水瀬蒼大と私
第1話
私、
勉強だけはムダに出来る中学一年生なんだ。
その勉強のおかげでこの超難関とも言われる西園寺学園に入学できたんだけどね。
西園寺学園は元の小学校よりとっても楽しい! 毎日がワクワクするの。
けれどね、私は人前に立つことがとーってもニガテなの。人の前にでると、自然に涙がでて、足が震えてへたりこんじゃうの。
直さなきゃって思ってるんだけど、なかなか直らないんだ……。
今日は月に一回の、ケーキを学校帰りに買って帰る日! お気に入りのケーキ屋さんでケーキを買って、一ヶ月のごほうびとして食べるの。
いつもそのケーキを食べる日は、なにか絶対にいいことがあるの! この間は家の隅からお気に入りだった失くしたヘアピンが見つかったり、小テストで満点を取れたりしちゃったの。
でも、今日はなーんにもいいことが起きてないの。ちょっと残念。でも、これからいいことが起こるかもしれないもんね!
……でも、この辺の道ちょっと怖いんだよね。
なんか、壁とかにもペンキとかスプレーで落書きしてあったり、みんなストリート系のファッションだったり……、正直ガラが悪いのは。でも毎回ケーキのために行ってるんだけど怖いな。
そんなことを考えながらケーキ屋さんに向かう。でも、今日はキャーとか、ワァーって感じの熱狂的な声が聞こえてきた。
……こんなところに盛り上がれるところ、あったっけ? 少なくとも先月はなかった、と思う。気がついてないだけかも知れないけど。
だからちょっとだけ気になってそーっと覗いてみると、まず耳に入ったのはよく通る声。
そこでは、同じ年くらいの男の子が歌っていた。
聞き覚えのある声と曲。多分、流行りのJ-POP。
その歌を聞いたとたん、体に電流が走った。
比喩とかじゃなくて本当に、体がビリってして、胸がバクンバクンと大きな音を立てる。
こんなに夢中になれることは、初めてだった。
みんなが盛り上がれるように、と有名アーティストが作った音楽を歌い、音楽に合わせてダンスをキレよく踊る。そのへんのアイドルなんて顔を真っ青にして逃げていっちゃいそう。
「……すごい!」
あ、男の子がこっちを向いた。
目があったそのとたん、男の子は歌うのをやめた。音楽が流しっぱなしになっている。
「おい、どうしたんだ!?」「トラブルあったー?」っていう観客の声がやけに大きく聞こえた。
「……立花?」
……どうして私のこと知ってるの!?
いや、絶対初対面でしょ、私はあなたのこと知らないもん! 学校でここまで目立つ人いたら知ってるって! なにこの人、怖い!
居ても立っても居られなくなって、私はそこからダッシュで逃げた。
あの子もパフォーマンス中に追いかけてくるほどバカじゃない、と思う。
ちょっとだけ振り返ると、あの子は私を見て少し迷ったような仕草をしたあと、お客さんに向かってトークをしていた。
「もう、ほんとアイツ、何だったのよ……!」
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