第56話「大それた望み」
「学校はどうだった?」
と礼音が聞くと、
「楽しかったわ! みんな親切だったし!」
とエヴァは笑顔で答える。
彼女はみんなが親切にしたくなる魅力がある、と礼音は思う。
(どうも自覚してない気がするけど)
そこも彼女の魅力かもしれない。
「レオンのほうはどうだったの?」
とエヴァは聞く。
礼音はそこで勲章をもらった話をする。
大事なのはサーベルフォックスにはじまる危険は去ったことなので、忘れずに伝えた。
「というわけで、取り越し苦労だったかもしれないんだ」
最後に自嘲と苦笑をわずかにつけ加える。
「そうだったの。みんなの危険が去ってよかったわ!」
エヴァは心底うれしそうに答えた。
(優しい子なんだな)
と礼音は思う。
明るくて優しい女子なんて本当にいるのだという驚きは、さすがにもうない。
しばらく彼女と触れ合ってきて、人柄が理解できるようになったつもりだ。
「レオン、ワタシと会って大丈夫? 探索行きたいなら明日から行ってね」
不意にエヴァは表情をくもらせてしまう。
他にやりたいことがあったんじゃないかと、今さらながら不安になったようだ。
「そんなことないよ。エヴァに会えて俺はうれしい」
と礼音はなぐさめるが、これは本心でもある。
他の女性だったらもしかしたら「ワガママだ」と腹を立てたかもしれない。
だが、不思議とエヴァ相手だとすこしもそんな感情がわいてこないのだ。
「ならいいけど」
エヴァはホッとする。
「ぶっちゃけいまは次の目標がないからね」
と礼音がさらに言う。
彼女により安心してもらうためのつもりだった。
「そうなの?」
エヴァがきょとんとする。
「あれ、言わなかったっけ?」
礼音はどうだっただろうと記憶をたどるが、よく思い出せない。
「あなたと一緒に過ごせる時間が素敵すぎて、ワタシ覚えてないわ。ごめんなさいね」
とエヴァが可愛らしく謝る。
「う、うん」
真正面から見つめられた上で言われると、礼音も照れてしまう。
「俺だって同じだよ。だからわかんなくなったんだと思う」
彼は恥ずかしさをこらえながら、何とか言葉を返す。
何だか一方的にもらっているばかりな気分なので、自分だってエヴァに返したかったのだ。
「ありがとう」
エヴァの微笑にチラ見していた周囲の人たち全員が見とれてしまう。
天使のような美少女という表現は、決して誇張じゃない。
(むしろ過小評価かもしれない、なんて思いはじめてきたぞ)
と礼音は思う。
ただいっしょに過ごしているだけで幸せで、時間が光のようなスピードで過ぎていく。
願わくばエヴァも似たような気持ちで過ごしてもらいたい。
(大それな望みな気がするが)
と礼音は自虐したくなりつつ、彼女のために祈る思いだ。
ユニークスキルで宝を無限に引き寄せ、悠々自適な生活 相野仁 @AINO-JIN
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