第3話
いつもはまだかまだかと待ちわびて、ソワソワしている放課後も今日は来てほしくない。
知らない人、しかも男子にしゃべりかけられるほど私は度胸がない。
うたは、人見知りとは無縁で、サバサバしてるから気軽にアドバイスできるんだろうけどな。
けれど、決心をムダにしたくなかったからさっさと支度をして心が変わらないうちに電車に乗る。
さぁて、水瀬もどきは今日もあのパフォーマンスをしているかな? 私はしていないほうにアイスキャンデーを賭ける。お願い! 普通はパフォーマンスなんて毎日しないよね……?
……あ、水瀬は普通ってくくるには難しいかもしれない。でも、あのパフォーマンス疲れそうだし毎日はしないでしょ!
そっとビルの横から昨日水瀬もどきがいた場所をのぞく。水瀬はいるかな〜?
い、いたぁー!
そんな願いも虚しく、マイクの準備をしてストレッチをしている水瀬もどきがいた。
準備中です、と小さな黒板に書かれているからか、みんなは素通りしている。
話しかけにくいけど、誰にも遮られずに話すには今しかない。今がチャンスだ!
「あ、あのぉー「やっぱり、立花だよな!?」……は?」
「俺、水瀬蒼大! 立花めい、俺のこと覚えているか?」
や、やっぱり水瀬かー! やっぱりメガネ外しててもちょっと似てると思ったんだよ!
これをフラグ回収っていうんだろうか。
「……覚えているけど。二つ聞かせて」
「おう」
私はできるだけにまっと笑って伝える。
「なんで、ここでライブしてるの? あと、なんでライブ中に私の名前を呼んだの?」
沈黙。
数秒のことなんだけど、私にはものすごく長い時間に感じた。
「えー、なんかさ。楽しそうだったんだよ。元々小学校の頃から親に秘密でライブハウスとか行ってたりしたしさ」
一つ目の疑問、解決。
重要なのはもう一つだ。
なんで、ライブ中に私の名前を読んだのか。
ライブの途中、私だとわかっても無視すればいい。私なら、水瀬がいたらそうする。わざわざ声なんか掛けない。
水瀬がうなっている。
さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。
「正直に言っていい? 怒らない?」
「怒らないから、早く」
苦笑いをしながら水瀬が言う。
「正直に言うとさ。お前音楽得意だったろ? だから、飛び入り参加で即興で合わせて注目集める! っていう感じだったんだけど、」
深呼吸。
やっぱり水瀬は小学校からメガネ外してストリート系の服装に変えたこと以外変わってない。楽しいことがあったら周りの人を巻き込んで一緒にすることも。そういうところは水瀬の良いところでもあるけれど、悪いところでもある。
この怒りを抑え込もうとしたけど無理だ。もうここは素直に言ってしまおう。
「水瀬のバカ!」
ちょっ、おまっ、落ち着けよ! 大声出すな!と宥められて、ようやく落ち着いてきた。
確かに、水瀬のお客さんとかに見られたらいろいろと誤解されそうだ。例えば私と水瀬が付き合ってて、水瀬が浮気したとか、そんな感じに。
でも、元は水瀬が悪いんだからな。
そして、昔に水瀬のトレードマークとも言われていたことのあるいたずらっ子のような笑みを浮かべて水瀬は言う。
「で、さ。一つ提案があるんだ。とりあえず聞いてくれるよな?」
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