僕と従弟の夏休みの記憶

ホラーというのは怖さが何より一番大事!という感じのジャンルではあるが、それだけがホラーではないと感じさせてくれるのがこちらの作品である。

篤の両親は、とある事情で篤の従弟であるマキオの家の鍵を預かっていた。そのためマキオは毎日のように篤の家を訪れ、篤はマキオのために彼の家の鍵を開けて上げるのが、夏休みの習慣になっていた。

なぜか日に日に減っていくマキオの家の荷物。夏休みに入ってから一度も姿を見せようとしないマキオの母などと気になることはあれど、篤は年上のお兄さんとして毎日のようにマキオの面倒を見ていたのだが……。

高校生になって全てを知った篤はこの小学生時代の夏休みを振り返りこのように語る。
「不思議と怖ろしくはなかった。」

決して怖くない話ではない。真実がわかったときにゾクリとするのは確かだ。だが、本作でそれ以上に目立つのが寂しさや物悲しさといった寂寥感。語り口の上手さもあって、ただ怖いばかりが怪談ではないというのをきっと実感させてくれるはずだ。

真夏のど真ん中に読んで背筋を冷やすというよりも、夏が終わりゆく時期に読みたい一作である。


(「夏の物語」4選/文=柿崎 憲)

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