第5話
その掛け声を皮切りに、さらに人が集まる。
「水瀬蒼大だよ! みんな、今日も盛り上がってる〜?」
それに合わせておーっていうたくさんの声。
黄色い声もいっぱい聞こえる。
やっぱり水瀬はすごいんだ!
「横にいる子、誰ー?」とかいう声が聞こえてくる。うぅ、怖い……。
でも、勇気を振り絞る。やらなきゃ。
「はじめましてー! 立花めいです!」
誰だよ! っていうお客さんのツッコミでみんなが笑う。私も気がゆるんだ。
「蒼大くんの元同級生です! 今日だけ一緒に歌います!」
おぉー、度胸あるなあいつ。どんな声なんだろ? 楽しみー! とか色々喋ってくれる! 嬉しいけど、けれど、怖い。また失敗するかも、
「あのことは気にするな。お前ならいける」と、小さく水瀬がささやいてくれた。胸がドキッと跳ねる。
「行きまーす! Popping Candy!」
難しいの来たねー。とか、相当うまいの? そんな声も聞こえてくる。
前奏が始まった。
軽快なリズムに合わせて、水瀬は体をゆすったり手を動かしたりしている。
私も負けていられない、と私も似たような仕草をする。まさに月とスッポンだけど、やらなきゃいけない時がある!
「目が覚めて、思い出すのは君の笑顔なの」
私のパートから始まる。
うん! 喉の調子もバッチリ!
「世界一キレイなものを見ているみたいだ」
水瀬はバツグンの安定感。
やっぱり水瀬はすごいんだな。
「わたしとかれの心のキョリはやくちぢんでほしい……」
歌詞が、出てこない!
どうしよう? いつも歌うときはこんなところでわかんなくならないのに!
お客さんが失望してる。クラスメートが冷たい目で見ている。
横にいる水瀬がびっくりして、目を見開いた。横の担任の先生が呆れた顔をした。
ダメ! たてなおせない!
やっぱりあのときの光景と今が重なって見える。
「ぼくらのキョリは近いのに、遠いと勘違いしている僕らだ! 私たちのこれは――」
私がもう歌えないことをこの一瞬で悟った水瀬が、私のパートまで歌っている。
ご丁寧に私の声真似までして。
折角期待してくれていたのに。一緒にやろうって声をかけてくれたのに。ごめん、水瀬。
私はやっぱりみんなの前で歌えない。
「好きなの」と、水瀬が曲を一人で終わらせたときには人はまばらにしか居なかった。
今日はもう終わりまーす! と半ばヤケクソで叫んだ水瀬はぐるりとこちらを振り返る。まるで鬼のような形相だ。
「おい立花、お前、どういうことだよ! ふざけんな!」
水瀬が半泣きで私を責める。
責められて当たり前だ。私のせいで水瀬のパフォーマンスをめちゃくちゃにした。
ごめん、水瀬。謝るだけじゃ足りないのはわかってる。でも、ごめん。
「うんとかすんとか言えよ!」
「ごめん」
「お前、それしか言えねーのかよ!」
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