第31話 刺青の男
「おう、起きたか。」
腕に刺青のある大男は僕の顔を見て言った。髪は金髪で短く切り揃えられていた。二重だが目つきは鋭く、表情が険しい。身長は180センチはあるだろうか。タンクトップにジーンズという格好で、堂々とした肩の筋肉が顕わになっている。
見るからに自分の勝てる相手ではなかったが、僕はその男に嫌悪感を示した。
「どうして山田さんを置いていったんだ?僕は山田さんを助けに行く。」
僕はベッドから立ち上がって言った。だが、男は首を横に振る。
「やめとけよ。お前が行ったところで何が出来る?それにお前の連れが生きてる保証はない。」
僕はその言葉に胸の中からふつふつと怒りの感情が込み上げてくる。
「お前があの時見捨てたんだろ!?」
僕が声を荒げると男は僕の方をジロリと睨む。
「お前、オレ達に助けてもらっておいてその態度はねぇんじゃねぇのか?自分の命が助かっただけでも良かったと思えねぇのか?」
それから僕の肩に手を置いて続けた。
「お前の連れについては気の毒だったと思ってる。だが、もう諦めろ。」
僕は肩に置かれた男の手を乱暴に振り払った。
「そんな事、受け入れられるか!」
だがその瞬間、男の手が僕の胸ぐらを掴み、僕の身体を床へ乱暴に叩きつける。
「お前、いい加減にしろよ!?」
僕は打ち付けられた身体に激しい痛みを感じ、うめき声を上げる。
「おめぇは運良く生き残れたかもしれねぇけどな!何百人って人間が死んでんだよ!たしかにオレ達はお前のツレを置き去りにした。だがそれ以外方法があったか!?てめぇ、あの状況でツレを助ける事が出来たのかよ!?」
僕はかっとなって立ち上がり、男に向かってタックルする。しかし男は難なく僕の身体を受け止め、再び地面に叩きつける。僕はなおも立ち上がろうとするが、その瞬間男の四肢が僕の身体に絡みつき、締め上げられた。
クソ‥‥クソ!!
僕は自分の弱さが不甲斐なくなった。結局僕はダメな男のレッテルを貼られたままのうのうと生きのびている。クソ!なんで僕だけ生き残ってしまったんだ!ずっと山田さんに助けられてばかりだった僕が!気づいたら僕は涙を流していた。徐々に僕を締め上げていた男の力が弱められていったが、僕は地面にうずくまったまま、立ち上がる事ができなかった。
「メソメソしやがって。」
男は立ち上がってから吐き捨てるようにそういうと、部屋を後にしようとする。
「待って‥‥待ってくれ‥‥‥待って下さい!」
「あ?」
僕は地面に膝をついたまま、男を見上げる。
「本当に、山田さんを救う方法はないんですか?」
男はチッと舌打ちをして、
「諦めな。」
それだけ言って部屋を出て行った。
1千万年2人で生きた話 上海公司 @kosi-syanghai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。1千万年2人で生きた話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます