第53話「シュオからの誘い」

「サーベルフォックスが発見したあと、どうなっていますか?」


 と礼音は単刀直入に聞く。


「ああ、それがね。おかげさまで無事に解決できたよ! もう安心だ」


 シュオは笑顔で答えて、


「すべてはあなたが早期発見してくれたおかげだよ! 改めて礼を言わせてくれ、レオン殿」


 とうれしそうにつけ加える。


「おかげで討伐はすぐできたし、出費も比較的抑えられましたからね。本当にレオン殿のおかげですよ!」


 彼らの話を聞いていた男性職員が、やはり喜びに満ちた顔で話に入ってきた。


「そのことで都市長がぜひレオン殿にお礼を言いたい、表彰をしたいと言ってきてるんだが、どうだろうか?」


「表彰、ですか?」


 想定外のことを言われて礼音は困惑する。


 サーベルフォックスを倒して持ち帰ったことが、まさかこれほどのことになるとは。


「都市リーベの勲章も授与されるだろう。持っていると国内にかぎってはだが、融通が利くようになるよ。あなたにしてみれば誤差かもしれないが」


 シュオは遠慮がちながら説明をおこなう。


「……興味はありますね」


 礼音はすこし迷いながら答える。


(エヴァはきっと喜んでくれるだろうな)


 と思ったのが、表彰や勲章に対して前向きな考えになった理由だ。

 本来の彼は面倒だし興味があるわけじゃない。


 だが、エヴァに対して誇れることを積み重ねるのはきっといいことだ。

 彼は自分の心境変化にちょっと驚く。


「そうか? そんなに拘束時間は長くならないと思う」

 

 と言ってシュオはほっとする。

 礼音が引き受けたことに対してどうしてそんな反応をするのか。


 彼の視線に気づいたシュオは、


「いまの都市長とは古い知り合いでね。できれば説得してくれと言われていたんだ。本人の自主性を重んじろと答えておいたが……」


 と複雑そうに説明する。

 礼音次第ではあるが、無下にもできないということか。


「お気遣いありがとうございます」


 礼音は感謝の気持ちを告げる。

 ありがたく思えと上からきていたら、彼は確実に反発しただろう。


 シュオの人柄が大きいと思う。


「今日はあんまり滞在できないので、時間がかからないのはうれしいですね」


 と礼音が言ったのはいやみじゃなくて事実だ。

 エヴァと待ち合わせがあるし、今日の本命はそちらだと言える。


「大丈夫だ。ここの都市長は珍しくスピーチが短いことで有名なんだ」


 とシュオは答え、片目をつぶってみせた。

 彼なりの冗談だろうと思い、礼音は礼儀的に笑う。


「簡単なものだからよかったらこれからどうだろうか?」


「……いますぐで大丈夫なんですか?」


 シュオの提案に彼は驚く。

 都市長となれば忙しいんじゃないかというイメージが強いからだ。


「すぐにすむ予定だからな。しっかりとした式典をおこなうなら、無理な相談だ」


「ですよね」


 礼音は納得し、安心もする。


(まさかとは思うけど、5時間くらいの拘束時間を『短時間』と言われる可能性だってあったもんな)


 この分ならそれはないだろうと思えた。

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