第54話「降臨した天使」

「表彰! レオン殿!」


 礼音が案内されてすぐ準備は整えられ、賞状と勲章をもらった。

 立ち会ったのは都市長の秘書や職員数名くらいである。


「勲章は胸につけておくといいですよ」


 と男性秘書が言ってつけてくれた。

 勲章は銅のメダルのような外見で、とても軽く邪魔にはならないだろう。

 

 終わって部屋から出たところで【ダブルウォッチ】を見てみると、2時間ほど時間が過ぎていた。


「これくらいなら許容範囲だな」


 と礼音は満足する。


「【ゲート】までの移動時間を考えるとあと三時間くらいか」


 大したことはできないだろうが、予定通りだ。


「エヴァとどこ行くか見ておこうか?」


 とつぶやいて我ながら名案かもしれないと、彼はほくそ笑む。


 エヴァは何でも喜んでくれるイメージが強いが、それに甘えて思考停止するのはちょっと情けない。

 

(喜んでもらえる努力はしておきたいしな)


 と思うのだ。

 エヴァは植物が好きらしいので、花や植物が多いエリアがよいだろう。


「植物や花が咲いている場所って、この付近にありますか?」


 とたまたま通りすがった女性に聞く。


「はい、すこし歩きますが!」


 女性は勲章をちらっと見たあと、輝くような笑顔で教えてくれる。


「ありがとうございます」


 愛想のよさに驚きながら答えた。


(もしかして、勲章のせいか?)


 と彼は予想する。

 他に態度がよくなる理由が思いつかない。


 都市リーメを歩いている間も、若い女性たちが礼音をちらちら見る。


(【宝蛇殺し】と知らないはずの人たちまで……)


 やはり勲章の存在は大きいのかと彼は思う。

 いままで感じたのは主にエヴァに向けられたものだった。


 もっとも都市リーメ内にかぎる効果らしいので、過信は禁物だろう。


 教えられた場所に行って下見をしたかぎりだと、赤い花と青い花があざやかに咲き誇っている。


 周囲にモンスターは不在で見晴らしもよい。

 観光スポットだと言われても信じられるだろう。


「なかなかきれいだな」


 と礼音は感心した。

 感性がいまひとつな彼が見てもきれいなのだから、エヴァが見ればきっと喜ぶ。

 

 そう考えて満足し、彼は【ゲート】をくぐって日本へと帰還する。

 まだ時刻は三時前だが、移動したところでちょうどよくなった。


「あれ?」


 待ち合わせ場所に行くと人だかりができている。

 

「まさか」


 礼音があることを思いついて近づくと、予想どおりエヴァが立っていた。


 可愛いと評判の神泉第一高校の女子のブレザー服を、彼女が着ることで周囲の視線を奪ってしまったらしい。


「あの子誰だろう?」


「メチャクチャきれい」


「東京に降臨した天使ね」


 足をとめてエヴァの美貌に見とれる男女はひそひそ話をしている。

 

(誰もスマホカメラをかまえていないあたり、モラルは高そうだな)


 と礼音はすこし感心した。

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