第2話

 ぐるぐるぐるぐる。


 頭の中がぐるぐるして、ぐちゃぐちゃしてくる。


 数学の授業終わりの教室。みんなは数学の応用問題で頭がぐちゃぐちゃみたいだけど、私はそんなことより別のことが頭を占領してる。


「どうしたの? めい。気分悪い?」と、優しい言葉を話しかけてくれるのは永野ながのうた。

 うたは私の親友! 西園寺学園に入学してから出会ったんだけど、とっても気が合うの。


「うーん、ちょっとね。知らない同い年くらいの男子に話しかけられたの」

 

 ……嘘は言ってない。事実しか言ってない。


「え、なにそれ。怖いやつじゃん! 不審者とかじゃないよね?」

「でもね、私の名前知ってたの。なんでだろ?」


 うたは余計怖いじゃん! と言ったあとうーん、とうなっている。

 

「あっ! もしかしたらこの学校の人じゃない? 先輩とか。そうじゃなかったら、同じ小学校の人とか!」


 同じ小学校の人?


 おなじしょうがっ……あっ!


水瀬みなせ蒼大そうた!」


「……誰なの、その人」

「いや、でも違うと思う。水瀬はメガネだったし、鼻の形似てるだけだし、小学校のとき水瀬はあんなストリート系の服着てなかったし。というかよく考えたらうたが知ってるわけなんだよね」


 ふーん、とうたがつぶやく。


 さすがに、いくら水瀬でも中学校入るからってあそこまでイメチェンはしないでしょ。


「まぁ、真相確かめてみたら?」 

「ってどういうこと?」


 そう聞くとうたはいたずらっぽい笑顔を浮かべて、あたかも良いことを思いついたかのように言う。


「本人に聞きに行けばいいんだよ!」


 すぅーと息を吸う。

 大きく吐く。


「私にそんなこと出来るわけないでしょうが!」


 教室にいたみんながびっくりしてこっちを見る。

 

 うたがゲフンゲフンとせきばらいをした。

 いけない、大きな声を出しすぎた。


「まぁ、でもそれしか本人か確かめる方法ないんだしさ、頑張らなきゃわからなくない? 今日聞いてきなよ」

 

 とうたは普通に言うが、それはうたのコミュニケーション能力があってこそなせる技だ。人と喋るのが苦手な私にはちょっと、ね。


「うた……正論言わないで……。そうだ、うたも着いてきてよ! 大体の人と喋れるくらいにはコミュニケーション能力あるじゃん!」とうたに縋る。


「ムリ、今日の放課後は用事あるから」と即答された。悲しい。

 私の親友は頼りにはなるけど時々辛辣しんらつだ。


 っていうか、部活じゃなくて用事なの?


 ……うたのことはまぁいいや、うたの言うとおり、気になるなら聞きに行くしかない。

 そう決意して、「よしっ! 私頑張る!」と叫んだ。


 横でうたが苦笑しながらぱらぱらと拍手をしてくれた。


 それを受けて、次の授業の教室に行こうと立つ。そしたら、私がよろけたからうたに爆笑された。


 ……解せぬ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る