第55話「エヴァとデート」

「レオン!」


 エヴァは礼音に気づくとパッと笑顔になって、彼のところに駆け寄る。


「ごめん、待たせたね」


 待ち合わせ時間よりすこし早いが、待たせた以上礼音は謝った。


「平気よ! 待っているのもデートと考えたらとても楽しかったから!」


 とエヴァは笑顔で答える。


「デート?」


「あいつと?」


「ウソだろ」


 信じられないというつぶやきがいくつも聞こえた。

 全員が男性だが、目撃者たちの本音を代弁したと言えるだろう。


(まあ俺だって立場が逆なら信じられないだろうな)


 礼音は多少の優越感を味わうと同時に、客観的なことを考える。

 エヴァはスカウトやナンパの行列ができてないのが不思議なレベルだ。


 少なくとも外見的に彼と釣り合いはとれていないだろう。


 彼女が見た目を重視するようなタイプなら、この瞬間は実現していなかったと礼音はひそかに思っている。


「どうしたの?」


 とエヴァは可愛らしく首をかしげつつ、彼の左腕をとった。


「いや、やっぱりエヴァはきれいだなぁと思って」


 礼音はしみじみとつぶやく。

 女の子に面と言うのは彼にとってかなり照れくさい。


 それでも勇気を出せるだけの魅力がエヴァにはある。


「そう? ありがとう!」


 エヴァはうっすらと頬を紅潮させながら、笑顔で礼を言う。

 言われ慣れていることが想像できる反応だ。


「今日はあんまり時間がないし、カフェでもいい?」


「あなたとならどこでもいいわ!」


 礼音の問いに彼女は即答する。


(背伸びしなくてもいいのはありがたい)


 と彼はすこし安心した。


 一応彼なりに調べはしたものの相手は女子高生、しかも時間は午後三時を回っている。


 そうなるとなかなか難しいらしいと学ぶ。

 ふたりは移動して近くのカフェに入る。


 カップルや女性客がほぼ全員のおしゃれな店だった。


「わぁ! 素敵なお店ね! レオン、こういうところを知ってるの?」


「いや、事前に調べただけだよ」


 エヴァが好反応だったのはうれしいが、過大評価の部分は否定する。

 

「そうなんだ。ワタシのためにありがとう」


 とエヴァは礼を言う。


「どういたしまして」


 素直に言われたので礼音もさらっと言葉が出てくる。 


「エヴァは何か食べたい?」


 と彼は聞く。


「そうね。晩ご飯を食べないとだから、軽食と飲み物にしようかしら」


 エヴァは礼音が手渡したメニューを見ながら悩む。

 そしてメニューを彼に見せながら、


「ねえ? これ一緒に食べてくれない?」


 と上目づかいでお願いしてくる。

 彼女のほっそりした指が示しているのはオシャレな外見のパンケーキだった。


 礼音ならおそらく食べられるだろうが、エヴァにはすこしつらいかもしれない。


「わかった。ふたりで食べよう」


「ありがとう!」


 礼音が承知するとエヴァは飛び上がらんばかりに喜ぶ。

 いちいち大げさだなと彼は思いながらも悪い気はしなかった。

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