第6話

「えー、蒼大くん、初めてのめいちゃんに厳しくない?」とか、「めいちゃんって子も初めてにしたらよくやってたじゃん!」なんて声も聞こえてくる。


 初めては言い訳にならない。


 初めてだったとしても、初心者だったとしても、私がしたことはいけないことだ。


 もしかしたらもう、水瀬に失望したお客さんはもう来ないかもしれない。

 悪い噂が広まって、水瀬は水瀬蒼大としてもうここでは歌えないかもしれない。


「ごめん、水瀬。私のせいで、水瀬のパフォーマンスを、」


「もうそれ以上言うな。俺も悪かった。俺のせいでお前に嫌な思いをさせた。ごめん」

「謝らないで、水瀬。悪いのは私、私だから、」


「いい加減、お前は抱え込むなよ!」

 

 初めて、怒鳴られた。

 

「なぁ、一人でウジウジと抱え込むなよ! 立花は誰にも頼れねぇのか? そんなわけねぇだろ?」


「頼れる人なんているわけ無いでしょ! 環境に恵まれてるあんたと一緒にしないでよ!」


「そうだとしてもさ! 俺じゃダメなのかよ! 昔からずっと一人で笑って! いい加減にしろよ!」


 やめて、水瀬。

 私は、この選択を後悔してない。反省してないと言ったらウソになるけどさ、


「なぁ、辛いって言えねーのかよ!」


 ずっと、一人でいたかったの。

 それってそんなに悪いことかな? 新しいことを学びたいって悪いことかな?


「立花はずっと自分の好きなことをやってた。それを何を言われても曲げなかったのは尊敬する。スゲーと思う」


 知ることが好きだったの。水泳が特技って言ったり、ゲームが得意だって言うことは良いんでしょ? なら勉強が得意ならなにがダメなの?


「でも、何か言い返せよ! 何言われても、ニコニコってしてさぁ!」


 ねぇ、なんで勉強出来るってだけでどんどん離れていくの? 無視するの?


「ちょっとくらい、悲しいって言えよ! やめてって言えよ!」


 ねぇ、お願い。離れないで、みんなみたいに一緒に遊ぼう? 


「蒼大くんも言い過ぎじゃないかな?」「人にはいろいろあると思うんだよね。それに蒼大くんが干渉するのは違うんじゃない?」などと、周りが声をかけてくれる。


 きっと私をかばってくれてる。


 そんな周りの様子を見た水瀬は、「ちょっと場所帰るぞ」と、私の腕を引っ張ってカフェに連れて行った。


 近くの、私は行ったことのない小洒落たカフェ。そこは暖かい光が灯っていて、なんだかとてもまぶしかった。



外見だけじゃなくて、カフェの中もおしゃれだった。コルクボードにメニューが貼ってあって、水瀬はコーヒー、私はホットココアを頼んだ。


 私には悪いことしたからって水瀬がお金は出してくれるみたいだから、それに甘えておく。


 しばらく無言でホットココアをちびちびと飲みながらあの頃のことを思い出していた。

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メロンソーダの泡が弾けるころに 愛奈 @monaka_wagashi

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