に声をかける。


「ほら颯太君、立てるかい?保健室に行くよ」


 修二は颯太に肩を貸して教室を後にするが、向かったのは保健室ではなく、裏庭の人目につかない場所だった。


「ッチ。さっさと離れろよこのゴミクズ。この俺の服が汚れちまうじゃねえか」


 口調をさっきと一転させた修二が颯太を紙屑のように投げ捨てる。


「テメェを助けるのはほんとに嫌だが、そのおかげで周りからの好感度はかなり順調に上がっているからな。これで生徒会長を堕とすのも時間の問題だ」


 さっき教室で颯太を助けたのは善意ではなく、ただの好感度稼ぎで、彼のパッシブスキル『好感度上昇』もかけ合わさって、かなり周りからの好感度を稼げている。

 そんな彼は現生徒会長である白鷺香澄に好意を抱いており、彼が好感度稼ぎをするのも彼女を堕とすためだったりもする。


 彼はひとしきり颯太に殴る蹴るの暴行を加えた後、満足したのかイケメンの仮面をかぶり颯太を保健室へ連れていく。


  〇  △  ×


「金田先生、一人重病人を連れてきました」


 そう言いながら修二は連れていた颯太を保健室の教員である、金田真凛に渡す。

 

 彼女はロングの茶髪にウェーブをかけた、まだ二十代ほどで若く美人な女性であり、学校の男子の人気を集めている。


 彼女は数少ない颯太の秘密を知っており、修二を嫌っている一人でもある。

 

 彼女は修二に心の中で悪態をつきながらも、修二の暴行で目を閉じてぐったりしている颯太を大事そうに受け取り、ベッドに寝かせる。


「またいじめられてたの?」


「はい・・・いくら彼が魔力ゼロだといってもさすがに許せることではありません」


 修二は真剣な表情を真凛に向けていたが、予鈴のチャイムが鳴ったことで教室に戻っていった。


 

 真凛以外誰もいなくなった保健室で彼女は未だ目を開かない颯太に話しかける。


「ほら、もうあいついなくなったから目を覚ましていいよ」


「あぁ、ようやく立ち去りましたか」


 今まで目を開かずぐったりしていた颯太だったが、真凛の言葉で目を開き、体を起こす。


「やっぱりばれたか」


「当たり前でしょ?私を誰だと思ってるわけ?」


 不敵な笑みを浮かべて真凛が言うが、颯太は先ほどまでの臆病さは消え親しい人と話すような優しい表情をしながら返す。


「俺の頼れる指導役だろ?真凛」


 実は颯太はただの学生ではなく、国王制に変わったこの日本で秘密国家組織、『日本法外執行部』通称〈ジード〉の九人いるうちの一人であった。

 ちなみに真凛は政府の一員で、その顧問をしている。


 修二の優し気な笑みに真凛は頬を赤く染めてつぶやいた。


「・・・ほんとそういうところよ///」


「今なんか言ったか?」


「何でもないわよ。バカ」


「な、なんで急に罵倒されたんだ?」


 急に罵倒されたことに戸惑っていた颯太だったが、真凛の頬の赤みに気づかなかったのは真凛にとっては幸いだっただろう。 


 三分ぐらいしてようやく頬の赤らみが引いた真凛は真剣な表情をし、それに気づいた颯太も姿勢を正す。


「本当は授業が終わってからにしようと思っていたけど、今来たから言うわ。理事長が呼んでる」

 

 

 


 

 




 

  

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影の世界の英雄譚 始龍 @wootang

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