最終話 ウチの2弦は切れやすい

 お、弦もみんな張り変わり、チューニングが始まりましたね。相変わらず持ち主さんの耳チューニングは正確なことで。ね、ボディーさん。


「だな! って、ピック君。俺もしゃべっていいの?」


 だって、めちゃくちゃ話したそうなんですもん。ですよね、ネックさん。


「そうね〜。久々に手に取っていただきましたしね。ボディさんもそうですけど、実は私もお話したかったんです。弦の皆さんがチューニングしてる間、ちょっとお時間いただきまして…あ、6弦さん5弦さん、ちょっと張り過ぎですかね。も少しだけリラックスしましょうか…」


「大体さー、最近流行はやりみたいなヒラヒラした音楽なんてウンザリなんだよ。やっぱ大音量だよな! ズギャーン!と鳴らさなきゃ! このバランス最高のアルダーボディが黙っちゃいないぜ? 弦をガンガン鳴らすにゃ、それなりのボディじゃなきゃな! ヘヴィでロックなサウンド聞かせてやらあ」


「お互い、長く大事にしてもらってますからね。木もよく乾いてしっかり締まってますし、色にも深みが出ましたねえ。ボディさんのキャンディアップルレッドの塗装も、いい感じに育ってますよ」


「お、なんだよ急に。照れるじゃん。メイプルのネックもかっこいい飴色になったよな」

「いえいえ、おそれいります」


 おふたりとも仲良しですね。


「長い付き合いだからな」

「ですね。お互い古参となりましたけど、今でもこうして活躍させて貰えるんですから、ありがたいことです。あ、古参と言えば、最近カポさんお見かけしませんね」


 カポさんというと……カポタストですか? それなら他のギタリストに借りパクされたみたいですよ?


「借りパク、ですか。長年使い込まれてようやく馴染んだのに、残念。ま、元々うちの持ち主さん、あんまり使いませんでしたしね……」


「お、お、お……こっちもいい感じですよ〜! 最終調整完了です!」


 あ、トレモロアームさんの最終チェックも入りましたね! ということは、指慣らしが終われば……



2弦「おい3弦、俺の見せ場でミスんなよ?(ウキウキ)」

3弦「そー言われても、ミスるのは演奏者であって私ではありませんが」

2弦「うるせー、気合いだ」

3弦「………(じーっ)」


ボディ「まあまあ、モメんなって。3弦、今日もよく鳴ってるぜ。元気出せ」



………ジャーーーーン!!!


全弦「キターーーー!!(よろしくおねがいしまーす!)」



……ポロポロポロポロ…パタパタタポロ……(キュィッ)♪


4弦「あれれ、皆さん、いきなりアルペジオパートからですよー」

3弦「パワーバラードですかね。お任せアレ」

2弦「俺の美音に口説かれるがいい」

1弦「おっしゃーーー!」


〜 中略 〜


 …キュイーン! ギュー〜〜〜〜ン!

6弦「お、俺の見せ場だ…… イェーーー!」

5弦「良かったっすね、6弦さん!! カッコいいっす、アヒャヒャ!!」

6弦「サンキュー5弦(相変わらす声デカ……)」


…ダバダバダバダバダビダビダビダビ……


〜 中略 〜


3弦「さぁ、爆速の速弾きパートですよ。皆さん、心して」

2弦「望むところだ! やったらぁ〜! 俺の美声に酔いしれな!」

1弦「っひょおおおおお〜〜〜!!!」

2弦「おい、1弦! おま、ちょ…押すなって!」

1弦「イェーー〜〜〜〜〜!!!」


…たらられりらろれろれろれろれうろろろろろうぉ〜(キュィッ)…うぉうぉうらりらりら〜(ギュイィ〜イィ〜イィッ)ぽろりら(ユイッユッユッユ〜イッ)…


ボディ「ああ、また……チョーキング満載」

ネック「1弦が暴走……」

トレモロアーム「ヨヨヨヨヨ(ああ、これやばい流れだ…)」


1弦「ヒャッハ〜〜〜〜!!! フォ〜〜〜〜!!!(チョーキング嵐)」

3弦「っと、こっちまでまた来た」

1弦「チョーキング祭りじゃぁあ! いったれ〜〜! ギュイギュイギュイ〜ン」

2弦「っ、だからぁ!!! てめえ1弦、何音上げてくんだよっ! やめろ、押すなって! いい加減にしろコラァ〜〜〜ッ!



一同「あ、2弦切れた…」





〜 おしまい 〜


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ウチの2弦はキレやすい 霧野 @kirino

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