第4話

「何よ」


 イヤな予感がして、鳥肌が立つ。

 

「お前」


 やだ、やめて。


「俺と一緒にさ、」


 それ以上言わないで。戻れなくなる。


「歌わねぇ?」


 言われてしまった。


「組もうぜ。絶対お前となら楽しくなる!」


 ごめん、水瀬。

 水瀬はきっと、善意で言ってくれている。


 けれど、私。

 歌いたくない。


「ごめん、水瀬。ムリ」その言葉を言い終わる寸前に、


「じゃあ、とりあえず今日お試しでやろうぜ。拒否権はなし。お前、歌える曲ある?」と水瀬が被せる。


 強引だな。

 拒否権ないんかい! そんなのほぼ強制じゃん!


 けれど、ここで答えなきゃ水瀬はテコでも動かない。

 それは、小学校からの知り合いの人はみんな知っている。もう、腹をくくるしかない。


 ふぅ、とため息をついて仕方なく聞く。


「どういう系?」「盛り上がれるやつ。機械が歌ってるやつでもいい」そんな簡単なやり取りで、私が選曲したのは、


「Popping《ぽっぴんぐ》 Candy《きゃんでぃ》。男女のデュエット曲だし、盛り上がれるし。何より今流行ってる」


「おー、俺はいける。あとは軽く、手とか動かしてくれたら。あと五分で始めるから歌詞だけ確認しといて」


 Popping Candyは、男女の淡ーい恋心を描いた曲。軽くてかわいいリズムの中に、どこがカッコよさがあるの。


 そして、最近この曲がSNSで爆発的な人気なの! 作ったのは私たちと同じ年のインターネットで活動してる人。同じ年なのにすごいよね。


 水瀬にサビだけ軽く歌ってもらって、水瀬に一番合いそうな声を探す。時々ハモったりするから、このへんはキッチリしておかなきゃ。


 二人であー、あーとやっていると、どんどん人が集まってくる。ヤバい、私の服ストリート系の服じゃなくってシンプルなやつだけど大丈夫かな? 浮いてないよね?


 どうしよう、こんなに人が来るの!? 人気の水瀬に新顔の私という組み合わせが気になったのかな? 

 

 それにしても昨日は後ろから見てて気が付かなかったけど、真ん中に立つ人はこんなに視線が刺さるんだ。やっぱり、涙が出てくる。足がガクガクする。怖い、どうしよう、


「立花めい、落ち着け。お前は今日だけ立花めいじゃない」


 私は今日だけ「立花めい」じゃない?


 そう思うと、なんだか自信が湧いてきた。今日だけ立花めいじゃないんだから、失敗しても大丈夫。


 涙も止まった。足のガクガクも止まった。もう歌える、歌いたい!


「今から、臨時ライブ始めまーす! ちょっと早いけどやります! 新人いるよ、すごい人だよ、期待しといてね!」


 大丈夫。私は、大丈夫。

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